第一話:生徒会長アーサーの憂鬱
私立キャメロット学園。
現実世界で言うならイギリスのような国の一都市・キャメロットにある、幼稚園から大学まで完備の超マンモス校。敷地の中には学生寮や商業施設も揃っており、初めて訪れた人は必ずと言っていいほど腰を抜かすという大学園都市だ。
さて、物語はこのキャメロット学園の高等部で始まる。
大抵の高校には生徒会というものがある。キャメロット学園の場合、教師や経営から独立した生徒主体の組織として存在し、ぶっちゃけ行事の際には教師よりも生徒会の方が権限が強いのだ。名実ともに生徒の頂点である生徒会、しかもその会長ともなれば一体どんな人物なのだろうか。それでは少しだけ生徒会長の様子を覗いて、
「待てえぇぇぇアーサーぁぁぁぁ!! 今日こそはその会長の座を奪ってやる!!」
「僕だって会長になりたくてなったわけじゃないんだってばぁぁぁ!!」
…………えーと、現在涙目で少々ガラの悪い生徒十数人に追われているのが我らが生徒会長、アーサー=ペンドラゴンである。そう、この学園には会長の座を奪おうと目論むものたちがいる――にはいるのだが、通称『反乱軍』と呼ばれているものの実態はただのチンピラ集団、というのが全校生徒の認識だ。やっていることも日夜現会長であるアーサーを追いかけるだけ。正直アーサーも追われているから逃げているのであって、捕まったところで果たしてどうやって自分から会長職を奪うのかは知らないし知りたくもない。
とまあそれはいいとして、先程の叫びで分かるようにぶっちゃけヘタレなのだ。この生徒会長。だが仕事は確実だし人望もあるので、
「お前ら!」
「アーサーに」
「「何やってんだぁぁぁっ!!!」」
こんな感じで生徒会副会長と書記が助けに来てくれたりするのである。
***
「どうしたんだねペンドラゴン君、遅かったじゃないか」
「……放課後になった瞬間に反乱軍に襲われました」
「そうかなら仕方ないな」
副会長と書記が反乱軍を鎮圧もとい殲滅した後、アーサーが訪れたのは理事長室。生徒会長という立場である以上彼が理事長に呼ばれることは珍しいことではないのだが、それにしても今日は妙な緊張感が漂っている。
「実は、今日君を呼んだのは他でもない……」
「はあ……」
「親子の親睦を深めたかったからだ」
「…………帰ります」
「何っ!? 何故だ、何故帰る!」
「失礼しました理事長」
「何故そうよそよそしいんだアーサー! 理事長などと呼ばず父さんと呼べばいいだろう! 何ならパパでもいいぞ」
「だってここ学校! 第一父さ……理事長はそんな下らないことで僕を呼んだの!? 職権乱用にも程があるよ!!」
「下らないだと!? お前が高等部に進級して一人暮らしを始めてからというもの、この私がどれだけお前を心配しているか分からないのか!」
「その親バカっぷりが鬱陶しいから家出たんだけどなあ……」
ここまで、親子漫才をノンストップでお送りしました。
この学園の理事長はウーゼル=ペンドラゴン、他ならぬアーサーの父親である。そもそもペンドラゴン家はいくつもの会社を抱える名家で、このキャメロット学園もペンドラゴン家が設立したものだ。そして家をさらに発展させたのが現当主ウーゼル……なのだが見ての通りの親バカである。ちなみにアーサーの上には3人の姉がいるのだが、全員の同意によりアーサーが次期当主となることが決まっている。強いて言うなら同意していないのはアーサーくらいなものだ。
「大体、理事長が生徒会長を呼んで何が悪い」
「それが職権乱用! それに僕だって会長になりたかったわけじゃないし……ただ推薦を断りきれずに立候補したら何故か当選しちゃっただけで」
「何故か……なあ」
「正直反乱軍に会長職譲ってもいいかなとは思ってるよ怖いから逃げるけど。本当、何で当選しちゃったんだろう……」
「はっはっは、我が『学園の守護者』として認めた者が会長になるのは当然だろう!」
アーサーが硬直した。
アーサーとウーゼルの前にキラキラと光が溢れ、その中から一人の少年――いや、子供と言った方が正しいだろうか――が現れる。ちなみに身長約30cm。登場やそのサイズからして明らかに人間ではありえない。
「当然だ、我は神だからな」
……何で地の文に答えるんですか。
「だから我は神だと言っていr」
ああそうですね、神の力はよく分かりましたからちょっと黙っててください。
そう、このガキ……いやお方こそ、キャメロット学園の守護神・エクスカリバーである。学園を護っているのはどうやら本当の話らしいのだが、あくまで生徒の間で噂もしくは伝説になっているにすぎない。どこの学校でも七不思議というものはあるだろう、その一つだ。しかし何故か――いや何故かというか、ぶっちゃけエクスカリバーが彼を気に入ったからなのだが――アーサーとウーゼルにだけは見える。最初にアーサーとエクスカリバーが出逢ったときは、温厚な彼には珍しく近くにあった瓦礫を投げつけた程度には、アーサーはエクスカリバーを嫌っているのだが。嗚呼片思い。
「我は神だ。自分の護る学園を気に入らん奴が治めるというのも癪だからな。選挙の結果を少し弄るくらい……晩飯前だ!」
「朝飯前だろうそこは」
「父さんツッコむのはそこじゃない! ってことは僕はエクスカリバーの我儘で会長にさせられたってことでしょ? 冗談じゃない、僕は裏方の方が得意なのに!」
もういい、とアーサーは理事長室を飛び出す。ただしその際にきちんと最後まで静かに扉を閉めていくのは人のよさ故か育ちのよさ故か。
(何で僕……こんなトラブルばっかり呼び寄せるんだろう……)
自分の運の悪さというか、もはや体質を恨みながらアーサーは廊下を進んでいった。
ぶっちゃけアーサーの心労の原因はこれらだけではなく(最大の原因であることは確かだが)、他にも彼を悩ませることはいろいろあるのだが、今回はこの辺でおしまい。
***
ちなみに、アーサーが去った後の理事長室は。
「……行ってしまったな」
「エクスカリバー、どうしてあんな嘘をついた?」
「な、何の話だか」
「選挙の結果の操作なんてしてないだろう?」
「……アーサーは能力のわりに、随分と自分を過小評価する癖があるからな。支持率80%で当選したのが自分の本来の実力だと言ったところで信じまい」
「それは……確かにそうだろうな」
「アーサーが会長になってからは、騒がしいがかなり平和になった。我が暇すぎて昼寝できるくらいだぞ? やはり我が認めただけのことはある」
「当たり前だ、私の息子だからな」
実はアーサーは、キャメロット学園の歴史的にも稀に見る超有能な生徒会長なのだが、それを知らぬは本人ばかり。