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14 決めたこと

「何で、二人もいるのかな」


 次の日曜日。

 さっちゃん先輩に誘われ遊びに行くことになった私だけど、何故だか待ち合わせ場所には七海と翼の二人がいた。


「あははは……桃花ちゃん」

「まあ、何だ……気にするな桃」


 気にするなと言われても気になる。

 まあ、結局の所二人でとはさっちゃん先輩も言っていなかった。それに本来の目的は遊ぶことではなく、さっちゃん先輩の話しを聞くことだ。


「わあー見てみて! ここのジェットコースター角度がすっごい急だよー」

「オオ、バンジージャンプがあるじゃないかぁ!」


 何故に絶叫系ばかりに目が行くのかがすごく疑問になる。しかし、絶叫系にしろなんにしろ二人とも目を輝かせている顔を見ると、遊ぶことが本題にしても良い気になってきた。


「……七海と翼の二人は楽しそうだなあ」


 若干口の端を引き攣らせたさっちゃん先輩がそう呟きながら、遅れてやってきた。


「遅いですよー」

「すまん。また寝過ごしてた」


 その一言で先週の日曜のことが頭の中で再生される。あの日訪れた時間は昼過ぎで、今日は十一時前。それに比べればマシだけど、多分ほんの三十分前まで寝ていて慌ててきたのだろう。

 はっきり言って呆れた。

 自分で誘っておいてこの人はこれなのだから。真面目に何かを考えているのか、それともふざけているのか分からなくなる。

 でも、真面目に考えているからこそ今こうして踏み切っているのだろう。


「そう言えばさっちゃん先輩って絶叫系苦手なんですか?」

「俺はジェットコースターやバンジージャンプ、おばけ以下に類するものは苦手だ」

「ものすごく晴れた顔で言われてもカッコ悪いですよ」


 さっちゃん先輩は反論する言葉が思い浮かばず、あははは、と苦く笑った。

 なんだか最近はさっちゃん先輩の弱点を知る機会がよくある気がする。だらしがなかったり、情けなかったり、といった姿ばかりを見る。

 でも、不思議だ。

 そう言った部分を見ても、私の心の中心にある気持ちと言うのはまったく揺らがない


「さて、行きますか。おーい、七海、翼! 行くぞー!」

「全部さっちゃん先輩の(おご)りだよー!」


 余計なひと言を加え、私も未だ小学生のようにはしゃいでいる二人を呼んだ。さっちゃん先輩は顎が外れ像なくらい顎を外して驚いていた。


「何言ってるんだよ、桃花! んなこと、出来るわけないじゃん!」

「え~本当ですか~! さっちゃん先輩太っ腹ですね‼ ありがとうございます‼」

「オオ、マジですか‼ さっちゃん先輩ゴチになります‼」


 さっちゃん先輩のお財布事情などお構いなしに、もう奢られる気満々の二人。その二人の嬉しそうな様子を見ながら、私は口の端を悪戯気に持ち上げる。


「どうしますか、さっちゃん先輩? 可愛い後輩の笑顔を潰す気ですか?」

「……はあ、分かったよ。奢ってやるよ」


 私の意地の悪い一言に、引けに引けなくなったさっちゃん先輩は長い葛藤の後ため息を吐いて了承した。

 結局の所どんなにだらしなかったり、情けなかったりしても、さっちゃん先輩はいつも通りだった。それが妙に嬉しかった。

 私は嬉しさから笑みを浮かべ、さっちゃん先輩の手を引っ張っていく。

 ただし、さっちゃん先輩の歩幅は徐々に狭くなっていった。


「なあ……段階を踏んでから乗らないから」

「なーに、言ってるんですか! こういうのを最初に乗って景気づけしなくちゃだめですよ!」


 引き攣るさっちゃん先輩とは対照的に、拳を握って力説する私。どっちが先輩で荒廃なのかよく分からない。


「それに~これのらないと、遊園地じゃないですよ!」

「それで、最後にまたこのジェットコースターに乗るんだよな‼」


 七海と翼の二人の追撃にさっちゃん先輩は顔を真っ青にさせ、今にも逃げ出しそうな体制をとる。がしかし、首根っこを運動部で力のある翼が掴みさっちゃん先輩はそこから一歩たりとも動き出せなかった。


「もう少しやんわりした物から乗ろうぜえぇぇぇ――!」


 悲痛な叫びはどうしようもなく響いた。

 その十分後。


「もう乗らねえ……絶対に乗らねえ」


 さっちゃん先輩はジョットコースターのあるアトラクション近くのカフェで、小さく身を震わせていた。顔色も先程より悪い。

 絶叫系が苦手だというのは冗談だとばかり思っていたけど、どうやら本当らしい。これから絶叫系オンパレードはどうするつもりなのだろう。

 さっちゃん先輩は平常心を必死に取り戻そうとしているけれど、それもいつになる事やら。


「そ、そうだ。まだ、お昼食べてないからた、食べようぜ」


 この有様だ。

 舌が上手く回らず言葉が上手く発しきれていない。


「確かにそうですね。私おなかペコペコですよ」

「ねえねえ、桃花ちゃん。何を頼む? 決行種類があるから迷っちゃう」

「奢りだから食べたいものを複数頼めばいいんじゃないのか」

「あ、あのさ、三人共? 世の中には親しき仲にも礼儀ありと言うだろう。なるべく手加減してくれ」


 ジョットコースターに乗ったこととは別で、さっちゃん先輩は財布の中身を見ながら顔を青ざめている。

 哀れだなあ、と思いつつ私たちは次々に食べたいものを注文していった。


「お前ら太っても知らないぞ」


 せめてその毒を吐くのがさっちゃん先輩の精一杯だった。

 次々と運ばれてくる注文した物を、私たちは美味しそうに食べる。さっちゃん先輩は顔を青ざめさせながらも、ナポリタンを満足げに頬張っていた。

 食べ終えた私たちは、次にお化け屋敷に向うことにした。


「さあ、バンジージャンプに行きましょう、さっちゃん先輩!」

「俺はいーやーだー‼」


 逃げようとするさっちゃん先輩の首根っこを言うまでもなく翼が引っ張り、さっちゃん先輩は連行されていった。

 そして、飛び終わった後のこと。


「さっちゃん先輩大丈夫ですか?」

「……、」


 ああ、はい察しました。

 という風にさっちゃん先輩は顔をさらに青ざめつつ、私たち一緒に次々とアトラクションに乗っていく。


「さーて、最後に観覧車に乗りますか!」

「おい、翼。最後はまたジェットコースターじゃなかったのか?」

「乗りたいんですか?」

「いや、いい」


 どうせ振り回されるくらいなら、まだ動きがゆっくりな観覧車に乗った方が良いと思ったからだろう。ものすごく賢明(けんめい)な判断だ。

 さっちゃん先輩は私たち三人に手を引かれながら観覧車に乗るための列に並ぶ。少し待たされたあとついに私たちの番がやって来た。

 先頭である私とさっちゃん先輩が先に入ろうとした時だった。


「わっ!?」

「おいっ!?」


 私とさっちゃん先輩は七海と翼に背中を押され、観覧車の中に押し込まれた。振り返るとすでに扉は閉められており、ゆっくりと上昇していく。見下ろした場所では二人が手を振りながら笑っていた。


「完全にあの二人に嵌められたな」

「ですね」


 二人して眉を上下させる。

 そして同時にため息を吐いて、


『あはははっ‼』


 ひとしきり笑いあった。


  ◇◇◇


 観覧車の窓から夕日の陽が射しこんでいた。

 私とさっちゃん先輩を優しく照らしている。


「……、」

「……、」


 ただ、笑いが引っ込んだ後の私たちは窓の外を眺め、黙り込んでいた。お互いに何も言わない。その時間だけが続いていく。

 でも、悪くない。


「あのさ」


 先に口を開いたのはさっちゃん先輩だった。

 さっちゃん先輩は真っ直ぐと私の顔を見据える。私も引き寄せられるようにさっちゃん先輩の顔を見た。


「不思議なもんだな。喧嘩してたってのに今日はどういう訳かいつも通りにいられた」

「そう、ですね」


 そうだ。私とさっちゃん先輩は喧嘩をしていたんだ。でも、それは私の一方的なもので喧嘩と言うのには少し違う気もする。

 とはいえ、今こうしていられることは不思議な気がした。

 今日までの間、私はまともに口を利かなかった。謝りもせず、まともに顔もあわせもせず過ごしてきた。

 そう言えばその間に、七海に謝れた。


『ごめんね。桃花ちゃん』

『え?』

『私が気があるんじゃないかって言っちゃんたから悩んでいるんだよね』


 その全ては何もしていなかった私の責任だ。けど、七海は謝ってきた。

 そして翼も。


『そうだな。その時に何も言えなかったウチも悪い。ごめん、桃』


 私は二人の言葉を聞いて、本当に良い友達を持ったと思った。


『大丈夫だよ! もう、踏ん切りはつきかけているから!』

『……桃花ちゃん』

『……桃』


 そう。

 あとは何時踏み込むかだけだ。


「月曜日さ。学校に戻った後、お前の様子のことを聞かれて答えたら色々と言われたよ。もう一生分の罵倒を浴びせられたな」

「……そうかもですね」

「おまけにそれを淡島先生にも聞かれて止めを刺された」


 なんでだろう。その場に居合わせていなかったにも関わらず、その時の状況が鮮明に思い浮かぶ。


「で、言われたよ。『落ち込んでんじゃないわよ。それはアンタの失敗じゃない。桃花の失敗なんだから』ってな。意味は分からんが、それでも何となくこう言われている気がしたんだ」


 それはなんだろう。

 とても気になる。


「『桃花が何か言ってくるまで、どんと構えてなさいよ』ってな」


 だからさ、とさっちゃん先輩は言葉を続ける。


「待つことしか出来ないから待ってるよ。お前が何かを伝えて来るまでさ。この観覧者みたいに気長にさ」

「はい」


 私は伝えるんだ。

 この気持ちを。

 誤魔化しようのない気持ちを。

 抑え。

 嘘を吐いて。

 捨てようとした気持ちを。


「待っててください。必ず伝えますから」


 伝えるんだ。

 この気持ちを。

 絶対に。


  ◇◇◇


 夜空に輝く満天の星々。

 近江公園から見える景色は今日も綺麗だった。


「久しぶり、宮﨏さん」

「あ、月島君」


 風邪を引いた日以来、久しぶりに音連れた私は月島君と出会った。彼はいつ戻りカメラなどが入ったスポーツバッグを肩に掛けている。

 私は彼の顔を見て告げる。


「決めたよ。明日伝えるこの気持ちを」

「そう。覚悟を決めたんだね」

「うん」


 私は力強く頷く。

 月島君は笑いながら。


「頑張ってね」

「頑張るよ」


 頑張って――。


「手を伸ばしてみるよ」


 だって。

 追いつきたいから。


「ううん。手を伸ばすんだ」


 高く。

 高く。

 手を星々に向って伸ばしながら誓った。


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