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人生の教訓 その1


「失礼、今何と?」


 現在12時45分、昼休みである。


「あの三大馬鹿デルタフォースに今大会の男子出場権を与えるですと?」

「うん、まぁね」


 場所は生徒会室。ここで、生徒会長と校長による会議が行われていた。


「爽やかにハニカミながら答えないで下さい、校長」

「まぁ、ごめんね」


 それでも笑みを崩さない校長は流石と言えるだろう。

 校長はよくあるヅラにちょび髭と言ったウケ狙いとしか思えない風貌で、生徒会長の方はキツそうな目に黒髪ロング、ピッチリした制服に巨乳というこれまた単純な容姿だ。


「寝言なら寝ている時に言って下さい」

「まぁ何だ、私は起きてるよ」

「あるいは夢遊病の可能性が、すぐに病院をおすすめします」


 目上の人の話を全く聞いていない彼女の名は武岡たけおか 久美くみという。さっきから校長相手に軽口のようなものを聞いているが、あれが彼女の良い面でもあるのだ。彼女は話す相手に対しあまり態度をコロコロ変えたりはしない。年下の後輩から路上でたむろしている不良まで、全てこんな感じである。


「しかし、校長の決めた事であれば私は特に口出ししませんが、一年に一度の大イベントである錬金術のワールドカップ、通称・究極錬成リメン・マグナを彼らに託していいんですね?」

「まぁ、ぶっちゃけ男子で適当な候補生がいなかったから、どうせなら成績悪い生徒にやらせて少しでも向上意欲が見られれば、と思っただけなんだけどね」

「その程度であの馬鹿共が目覚めれば苦労しないですよ」

「まぁ、そうだろね」


 でも、と校長は付け加えた。


「何も得られないで終わるという事も、まぁ無いと思うよ」



 12:45(同時刻) 生徒指導室


 ここでは、ソファーに煙草女教師、その向かいに拘束具な生徒三人という非常にシュールな景色が壮大に広がっていた。


「にしても、どうしてお前達は毎回毎回同じ事ばかり繰り返すんだぁ?あ?」


 拘束されているのは当然、俺、カレー屋、黒田の三人である。それぞれ指先から頭まで黒くて鉄匂いがプンプンする拘束具で固められている。

 俺達の人権がどうなっているのか問いただしたいが、口も塞がれている状況だ。左右にいる二人も同じ状態である。


「毎回思うんだけどさぁ、お前達ってほんとに懲りないな」


 十分懲りている。

 ただ、心の底から反省しているのかと聞かれれば、そうでもない。


「何故炎や電気などの錬成が室内で禁じられているか、お前達は知っているかぁ?」


 人の口を封じておいて、物を尋ねるとは卑怯千万。


「炎は酸素を消費して、電気は酸素の原子をオゾンへと組み替える。コレくらい常識だぞぉ?知らなかったとしたら先生悲しいなぁ?大事な生徒が死んじゃうんだもの」


 会話に必要なステップが疾風の如く飛ばされたが、それを突っ込む事さえ今の俺には許されない。 


「まぁでも、死んじゃう前に伝えとく事が一つあったわ」


 俺達が死ぬのは決定事項なのか、と心の中で突っ込まざる負えなかった。


「お前達三人が今年の究極錬成リメン・マグナに出場する事が今朝の職員会議でけってーした」


 ………………………………………………………………………………………………………は?

 訳が分からない。りめん・まぐな、というとアレだろうか、各校から選抜された非常に優秀な生徒達が己の努力の成果を見せる為に錬金術の駆使して戦い、最終的には世界大会まであると言うアレだろうか。

 そんなもんに俺達が出場――ってかふざけんなあああああああああああああああああああ!!


「我が校から出るのはお前達三人の他に、女子が三人だけだ。なんとも屈辱的だがお前達が今年の男子代表となる訳なんだ。いやお前達より成績が良いのは山ほどいるんだが、どれもこれも中途半端なんだな。そこで、お前達だ。いやーこっちとしても良いタイミングで校則違反してくれたと思うよ。おかげで決断するのに時間が掛からなかった」


 そんな適当で良いのかよ!っていうかそんな大事な事本人の了解も取らずにきめてんじゃねぇ!ていうかその手の大会に出場するには正規の手続きで印鑑とか必要なんじゃないの!?

 ええいクソッこの忌々しい拘束具め!外れろっ今すぐあの女のふやけた脳ミソをハンマーでグチャグチャにしてやらなきゃいけないんだっ、そして素早く逃げなきゃいけないいんだ!!

 そんなこんなで手の拘束具をギチギチガリガリやっていると、不意に向かい側に座っている女教師が立ち上がった。そして、俺の右側――カレー屋に近づくと、唯一女性らしい細い指で手を拘束しているくそ硬いゴムバンドのような物をなぞる。

 直後、バラッ と手だけでは無く、足や胴、首、頭などの拘束具が一斉に外れた。

 

 俺と黒田がその光景に驚愕しているのを尻目に、カレー屋は悠々と立ち上がった。

 そして俺達に向け、人差し指程度の長さの黒い円筒形の物を見せてきた。よく見ると、その円筒形の物は印鑑の様だった。そして、それぞれの印鑑の文字はこの様な物だった。林、黒田。

 直後、拘束されたままである俺と黒田からブチッ、という音が聞こえた。後で気付いた事だが、これははめられていた猿ぐつわを噛み千切る音だったらしい。

 そして、同時に叫ぶ。非常に端的で、この身体中を駆け巡る熱い思いを伝えるに適した、分かりやすい一言を。それは、


「「ブッコロスッ!!!!」」


 名言だった。

 今この心だけではなく、全身を奮わせるほどの思いにこれほどフィットする言葉は他に無いだろう。

 うんうん。俺の要約力も随分上達したなぁ。


「まぁそう責めるな。こいつの方から見逃してくれたら何でもすると言い出したんだ」

「それ責めて良い要素ですよねっ!?」

「カレー屋君って奴は!あの日あの丘の夕日に染まる木下で決して裏切らない友情の誓いをしたのにそれを忘れたのか!!」

「……いつのどの丘のどの木か教えて欲しいんさ……」

「まぁそう責めるな。こいつが友を売ろうと決意するのに掛かったのは0.03秒だったぞ」

「それ責めて良い要素ですよねっ!?」

「カレー屋君って奴は!あの日あの空き地で闇夜に染まるまで拳と拳をぶつけて語り合ったあの友情論は何だったのさ!!」

「……ああ、それは覚えているさ。確か発端は、学校で椅子に座った時に、その椅子が100Vの電気椅子に成り果てていた事だったさな」


 そんなこんなでギャアギャア言い合っていたら、不意にカレー屋が輪から抜ける様にスッ、と出口へ向かった。ってさせるかぁっっ!!!

 足の力を溜めて出口までの5mを一気に跳ぶ。

 ――つもりだったのだが、案の定椅子は床に固定されていて、数ミリ椅子から身体が浮き上がった程度だった。

 くそっ万策尽きたか……っ!


 ズドムッ (ドラッグ女がカレー屋の背中に拳を打ち込む音)

 ビクッビクッ (拳を打ち込まれたカレー屋が呼吸困難で痙攣する音)

 メッシャアアアアアアアアアッッッ (痙攣するカレー屋を頭からドラッグ女が踵降ろしをした音)


 もう自分以外は誰も信じるもんか。


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