プロローグ
宇宙世紀399年3月28日早朝 惑星ジエンド
宇宙世紀、その名の通り、人類が宇宙に定住するようになって改暦された暦である。厳密には月面都市ムーンドーム1号が建設され始めてから数えだすので正確ではないが、一般的にはそう認識されている。それからもう間もなく5世紀になろうと言うのに、ここ惑星ジエンドの主要産業は“狩り”なのである。
窓から軌道エレベーターを眺めるといくつもの光点が瞬くように出たり入ったりしている。新たな入居者が押し寄せてきているのだろう。しかし、そんなことは関係ないと言わんばかりにベッドで爆睡している男がいる。
『ピピピ、ピピピ、ピピピ・・・』
目覚ましの電子音が鳴り続けているのに全く反応がない。相当、眠りが深いらしい。
『ドンドンドンドン』
誰かが階段から昇ってくる音がする。電子音と比べて大きな音ではないのに男はビックっとおびえるような反応を示した。
「お兄ちゃん!!いい加減起きて!!」
まだ、小学校高学年くらいの女の子がツインテールを振りかざして部屋の真ん中に仁王立ちした。
「あと、十分・・・いや、五分・・・いや、3分30秒でいいから・・・」
男は未練がましく布団に潜り込んだが、
「ダメ!!もう朝ご飯できてるし、早くしないとハンター用のバスが出ちゃうよ!!」
そう言うと、ツインテールの女の子が布団の縁を両手でしっかり持つと、男の布団を引っぺがした。布団の下からは中肉中背の黒髪の男が出てきた。彼の名は東郷一正、17歳の高校生。布団を引っぺがしたツインテールの女の子は妹の瑠璃、12歳の小学生である。共に惑星ジエンドで生を受け、育った生粋の住人だ。
妹から叩き起こされた一正は低レベルエリアに向かうハンター用バス|(実はハンター専用というわけではないがハンター以外使わないのでハンター用と言われる)に乗り込む。ふと窓からの景色を見るとやっと朝日が顔を出したところであった。明るくなっていく外の風景は森があり、荒野があり、海があった。もし、地球出身者がいたら違和感のある光景だろう。なぜならこの惑星はある目的ために作られた惑星だからである。
惑星ジエンド、銀河で最も有名な星の一つであるこの星は、元は一人のナノマシン研究者が研究用に開発した実験惑星であった。彼の研究テーマは“汎用ナノマシン”つまりは一種類で複数の医療用ナノマシンの働きをし、同時に産業用、家庭用ナノマシン、さらに軍用ナノマシンと同様の働きをするという、素人目にも無茶じゃね?と言いたくなるようなとんでもない品物だった。彼はこれまで蓄えてきた資金と知識と情熱を持って研究し、なんと成功させてしまったのだ。
ところがそのナノマシン、かなり使い勝手が悪い物であった。そもそも、怪我を治療し、免疫を高め、筋力を増強し、五感を強化し、神経系や思考力を高速化するetc,etcなど効能が強力なのは良かったのだが、その機能が発現するには恐ろしいまでの時間と訓練が必要だったのだ。当時の研究者の中には複数のナノマシンを飲む方が効果的だと皮肉を言われる始末であった。
だが、彼は諦めなかった。通常の訓練で時間がかかるならばそれを短縮できる環境を作ってやればいいと天才となんとかは紙一重という格言を地で行くような計画を立ち上げ、惑星ジエンドの大規模なテラフォーミングを開始したのだった。
結果、生まれたのが主産業“狩り”の惑星ジエンドである。参考にしたのは某アクションゲームとも某RPGともいわれる奇天烈で面白く、しかもハマるゲームのような世界ができてしまったのだ。
「とりゃああ!!」
すっかり明るくなった低レベル森林エリアに一正の声が響く。掛け声とともに振り下ろされる大刀。明らかに片手で持てる大きさではないが一正は余裕の表情で振り回していた。彼に攻撃されている2~3mくらいの4足歩行動物は草食恐竜のような形状をした物だった。それが右肩あたりから左脇にかけて両断される。
『ブモォォ~~!』
少し間抜けな声をあげて斬り倒される。するとまるで白い砂で出来ていたかの様にサラサラと崩れ落ちて行った。
それは疑似創造怪物と呼ばれる。ナノマシンで構成されたモンスターだ。衛星からの信号でコントロールされたそれは、体内でさまざまな物を生成する。例えばインゴット、単一結晶体、セラミック物質など多岐にわたる。狩って得た物質だけで宇宙船が作れると言われるほど精度が高い物ばかりだ。換金すればそれなりのお金になる。
「ほんと、ゲームだよな・・・」
少し呆れ気味に崩れた砂をかき分けると
「お、あった、って鉛筆かい!」
出てきたのは黒鉛で出来た黒い棒を六角形の木材で挟み込んだごく普通の鉛筆だった。たまに加工された物質も出てくるが簡単な組成のものが多い。
「お、俺の睡眠時間返せ!!」
絶叫していた。
狩りの結果
時間 1時間32分(移動時間20分も含む)
結果 草食獣タイプ一体 ハント成功
報酬 鉛筆(2B) 売値8円
時給換算 約5円
二作目です。いろいろ反省しながら書いています。気付いた点、誤字、脱字など、どしどしお寄せください。