第三話 [夜聖都市を観光]
過ぎてしまったことは仕方ないなと思った。三年後にまた受ければいいとルカは歩きながら考えていた。
気が長いのがルカの特徴だった。
ベンチで一休憩したらこの街を見て回る続きを再開しようと考えていた。
「だいぶ時間できちゃったなぁ」
夜聖都市ル・ロンド
この世界リーゼ・マクシアの首都であるこの市は人口およそ四万人相当
木特有の踏みごたえを感じながら、坂道を降りつつ星空を仰いだ。
「ずっと夜だから不思議な感じがするな」
ルカが歩いている通路は地面をみると木目がみえる。通路は木で構成されているのだ。
橋も木でできているし、手すりもきでできている。
この都市のほとんど全てが木でできていたのだった。
ぼんやりと光るこの街を歩いていると人が住む家や建物で、大型のものは一定の建築様式に乗っ取ってデザインされているようにみえる。
ルカがよく建物を見てみると、あるはずの木と木の境目がなかった。
木は切って釘や木の組み合わせでその建物を建設するというのがルカの知ってる建築方法だった。
ルカのいた街ではそうだったし、他の街でも木で作られた建築物はそうだった。
ル・ロンドの建物は他の都市のような建築方法で建てられていないらしい・・・!
と不思議に思った。
知的好奇心が豊富なのもルカの特徴だった。
気になることがたくさん現れたので通りがかった人に尋ねてみた。
「ちょっといい?」
「??なにか?」
かきあげた髪のタレ目の、ル・ロンドでよく使われていた文様の服をまとった男性だった。
「ル・ロンドの建築物ってどのような方法で建築されているの?」
ルカは自分が知っている建築方法とここの建築方法は違うことを話した。
「そうだな。ここの家はね、家樹って呼んでる」
「あらかじめ草木を組み合わせておいて、それを精霊術士が精霊術で急速に成長させるのさ」
「急速に」
「おまえが考えてるよりずっと早いぜ」
「実際の建造時間は三分たらずさ」
「三分・・・・早い」
「他の街でもその方法が使えないのかなぁ」
「この街じゃなきゃうまくいかないみたいだぜ。誰か試したんじゃない?」
男の人が肩をすくめて言った。
「この街は日光がほとんど差さないから。植物の成長制御が容易なのさ」
「ははぁ」
ルカは感嘆し、ため息がでる。この街は驚愕するような不思議に満ちていた。
あの建築物たちは生きていたのだった。死んでいる建築物ではない日々成長する生命の家。
「木造都市と呼ばれる本当の理由なんだ。」
ルカが呟いた。
「もっと聞いてもいい?」
「いいぜ。この街に来たばっかなんだろ。どうせなら案内もしようか。」
「いいの?」
ルカは喜んだ。
「これから特に用事があるわけじゃないから」
ルカはニコッと笑いお礼を言った。
「僕の名前はルカ・ハンプティ。君は?」
「俺はイスラ・トーラスだ。」
ルカとイスラはより街をみるためにボートに乗った。
そのボートももちろん木製で生きていた。まっすぐ延びた葉脈がみえる。さながら巨大版の葉っぱの舟だった。
ルカが木の舟をさすりながら呟いた。
「まだ生きてるんだねぇ。君は。」
櫂で漕いでゆく。ボートと二人が発光樹で照らされる。
「この街のインフラは高い水準で整備されていてね、それにはこの発光樹が一役かっているのさ。」
「近づいてみたい。」
「まった。眩しいぜ」
「ちょっとだけ。」
ルカは発光樹が気になった。櫂を漕いだ。櫂が水を掻く音と水が流れる音がする。
この街は静かな街だとルカは思う。
しかし人の活気がない訳ではない。
「(音を水や樹木が吸収しているんじゃないかな)」
発光樹はとても眩しく触れるほど近くまでいくと光でなにも見えなくなった。
とても強く暖かい光だった。やはりこの光には精霊が関わっているんだろう。
イスラは顔をうずめ光を遮っていた。
「眩しくて目が痛くないのかよ?物好きだなぁ。」
イスラが文様の服に顔をうずめているせいでくぐもった声が後ろから聞こえた。
発光樹の光よりさらに明るい花びらのようなものがヒラヒラと舞っていることに気がついた
「なにか・・・花弁のようなものがある。これはなんだろう」
イスラがいじわるっぽく笑う。
「なぁそれを顔に近づけてみろよ。」
くふふと笑っていた。
どうなるか気になったので光る花弁を手ですくって顔に近づけてみると四散した。
すると・・・・くしゃみが止まらなくなった。
くしゃみをしながら櫂をこぎ発光樹から離れ、眩しくない位置まで遠ざかった。
「はっくしょん!・・・・どういう・・・はっくしょん!・理由で・・・はっくしょん!くしゃみが止まらなく・・・・はっくしょん!・・・・なるの?」
「ウヒヒヒ!知らないっ、ごめんな?でもそうだなっ、学者さまが言ってたんだけど、光の花びらが弾けて小さく小さくなって、それが体の中に入ると体が守ろうとして、そうなるのかもしれないって論文を発表してたな」
「そうなんだ・・・はっくしょん!でも体を・・はっくしょん!・・・守ろうとしてくしゃみがでるなんて・・・はっくしょん!・・・・ヘンな話だ」
「ヒヒヒヒヒヒヒ!」
イスラは笑って体をボートの上でよじっていた。