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深夜テンションで書いた黒歴史ポエムが「最強の古代呪文」として崇められる世界に転生しました。お願いだから詠唱しないで

作者: キュラス
掲載日:2026/05/25

「皆の者、静粛に。これより本日の魔法史の実技授業を始める」


王立魔法学園、大講堂。

白髭を蓄えた厳格な魔法史の老教授が、教壇の上で勿体ぶった咳払いをした。

階段状になった席には、国の未来を担う優秀な生徒たちが目を輝かせて座っている。もちろん、その中には私、伯爵令嬢のルシエラ・フォン・アークライトも含まれていた。


(ああ、今日も平和だなあ……)

私はぽかぽかとした日差しを浴びながら、こっそりと欠伸を噛み殺した。


前世の私は、日本の平凡な女子高生だった。交通事故というテンプレ通りすぎる理由で命を落とし、気づけばこの剣と魔法のファンタジー世界に転生していたのだ。

魔法の才能はそこそこ。実家もそこそこ裕福な伯爵家。

前世での「ある大きな過ち」を反省し、今世では絶対に目立たず、平凡で平和なスローライフを送ろうと心に誓っている。


「さて、本日は我が国の魔法研究における最大の成果を披露しよう。つい先日、古代遺跡の最深部より『神話の時代』の魔導書が発掘されたのだ!」


おおおっ!と講堂がどよめく。

古代の魔導書。それは、現代の魔法使いでは到底足元にも及ばない、超常的な力や真理が記されたロマンの塊だ。


「教授! それは一体、どのような魔導書なのですか!?」

最前列に座る、金髪碧眼の超エリート、第一王子のカイル殿下が興奮気味に身を乗り出した。彼は魔法の天才であり、古代魔法の熱狂的なマニアでもある。


「うむ。殿下の問いにお答えしよう。この魔導書は、神話の時代に君臨したとされる伝説の『創造神・YUI』が記したとされる、究極の禁書……」


(……ん?)

私は嫌な汗をかいた。

YUI。前世の私の名前、結衣ゆいと同じ響きだ。

いやいや、偶然だ。偶然に決まっている。この世界にはユイという名前の植物だってあるし。


教授は仰々しい手つきで、桐の箱から「それ」を取り出した。

分厚いガラスケースに入れられ、厳重な封印術式が施された、長方形の書物。

表紙には、見覚えのある「Campus」という文字。

そして、黒のマジックでデカデカと書かれた『〜漆黒の黙示録(ルビ:ダーク・レクイエム)〜 絶対に開けるな!』という痛々しい日本語。


「ぶっ!!?」

私は思わず吹き出しそうになり、両手で必死に口を塞いだ。


間違いない。あれは私が中学二年生の時、深夜テンションで書き殴っていた「黒歴史ノート(ポエム帳)」だ!

なぜそれが、異世界の古代遺跡から発掘されているの!?


「見よ! この禍々しい装丁を! 未知の古代文字(日本語)で記されたタイトル……我々最高峰の解読班が三年を費やし、ようやく一部の解読に成功したのだ!」

教授が熱弁を振るう。

やめて。解読しないで。私のプライバシーの侵害で訴えるよ!?


「では、これより解読された『創造神YUI』の言葉を、実際に詠唱してみよう。皆の者、結界の後ろへ下がれ!」


講堂に緊張が走る。

生徒たちが息を呑む中、教授は杖を高く掲げ、大真面目な顔で、とんでもなく良い声で叫んだ。


「――『右腕が、疼く。これは天使の血肉を喰らった呪いか。ククク……愚かな人間どもよ、私が本気を出せば、この世界は一瞬で灰燼かいじんに帰すというのに……』!!」


(ぎゃあああああああ!!)


私の心の中で、致死量の羞恥心が爆発した。

やめて! それ、ただの寝不足の時に書いたポエム!

中二病全開の、一番見られたくないやつ!


しかし、私の絶望とは裏腹に、世界は「ポエム」に反応した。

ズドォォォォォン!!!


教授の杖の先から、漆黒の炎と雷光が入り混じった、規格外の巨大魔法陣が出現したのだ。

「な、なんという力だ! これが古代の禁呪……!」

「す、素晴らしい! なんて美しく、そして残酷な響きなんだ!」

カイル王子をはじめ、生徒たちはその圧倒的な力と「イタいセリフ」に大熱狂している。


「ぐっ……力が、強すぎる……! このままでは講堂が吹き飛ぶ!」

教授が悲鳴を上げた。

当たり前だ。「世界を一瞬で灰燼に帰す」なんて設定を書いてしまったのだから、魔法がそれを真に受けて暴走しているのだ。


(このままじゃ、私の黒歴史のせいで大惨事になっちゃう!)


私は頭を抱えながら、必死に思考を巡らせた。

あのノートの続き。あのポエムの次には、たしか「自分を落ち着かせるためのセリフ」を書いていたはずだ。

私は立ち上がり、教授に向かって叫んだ。


「きょ、教授! 続きを! その言葉には続きがあるはずです!」

「な、なんだと!? アークライト嬢、なぜそれを……いや、しかし解読班はまだそこまで……!」

「いいから私が言います! それに続けてください!」


私は深呼吸をし、かつての己の黒歴史と向き合う覚悟を決めた。

顔面から火が出るほど恥ずかしい。だが、やるしかない。


「――『だが、安心しろ! 私の左目に宿る聖なるドラゴンの涙が、この破壊衝動を抑え込んでいる! 今日は帰って寝る!』」


講堂が、しんと静まり返った。

直後、暴走していた漆黒の炎が、シュゥゥゥ……と音を立てて鎮火していく。

魔法陣は消滅し、講堂には再び平和な日差しが戻った。


「お、おお……!! 鎮まった……!!」

「アークライト嬢、君は今、何と詠唱したのだ!?」


唖然とする生徒たちの中で、カイル王子が目を輝かせて私に駆け寄ってきた。

「素晴らしい! 今のは創造神の暴走を抑える『対抗呪文カウンターマジック』だな!? 君はなぜ、未解読の古代文字を知っているんだ!?」

「えっと、その、私の家の、えーっと……家訓でして!」

「家訓!? アークライト家は、創造神の末裔だというのか!」


(違う。ただの作者だ)


私は顔を引きつらせながら、心の中で血の涙を流した。

最悪だ。目立たないスローライフが、私の黒歴史ノートのせいで完全に崩壊してしまった。


*****


その日を境に、私の学園生活は一変した。

「古代魔法の継承者」という不本意すぎる称号を与えられ、私はカイル王子率いる『古代魔法研究会』に強制入部させられてしまったのである。


放課後の図書室の奥、特別研究室。

「ルシエラ! 今日も解読班から新しい資料が届いたぞ!」

カイル王子が、バンッと机に書類を叩きつける。

彼の美しい顔は興奮に紅潮し、その手には、またしても見覚えのあるプリントが握られていた。


(あれは……高校生の頃に開設した、個人サイトのトップページ!?)


「見ろ! 創造神は、さらに高度な術式をこの『Web(蜘蛛の巣)』と呼ばれる石版に刻んでいたらしい! タイトルは『〜堕天使の隠れ家〜 キリ番踏んだらカキコよろしく★』だ!」


「……っ!」

私は息が止まった。

キリ番。カキコ。

令和の時代にはすでに失われた、インターネット黎明期の呪われた言葉スラングたち。


「この『キリ番』とは、おそらく特定の星の巡りを意味し、『カキコ』とは生贄を捧げる儀式のことだろう! ルシエラ、君ならこの意味が分かるはずだ!」

「わ、わかりません! 全くわかりませんわ!」

「謙遜するな! さあ、この続きの呪文を一緒に詠唱しようではないか! 『ようこそ、迷える子羊たちよ。ここは私の脳内を垂れ流す隔離施設サンクチュアリだ』――」


「ああああああああ!! やめてええええええ!!」


私はカイル王子の口を両手で物理的に塞いだ。

これ以上、私の痛い過去をイケメンの美声で朗読しないで! 死ぬ! 物理的な死ではなく、精神的な死を迎えてしまう!


「むぐっ……ル、ルシエラ?」

至近距離で私に見つめられ、なぜかカイル王子が顔を赤らめる。

「君の、創造神の秘密を守ろうとするその必死な姿……とても、愛おしい」

「は?」


「私にだけは、君の真実を教えてくれないか? 君が抱える、その『漆黒の闇』のすべてを……」

カイル王子は甘い声で囁きながら、私の手を取り、その甲に口付けを落とした。

端から見れば、完璧な王子様からのロマンチックなアプローチだろう。


しかし、彼が言っている「漆黒の闇」とは、要するに「私の黒歴史サイトの日記」のことである。


(絶対に教えられるかバカヤローー!!!)


世界を滅ぼす力を持った黒歴史ポエムと、それを大真面目に崇拝するイケメン王子。

私の致死量の羞恥心との戦いは、まだ始まったばかりだった。


「カイル殿下! なぜこのような平民上がりの伯爵令嬢などと、二人きりで研究をなさっているのですか!」


図書室の扉がバンッと乱暴に開け放たれた。

現れたのは、燃えるような赤髪をオールバックにした、いかにも傲慢そうな美青年。公爵家嫡男であり、学園の成績ナンバーツーの座に君臨するレオンハルトだった。

彼は私をゴミでも見るような目で睨みつけると、カイル王子に向かって大仰に一礼した。


「殿下。古代魔法の解読において、私、レオンハルトが歴史的な大発見をいたしました。このような女の戯言たわごとなどよりも、はるかに世界を震撼させる『創造神YUI』の深淵なる術式でございます!」


「ほう? レオンハルト、それは真か?」

カイル王子が興味深そうに目を細める。


(ちょっと待って。嫌な予感しかしない)


私は冷や汗をかいた。この数週間、学園の「古代魔法発掘チーム」は謎の熱意に憑りつかれ、次々と私の前世の遺物(黒歴史グッズ)を発掘し続けている。

レオンハルトは得意げに、分厚い羊皮紙の束を広げた。


「ご覧ください! 遺跡の第十三階層から発見された、神話時代の『召喚魔術』の陣でございます。そこに描かれているのは、創造神YUIが直接使役したとされる、最強の魔神の姿!」


彼が広げた羊皮紙を見て、私は危うく心臓発作を起こしそうになった。


そこには、私が高校一年生の時に、美術の授業をサボってルーズリーフに描き殴った、超絶痛いオリジナルキャラクター(OC)のイラストが、魔法陣として精巧にトレースされていた。


右目は眼帯。左腕には包帯(封印の証)。身の丈ほどの巨大な剣(名前はデモンズ・デス・ブリンガー)を背負い、無駄にベルトとチェーンがじゃらじゃらついた漆黒のコートを着ている男。

添えられた文字ルビは、『孤高の反逆者ダーク・リベリオン――ゼクス』。


(ぎゃあああああああ!! 私のオリキャラ! 一番設定を盛りに盛って、後から見返して枕に顔を押し付けて絶叫した、あのゼクス!!)


「殿下、私はこの召喚陣の完全な再現に成功いたしました! 今からこの場で、最強の魔神ゼクスを呼び出し、我が公爵家の、ひいては王国の力としてみせましょう!」

「や、やめなさいレオンハルト様! それは絶対に召喚してはダメです!!」

私は図書室の机を乗り越えて止めに入ろうとした。


「ええい、五月蝿い女だ! 殿下を誑かす貴様など、魔神の力でひれ伏させてくれる! 出でよ、孤高の反逆者ゼクス!!」


レオンハルトがマントを翻し、魔力を込めて叫んだ。

ズガァァァァァン!!


図書室の床が爆発したかのように光り輝き、魔法陣からどす黒い瘴気が噴き出した。

パラパラと本が宙を舞う中、瘴気の中から「彼」が現れた。


『……チッ。俺を呼び出したのは、どこのどいつだ? 俺のデモンズ・デス・ブリンガーは、血に飢えているんだぜ……?』


前髪で片目を隠した、イラストと寸分違わぬ姿のゼクスが、信じられないほどの重低音ボイスで呟いた。

その圧倒的な魔力の圧に、レオンハルトですら膝をガクガクと震わせている。


「す、素晴らしい! これが創造神YUIの生み出した最強のしもべ! さあゼクスよ、私の命令を聞け!」

レオンハルトが叫ぶが、ゼクスは鼻で笑った。


『……下等生物が。俺に指図するな。俺の左腕の【邪王黒龍じゃおうこくりゅう】が目覚めれば、この学園など一瞬で消し飛ぶぞ?』


「な、なんだと!? くっ、制御できないだと!?」

ゼクスが背中の巨大な剣に手を掛けると、図書室全体が震度5くらいの揺れに見舞われた。窓ガラスにビキビキとヒビが入る。


「ルシエラ! 下がっていろ! 私が奴を止める!」

カイル王子が杖を抜き、ゼクスに立ち向かおうとする。

だが、あのゼクスは「創造神YUI(私)」が「この世の全ての魔法を無効化する」という、小学生が考えたような無敵チート設定を盛り込んだキャラクターだ。王子の魔法など通じるはずがない。


(どうしよう! このままじゃ学園がゼクスの「邪王黒龍」とやらで消し飛んじゃう!)


私はパニックになりながら、必死に記憶の糸をたぐり寄せた。

ゼクス……ゼクスの設定。無敵で、孤独で、人間不信で。

でも、何か「弱点」を作っていたはずだ。読者に親近感を持たせるための、ギャップ萌えを狙った痛々しい裏設定を!


ゼクスが剣を振り上げ、黒い炎が図書室を飲み込もうとしたその瞬間。


「ゼ、ゼクス!! あんた、今日の『おやつ』はまだ食べてないわよね!?」

私は半狂乱で叫んだ。


ピタッ、と。

ゼクスの動きが止まった。


「な、何を言っているんだルシエラ!」

カイル王子が振り返る。私はもう、なりふり構っていられなかった。


「イチゴのクレープよ! 生クリーム増し増しの!! あんた、甘いものがないと機嫌が悪くなる、ただの極度の甘党じゃないの!! しかも本当は寂しがり屋で、夜はウサギのぬいぐるみを抱いて寝てるくせに!!」


『なっ……!?』

ゼクスの眼帯の下の目が、信じられないものを見るように見開かれた。

漆黒の魔神の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。


「や、やめろ……! なぜそれを知っている!? 俺の、俺の孤高のイメージが……!」

「包帯巻きすぎて左腕かぶれてたわよね!? 毎日ちゃんと軟膏塗りなさいよ!!」

『やめろぉぉぉぉぉぉ!!』


私の放った「真実(設定の暴露)」という名の言葉のナイフが、ゼクスの精神にクリティカルヒットした。

ゼクスは巨大な剣を放り出し、両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。


『うわあああん! 恥ずかしい……! 俺のキャラ崩壊だぁぁ……!』

「ほら、帰った帰った! 今度イチゴクレープお供えしてあげるから、さっさと魔法陣にお戻り!」


私が手をシッシッと振ると、ゼクスは「絶対にクレープだぞ……ウサギの新しいのも頼む……」と涙声で言い残し、自ら進んで魔法陣の中へと逃げ帰っていった。

シュゥゥ……と音を立てて魔法陣が消滅し、図書室に静寂が戻る。


「…………」

「…………」


唖然とするレオンハルトと、呆然とするカイル王子。

私は咳払いを一つした。


「い、今の呪文は、創造神YUIが魔神を鎮めるために用いた『概念破壊ギャップ・モエ』という高度な精神魔法ですわ。お分かりになって?」


「……おおおおおっ!!!」

カイル王子とレオンハルトが、同時に感嘆の声を上げた。


「素晴らしい! 圧倒的な力を持つ魔神を、あのような不可解な言語イチゴ・クレープで屈服させるとは!」

「私としたことが、力でねじ伏せようなどと浅はかでした……! アークライト嬢、いや、ルシエラ様! 創造神の意志を継ぐ貴女に、一生ついて行きます!!」


レオンハルトまでが私に向かって土下座を始めた。

違う。ただ作者が黒歴史を暴露して、オリキャラが耐えきれずに帰っただけだ。


(もう嫌だ、この世界。帰りたい。実家の布団に潜って一生出てきたくない……)


私の精神力(HP)は、すでにマイナスに突入していた。


*****


ゼクス召喚事件から数日後。

私の平穏な学園生活の崩壊は、いよいよ国家規模の事態へと発展していた。


「ルシエラ・フォン・アークライト伯爵令嬢。よくぞ参られた」


王宮の最深部、謁見の間。

ふかふかの絨毯の上に跪く私の前には、国王陛下、魔法教会の大司教、そして満面の笑みを浮かべるカイル王子が立ち並んでいた。


「単刀直入に言おう。我が国は今、隣国との国境紛争により、かつてない危機に瀕している。そこで、そなたに『神話の最終兵器』の起動を頼みたいのだ」

国王陛下が重々しく告げる。


(最終兵器? 私の黒歴史グッズにそんな物騒なもの、あったっけ?)


「こちらへ」

大司教に案内され、私は謁見の間の奥、厳重な結界で守られた祭壇へと通された。

そこにあったのは、巨大な水晶玉のような魔導具だった。しかし、その水晶玉の表面には、青い光で四角い画面が映し出されている。


『Loading... Windows XP...』


(ウ、ウインドウズエックスピー!?)


私は目をひん剥いた。

水晶玉の中に浮かび上がっているのは、どう見ても私が前世で使っていたデスクトップパソコンの起動画面だった。なぜパソコンが丸ごと魔法具として発掘されてるの!?


「これは、遺跡の最深部『聖域マイルーム』から発見された、創造神YUIの頭脳そのものとされる神器だ」

カイル王子が恭しく説明する。


「我々はこの神器の表面に浮かび上がる『光の文字』を解読した。そこには、創造神YUIの全知全能の知識が封じられている。しかし、どうしても開けない『結界』があるのだ」


水晶玉の画面が切り替わり、見慣れたフォルダが表示される。

フォルダ名:『絶対に見るな』。

そしてその横には、無情にもパスワードの入力画面が点滅していた。


「この結界パスワードを破ることができれば、神の知識を得て、我が国は隣国を圧倒できる。ルシエラ、創造神の意志を理解する君なら、この神器の封印を解けるはずだ!」


王も、大司教も、王子も、祈るような目で私を見つめている。

私は絶望的な気分で、その画面を見つめた。


(……知ってる。これ、私が中学の時に作って、結局公開せずにローカルに保存してたホームページのデータだ。中身は……確か『管理人(私)への100の質問』とか、『好きなアニメキャラランキング』とか、そういう痛みの極みみたいなヤツだ……!)


もしこれを開いて、王国の重鎮たちの前で『Q.好きな言葉は? A.「狂気」かな……フフッ』みたいな文章が大画面で公開されたら、私は舌を噛んで死ぬ。絶対に死ぬ。


「ルシエラ殿。どうか、その神聖なる呪文を唱えてくだされ!」

大司教が杖を振り上げる。


「い、いや! それは開けちゃダメです! 世界が、そう、世界が滅びます!!」

「案ずるな! 我が国の結界魔術を総動員して、どのような衝撃にも耐えてみせる!」

国王が力強く胸を叩いた。そういう問題じゃないんだよ!


しかし、私が躊躇している間に、水晶玉の防衛システム(?)が勝手に作動し始めた。

『警告。不正なアクセスを検知しました。これより、神の啓示を強制詠唱します』

無機質な機械音声が謁見の間に響き渡る。


「な、なんだ!? 神器が勝手に!?」


水晶玉が眩い光を放ち、空中にホログラムのように文字が浮かび上がり始めた。


【管理人(YUI)への100の質問・抜粋】

【Q1:あなたの前世はなんだと思う?】

【A1:たぶん、月の裏側に封印された堕天使の姫。たまに背中が痛むから、羽の名残だと思うw】


「おお……!! 月の裏側に封印された堕天使の姫……!」

「背中の痛みは、高位の魔力を宿している証拠! なんという神聖なる啓示だ!」

国王と大司教が、ポエムを大真面目に解釈して涙を流している。


(やめてえええええ!! 殺して! いっそひと思いに殺して!!)


文字は止まらない。

【Q12:好きなタイプは?】

【A12:強引だけど、実は私の前でだけ甘えてくれるオオカミ系の男子かな/// あと、銀髪でオッドアイだと最高!!】


「……オオカミ系で、銀髪のオッドアイ……!」

カイル王子(金髪碧眼・正統派王子)が、ハンカチを噛み締めて崩れ落ちた。

「私では、私では創造神の伴侶には相応しくないというのか……ッ!」

なんでお前がフラれたみたいになってんだよ!


このままでは、さらにヤバい質問(「初恋の人の名前をアナグラムで」とか「必殺技を叫んでください」とか)が公開されてしまう。

私はついに覚悟を決めた。

これを止めるには、マスターパスワードを直接入力して、システムをシャットダウンさせるしかない。


「退いてください! 私が、私が止めます!!」


私は水晶玉の前に躍り出た。

空中に浮かぶ魔法のキーボード(のような光の板)に手をかざす。

パスワード。私が中二病全開の時に設定した、絶対に誰にも破られないと思っていた、最高に痛い文字列。


「我が血肉に刻まれし、真実の名をここに解放する……ッ!!」

私は王や王子たちに向かって、わざとらしく芝居がかった声で叫んだ。これをただの「パスワード入力」だと思われては困る。あくまで「神聖な儀式」として誤魔化すのだ!


「解き放て! 『B・L・O・O・D・Y・C・R・O・S・S・6・6・6(ブラッディクロス・シックスシックスシックス)』!!」


ターンッ!!

私が最後のエンターキー(光の板)を勢いよく叩き込んだ瞬間。


『パスワードが承認されました。システムをシャットダウンします』


シュゥゥゥゥ……。

空中に浮かんでいた恥ずかしすぎるホログラムの文字が消滅し、水晶玉の光が完全に失われ、ただのガラス玉へと変わった。


謁見の間は、水を打ったように静まり返った。

私は肩で息をしながら、床にへたり込んだ。守り切った。私の残されたわずかな尊厳は、なんとか死守されたのだ。


「……おおお……おおおおおっ!!!」


突如、国王が歓喜の声を上げて立ち上がった。

「見たか大司教! 今の言葉ブラッディクロスなんとかとともに放たれた、凄まじい神の波動を! あれこそが、隣国の軍勢を退ける『最強の防衛呪文』に違いない!!」

「ははっ! さっそく国境の防衛部隊に、今の呪文を朝夕百回詠唱させるよう通達いたします!」


(……えっ?)

私は耳を疑った。防衛部隊が、毎日国境で「ブラッディクロス666!」と叫ぶの? それ、ただの不審なカルト教団じゃん。


「ルシエラよ! そなたはまさに、我が国の救世主だ!」

カイル王子が私の両手を取り、熱烈な眼差しで見つめてくる。

「君の口から紡がれる創造神の言葉は、いつも私の魂を震わせる。ルシエラ、君を次期王妃として迎え入れたい!」


「……は、はい?」

「そして、二人で毎晩、創造神の残した『100の質問』について語り合おうではないか! 私は君の理想に近づくため、明日から髪を銀色に染め、カラーコンタクト(魔法具)でオッドアイにするつもりだ!」


キラキラと輝くカイル王子の笑顔。

彼からすれば、これは究極のプロポーズなのだろう。


しかし、私からすれば、これは「毎晩自分の黒歴史ポエムの朗読会を強制される」という、無期懲役の拷問宣言と同義であった。


「……い、嫌あああああああああああ!!!!」


王宮の奥深くに、私の悲痛な絶叫が響き渡る。

私の異世界転生は、無双でもチートでもなく、ただひたすらに己の過去の恥と向き合い続ける、無限の羞恥心耐久レースへと変わってしまったのだった。

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