他人の不幸は蜜の味
「ふぉあたああああああああああああああああああああ!!!!」
午後4時30分。
授業も終わり、放課後となった学校のとある一室にて雄叫びが迸る。
「ふぁたたたたたたたたたたたたたたたたた」 カッカッカッカッカーッカッカ、カカッカッ
今度は高速で何かを書く音が、そして……
「万物照応!偉大なる5大元素の一つ!大いなる始まりの炎よ!天上天下唯我独尊!我が前にその名を示せ!顕現せよ!わが身を喰らいて力と成せ!」
ゴキッグチャッ
そして、頭蓋を砕かれる音が。
30分後
「お前達は一体何をしていたんだぁ?」
午後5時。
授業も完全に終わり、部活動or補習の時間帯となった学校のとある一室にて、一人の女教員と三人の男子生徒が居た。
ただし、女教員は校内だというのに思いっきりくわえ煙草で、生徒の方は床に正座させられていた。しかもその内の一人は頭が砕け、潰れたザクロの様に鮮血が噴出していた。
「い、いえ、あの、れ、錬金、術を?」
「あ?」
「ひ、いえ!あの錬金術で焔を錬成しようとしてましたはい!カレー屋が!」
「はい!カレー屋が!」
「お前ら……俺を売るんさ……?」
「ほうそうかぁ。室内での火の錬成は校則で禁じられていたはずだがぁ?そこの所は連帯責任として捉えて構わないなぁ?」
「「へ?」」
「……はいさ……是非に、こいつらも……」
「よろしいぃ」
「「なにぃ!!!」」
こうして悲鳴と鮮血が交差する教室で三人の生徒が逝った。
翌日 8:30 学校 3-3
「痛っっ!」
五列ある内の真ん中の列の最後尾で、俺、林渡は昨日の放課後に起こった事件での傷を擦っていた。
「よっ林、元気そうさな」 ビュッ(拳を振るう音)
「おかげさまで、カレー屋」 パシッ(拳を受け止める音)
そこにもう一人昨日の事件の被害者である、通称・カレー屋が満面の笑みでやって来た。
コノヤロウ、対して鍛えても無いくせに、なかなか良いパンチを出してくるじゃないか。
「眼帯なんか着けちゃって、いよいよお前もイメチェンする年なんさ?」 ググググッ
「そういうお前こそ赤い斑点のターバンなんか巻いちゃって、いよいよインド人が店長を務めるカリー専門店を志す気になったのか?」 ゴゴゴゴッ
俺達は、お互いに一言、二言交わすと両者の頭からブチッという音が聞こえた。おそらく平常心と言う名の枷が外れた音だろう。
「面白い。これはターバンじゃなくて包帯なんさ。赤い斑点はマジで血痕なんさコラァ!!」
「笑わせる。この眼帯がイメチェンのためのアイテムだとお思いか?ハッ!バカめ!俺の目は本気で半分以上開かなくなってるんだよやんのかカレー屋テメェコラァ」
それぞれの思いを胸に、俺たちの拳が交差する。
「恨み辛みを抱いているのが自分達だけと思ってもらっちゃ困るな~」 バチッ(静電気の迸る音)
「「みぎゃぁ!!!」」
何事!腕が凄くビリビリするんだけど一体なんなんだ!?
勢い良く音のした方を見ると、そこには
「昨日の根性焼きの刻印の恨み、今ここで晴らさせて貰うよ!」
俺の親友である黒田 祐二が参戦してきた。黒田とは昨日、共にあのドラッグ女の咎を受けたほどの仲だ。
「根性焼きしたのはあのドラッグ女さ!なんで俺にその恨みの刃を向けるんさ!」 ゴウッ(炎剣・錬成)
本当だよ!君の親友である俺に刃を向けるなんてっっ!!
「全くだ!だが俺もグッチャグチャにするのがこいつだけでは物足りなかった所だ!」 キィンッ(鉄剣・錬成)
いけない。平常心という枷が外れたせいで、勢いに乗されて異常な本音を口走ってしまった。
「元はと言えば君達が僕を無理やりあの部活に入れたりしなければ僕だってこんな目にあわずに済んだんだ!消えろ!」 バチィッ(100Vの電気・錬成)
友に向かって消えろ!とは失礼な。こういう時はもっと優しく、消えてくれないかな?と言うのがセオリーだろうに。
こうして俺達三人の三人による三人のための戦いが始まる。
「斬り刻んでカレーの具にすんぞテメェ!」
「お前こそスパイシーに黒焦げさ!」
「二人まとめてヒクヒクのカエルに成り果てろ!」
一応、周りには他の生徒達がいるのだが、止めようとする者は誰もいない。皆、この後に起こるであろう惨劇を楽しみにしてるからだ。
キーンコーンカーンコーン とHR開始のチャイムが鳴り、大半の生徒が席に着いても尚、室内の後ろで三人聖戦が繰り広げられている。巻き添えが出ないのかというと、当然出る。だがしかし、三人聖戦は『巻き添えなどなる方が悪い』をフレーズまたはキャッチコピーおよびスローガンにしているので特に問題は無い。
「くたばれカレー屋あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「殺すぞ林いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
「死んでよ二人ともおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「貴様達は一体何をしているんだぁ?あ?」
その時、三人以外の男女を含む生徒全員が心の中で歓喜の叫びを上げた。
その時、クラスの雰囲気から外れた三人は死を覚悟した。
その時、咥え煙草の女教師は首の骨を鳴らし、軽い準備運動を始めた。
次の瞬間、室内には煙と鉄の臭いが充満した。