愛しい、切ない、苦い。
短い中に描写をきちんとしようと意識しました。未熟ですが感想いただけると嬉しいです。
朝ご飯はいつもベーグルにジャム、それにコーヒーだ。だけど今日は違う。
重いまぶたをこすりながらコーヒーだけをすすっている。苦いブラックコーヒーだけの朝。食欲がないのかはわからない。ただ、これは戒めなのだ。今の私にはこれが丁度いい。もっと苦くなってしまえ。そうして私の喉を通り、からっぽの体を苦さで満たしてしまえ。
ただ、一人なくしただけ。それだけなのに。
どうしてこんなにも朝が憎いのだろう。カーテンを勢い良くしめると、涙がこぼれた気がした。
あの人のいない朝なんていらないのに。
あの人は昨晩ここに来て、いくつかの言葉を残して出ていった。その言葉に熱はなく、もう、だめなんだと思った。あの人の形のいい唇からこぼれるのは、いつかの様な愛の言葉ではなく、
「もう、好きだという自信がない」
だったり
「君に振り回されるのに疲れた」
だったりした。
私は黙っていた。黙ってあの人の細長い骨張った指を見ていた。黙って指を見つめながら、もう、この指に触れることはないのだなとぼんやり思っていた。
そんな私の態度に、あの人はため息をついた。
「やっぱり君は読めない」
と。
思えばいつも私はこのブラックコーヒーの様なオンナを演じていた。誰にも染まらない、大人のオンナを。あの人だってはじめはそんな私が好きだと言った。媚びない、手に入らない私が好きだと。私にも不安で眠れない夜があった。心から愛しいと叫びたい時もあった。だけど、私は
「私」
を好きでいてもらえるようにと
「私」
を演じ続け、いつしか本当に大切なことを忘れていたのかもしれない。
「俺にはもっと素直な子が合ってる」
最後に言われた言葉を思い出してしまう。
私はコーヒーミルクを手に取り、一つ冷めたコーヒーに入れた。
ミルクは一度沈んで、いくつも輪になって浮かんだ。私はそれをゆっくり掻き混ぜる。
こんな風に、やわらかな味だったら、今もあの人とベーグルをかじっていただろうか。また、涙がこぼれた気がして、もう一つミルクを入れた。茶色の液体に輪を描くいくつもの白の数だけ、伝えたい想いがあった。行きたい場所があった。過ごしたい時間があった。
四つ目のミルクを入れた時、会社に行かなくては、と思った。
急いでメイクをし、腫れた目をごまかす。新しいパンツスーツに袖を通して髪をセットする。てきぱきと身仕度をこなし終える頃、またぼんやりと細く骨張った指を想った。
家を出る前、ミルクだらけのコーヒーをキッチンに流した瞬間。私の恋が終わった。