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精霊物語  作者: aruria
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第六話 [ル・ロンド中枢]

「あのさーっ聞いてるー?」


半ばいらついたように話すこの少女は肩まである髪の毛を揺らしている。


少女の名はエル・レラルダ。


オレンジ色の衣装に動きやすそうなスパッツ。肩から半透明の妖精の羽のような2枚の布がひらひらしている。


前を行く少年を睨む。


「そりゃあさぁあんたの行動にはこれまでたっくさん振り回されてきたけどさぁ。わけぐらい言いなさいよ。」


前を行くアルヴァス・ジークハルトはなにも答えない。


アルヴァスは黒のレザージャケットの下に落ち着いた色のシャツを来ている。茶色の髪だ。少年は肩から鞄を斜めに下げていた。


「ねえったらーっ。」


「うるっせーなぁ。ガキじゃあるまいし。」


アルヴァスは鬱陶しそうに言う。


「なんであんなことしたのよ!」


アルヴァスは傷だらけであった。切り傷、打撃痕、火傷、擦り傷、髪も根本から強い力で引き抜かれ、血が出ていた。


エルの瞳が緩みポロポロと涙が溢れ落ちた。


顔を紅潮させ、泣き顔でアルヴァスを見ている。


「(私だけ無傷で・・・・)」


アルヴァスはばつが悪くなった。


「そりゃあな______」





少し前_____



「おめでとう!!君たち十人は精霊試験に見事合格した!!」


金のごてごてとした装飾を首から下げ、白地に青い模様のついたローブを着た男がそう高らかに宣言した。


アルヴァスとエル含む合格者10名は、司教に頭を下げていた。


「(やったーっ・・・・)」


小声でエルは言った。


アルヴァスもニヤリとした。


精霊試験が終了し、タルス宮の最深部にある聖堂で精霊になるための儀式が行われているようだ。


ルカ・ハンプティは上の窓からその様子を見ていた。


その聖堂は天井が高く、ルカが見つかることはなさそうだったがルカは十分注意して様子を見ていた。


祭壇の前に司教が立っており、その前を精霊試験に合格した者たちが片膝をついて頭を下げている。


その横で教典を持った導師たちが六人ほど。


さらに後ろの柱より向こうに、ドアの横に2人ずつ影に潜むように重装備の兵士たちが控えていた。


ルカが見える範囲では兵士は二十人確認できた。


「(・・・・精霊試験が終わった・・・あれほど僕が求めていた精霊になるための手段の1つが

潰えたんだ・・・)」


しかし、人間一人救えたのだ。ルカはあの行動にはまったく後悔していなかった。


精霊試験より今は・・・・イスラだ。


謎の女性はルカとは反対側の天井の通気口から顔を出した。


先程ルカはこの女性を見失い、この場所に来て、彼女も再発見したところだった。


あの女性が何を考えているのか分からない。


ルカは一挙手一投足に目を配っていた。


司教が長いローブを引きずって合格者の一人に歩みよった。


「伝説に良する者たちよ。その勇敢な術と誉れある精霊術に栄誉を認め、われらが精霊の主の御使いたる我らの_______」


「(やれやれ・・・・いつまで頭下げてなきゃいけないのかね・・・その上坊さんの退屈なハナシを聞いてると眠くなるぜ。)」


「(・・・・同感。やっぱり意味分かんないよ)」


「(こら!君たち司教様の前で無礼だぞ!付与の儀式の際は静かにしなければならないんだぞ!)」


アルヴァスの隣で同じように頭を下げている若者が二人に言った。


アルヴァスは無視した。


「(ごめんごめん。)」


エルは照れくさそうにそうかえした。


その若者はこう思った。


「(いや・・・・ごめんごめんって・・・違うだろ!その態度!この高貴な精霊試験でなんだその態度は!タルス宮で精霊の主に使える司教様の前で!なんでこんな奴らが精霊になる名誉を受けるのだ!)」


大聖堂は人に与えるプレッシャーを与えるところがある。


アルヴァスはそれを感じとっていた。



「______よって全てにおいて祝福されし我らからその方らに精霊の御霊を奉りしこのタルス宮で___」


アルヴァスはいらついていた。この威圧的な建物からこの胡散臭い司教から、全て気に入らなかった。


「____よって精霊の力をいざ与えん!!」


「手を。」


司教が一人の合格者の前まで歩みよった。合格者が手をうやうやしく差し出す。


「我が尊顔を拝することを許可する。」


ながひょろい顔の中肉中背の男が幸せそうに顔を上げた。


導師が丸いリングを運んできた。


司教が大袈裟な仕草で若者の腕輪にそのリングをはめた。どうやら腕輪だったようだ。


司教は全員に腕輪をはめた。


それを見て通気口のところで事の成り行きを見ていた、謎の女性の目がスっと細くなる。


「では・・・・・これより精霊を降ろす儀に移ります。」


6人の導師がいつの間にか十名の合格者を取り囲むように円状に歩みよっていた。


ルカはかなり高くの窓の所にいたので、導師たちは合格者を正円の形で取り囲んでいることが分かった。


導師たちは右回りに円を回し始めた。


いっせいに導師の口が動いた。何かの呪文を唱え始めた。紫色の光がまたたき呪文の奇妙なリズムとともに導師たちが踊るように合格者たちの周りをぐるぐるまわる。


導師たちの影が踊る。


「なんだ・・・・?」


ルカはその光景をみて異様さを感じた。


「なんだ・・・こりゃァ・・・」


アルヴァスは言った。


エルは不安そうにアルヴァスの服に手をかけた。


「ぐああっ!」


「ぐっ」


「ううっ」


合格者十名は苦しみ始めた。


影は加速して行く。


「なんだよ・・・・・こりゃあ・・・・ぐっ」


「苦しい・・・っ」


「おお・・・司教様・・・」


「痛みは一瞬です!精霊と完全になれば痛みは消え去ります!さあ!精霊までもう一歩です!」


呪文の大きさや苦しみ悶える中自分の存在をひけらかし誇示するように司教が大きく叫んだ。


「ぐっぃぃいいやぁぁぁぁ!」


合格者の一人が、奇声を発したかと思うと、



溶けていった。



いや溶けていったのではなく、変質していったのだった。人間の形だったものがただの肉塊へと変わった。


髪や爪から眼球から全て溶けて床に落ちるように変質していった。


アルヴァスとエルの目の前で試験を競い合った人たちが溶けていった。


腕自慢の大男も、さっきの若者も、ナイフ使いの女も、溶けておぞましい肉塊に変わってしまった。


それを司教は愉悦に満ちた形相で見ていた。


熱狂に浮かれる司教は見た。


タルス宮の大聖堂の暗闇に二つの影が落ちるのを。


1つはルカ・ハンプティ。


もう1つはルカが降りてきた側の天井とは反対側の通気口から、音もなく舞い降りた。

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