vsワイバーン
一斉に駆け出す二人。無論、逃げる為にである。
「冗談じゃないぞ!!てめえ!どっから引っ張ってきた!」
一正は全力で逃げながら厄災を持ち込んだ後輩のフレデリカに愚痴った。
「となりの荒野エリアでいつものように射撃訓練してたらいきなり襲われました。テヘ♡」
かわいらしく金色の髪を傾け、舌をちょっとだけ出してポーズをとった。全力疾走しながら。一正は微妙にスペック高いな、と思いながら同じく全力疾走中だ。が、次の瞬間、背後に熱気を感じると同時に後輩に全力の体当たりを喰らわせた。
「ちょ!!」
フレデリカは文句を言おうと口を開いた瞬間、背後から火炎放射器のように炎が通り過ぎて行った。すぐにあたりの草木が火と煙を充満させる。
『ガル!グルルル・・・』
どうやらワイバーンはターゲット見失ったらしい。長い首を左右に揺らしながら近くに潜んでいるだろう獲物二人を探し出しだそうと付近を行ったり来たりしている。
「よくもまあ、あんなもんを作ったもんだ・・・」
一正はやれやれと首を振りながらそうつぶやく。確かに疑似怪物は自然界に存在しない架空の怪物である。それをまるで本物のように存在させることは惑星管理部の涙ぐましい努力がうかがえる。
「どうします?先輩・・」
そう、フレデリカはやはりかわいらしく聞いてきた。
「・・・・・お前、持ち物は何を持っている?ちなみに俺は大刀といくつかの傷薬くらいだ」
「・・・・よくそんな軽装備でこんなところまで来れましたね・・・・」
「うるさい。金がないからしょうがないんだよ!」
かなり呆れられている一正。どうやら彼の装備での“狩り”はかなり非常識なようだ。
「スイマセンが私も実は最初に襲われたときに装備のほとんどを失ってしまって・・・狙撃銃とサバイバルキット一式位です・・・」
フレデリカは申し訳なさそうにいい、一正はやれやれといった感じでため息を吐いた。まあ、一正は偉そうにする理由がないのだが。
数瞬、一正は悩んだように考え込むと
「確か、サバイバルキットには非常用レーションが入っていたな・・」
「まあ、ありますけど・・・・あんなマズイもの、どうするんですか?」
非常用レーションは砂糖を固めたような形の物で味は甘くてからくてしょっぱい、わけのわからない味ではっきり言ってどんな人でも一口で閉口してしまうものなのだ。
「・・・食べるんだよ」
「マジですか!・・・なんか最後の晩餐がレーションって、先輩、もしかしてM?」
「ちゃうわ!!俺たちは狩人だ。狩るんだよ!あれを!!」
「正気ですか、先輩!!」
確かにそう思われても仕方がなかった。通常、中レベルエリアの上級モンスターといえばプロの狩人でも5名以上のチームを組んで狩るのが通常だったからだ。
「大丈夫だ。前衛がいて、後衛もいる。何とかなるさ、というか何とかしないとこっちがヤバイ」
「・・・それでまずはエネルギー補充、ですか」
「そういうこと」
フレデリカは腰のポーチから黄色い色をした四角い物体を取り出した。
「・・・これを食べる日が来るとは・・・涙が止まりません!」
「・・・黙って食え・・」
一正はともかくフレデリカは留学生として編入してきた出身惑星に帰れば結構なエリートのはずだ。山海の珍味とはいかないだろうが人並み以上の食料事情だったことは想像に難くない。
時間にすれば数分、一正は平然と、フレデリカは涙を流しながら一塊を食べつくした。
「いくぞ!俺がまず気を引くからその間に狙撃ポイントに移動してくれ。あとは打ち合わせ通りにな」
「ウップ・・りょうかい・・」
(思考加速、神経伝達強化!!)
一正はナノマシンに次々と指令を送る。エネルギーの補充が十分なのでスムーズな戦闘態勢の移行ができた。そして一正は大刀を構える。そして未だうろついているワイバーンの視界にわざと入った。
「こっちだ。トカゲ野郎っと!」
返事には熱いブレスが返ってきた。一正は意外とあさりと躱した。彼の能力はどうやら食糧事情によるらしい。
(体が軽い!コレならどんな奴にも負ける気がしねえな!)
さらに加速する一正。あっという間にワイバーンの懐に潜り込む。
「くらいな!!」
大刀を振りぬく。
『ガキン!!』
まるで金属同士がぶつかったような音が響く、が、ワイバーンの体にほんのわずかな傷を付けただけだった。
「チッ!!」
舌打ちをして距離を開ける一正。しかし、ワイバーンもすぐさま反撃をしようと牙を伸ばす。だが、そこに遠方から数発の銃撃が浴びせられる。銃声はしなかったが十分ワイバーンの気勢をそいだようだ。その隙に一正は態勢を整えると先ほどより勢いをつけた一撃をぶちかます。
『グルル・・』
先ほどより深い傷と衝撃を与えたようだ。少しだけ苦痛に満ちたうめき声をあげるワイバーン。だが、腐っても上級モンスターだ。態勢を崩しながらも長い丸太のような尻尾を横薙ぎに振り回した。
「く!!」
わずかに反応が遅れ尻尾の先端がわずかに脇腹に当たってしまった。
(治癒力強化!痛覚鈍化)
素早く指令をだし、最小のダメージで乗り切る。苦しいはずだがその時、一正はにやりと口角を吊り上げ始めていた。
「どうした。こんなものか?」
どうしたことだろうか、スコープの向こうではあろうことか挑発までする一正の姿が映っている。スコープで覗いていたフレデリカも驚き、見入ってしまうほどその笑顔は驚くほど獰猛な獣性ときらめくようなオーラがあふれていた。
(あれが、先輩?)
フレデリカは何度も確かめるようにスコープを覗くが、事実は変わらない。見るとワイバーンも一瞬恐れるようなしぐさをする。そして自分が恐れてしまったことが信じられないのか
『ガアアアアアアアア!!』
離れていても聞こえるほど大きな雄叫びを上げた。
(いけない!)
フレデリカは思った。なぜか分からないがワイバーンの闘争心に火がついたように思えたからだ。慌てて引き金を引く。慌てて打ったせいか、2発目と5発目ははずしてしまうが、ワイバーンの瞳には目の前にいる一正しか映っていないかのようだ。口を大きく開け無造作と思えるほど突っ立っている一正に向かって突撃する。フレデリカの胸の奥から湧き出たのは恐怖だった。目の前でまさに知っている人物が食われようとしているからだ。彼女はがむしゃらに打ちまくる。しかし、スコープにはたいしたダメージを受けたように見えないワイバーンが相変らず突撃を行っている。
(先輩!)
その思いが通じたかのように一正が滑り出すように動き出した。口角を上げきり、八重歯が覗くほど笑っている一正の姿がその時のフレデリカの目には当たり前のように映っていた。
「うをおおおお!!」
獣のように吠えた一正と
『グワアアアアオオオ!!』
正真正銘の獣が雄叫びを上げてぶつかる。一正が一撃を浴びせ、すぐさまワイバーンが反撃する。ワイバーンの攻撃をかわすか、弾くかしてどうにか一正は攻撃の均衡を保つことができた。
一方、ワイバーンは生来の頑丈な鱗で攻撃を受けようがそのまま攻撃してくる。一正やフレデリカの攻撃に防御する必要性を感じていないのだ。
(それが狙いなんだがな!!っと)
ものの数分間の攻防であったが、一正の息は乱れ、フレデリカの銃撃は効果がなく、ワイバーンは圧倒的な力の差に自信を深めた。
!!
ワイバーンが余裕を見せた瞬間、一正は弾かれたように突撃していった。それは素早く意識が全身隈なくめぐっているようなしなやかさを感じる動きだったが、それは不用意な突撃にしか見えなかった。
ワイバーンも本能的にそう察したらしく致命傷を与えてやろうと最大の武器であるびっしりと並んだ牙を見せつけるように大きく口を開き、それを迎え撃った。
両者が激突して数瞬後、すっかり加熱しきって撃つことができなくなった銃のスコープは不可思議な現象をとらえていた。
(!!先輩!)
そこにはうずくまるワイバーンと左手を口蓋にに突っ込む一正の姿が映っていた。
(いったい何が?)
少しだけ落ち着きを取り戻したフレデリカは当たり前の疑問にやっと気が付いた。
話は数瞬前に戻る。
最初、一正はたたきつけようとするかのように大刀を持ち上げていた。が、まさにワイバーンと交錯する寸前、強引に突きの態勢へと移行した。目標はワイバーンの口の奥、そこは鱗に覆われていない脆弱な部分だった。すぐに目的を察するワイバーン、そしてすぐさま強靭な顎で大刀を挟み込む。さすがに噛み砕きはできなかったが、一正の力では押すことも引くこともできない状態になった。ワイバーンは大刀をそのまま遠くに投げ去ってやろうとした時、一正の左手が口蓋へ侵入しワイバーンの舌を掴みあげたのだ。
(!!!!)
引っ張り出された舌に動きを止めるワイバーン。一正はそのまま舌を地面にたたきつけようとする。と、ワイバーンの本体もつられるように倒れこんだ。どうやら舌を掴まえっると体を動かすことができなくなるようだ。そして
「俺の勝ちだ!」
口角を最大まで上げきった一正は力のかかっていない大刀をそのまま奥へ突き刺した。わずかな手ごたえと共に突き抜ける大刀。そしてワイバーンは輝く白い砂へその姿を変えた。
結構、長めになってしまいましたがいまいちですね。もっと研究します。やる気UPになりますので評価、レビュー、感想等、くれるとうれしいです。