【3】
結局、雪は積もらず、よく晴れた昼ごろ。凛が店番していると、何やら外が騒がしかった。
「何? 何?」
顔を顰めていると、父親の大雅が奥からやって来る。
「何だろう、お父さん?」
「ちょっと見てくる」
馬車が停まったのが見えたので、大雅は誰が出てくるか確認しに行く。すると、聞いたことのある声が飛んでくる。
「おい!! 来てやったぞ!! ブス!!」
「…。は?」
聞き覚えのある声に、凛はげんなりする。
ー何しに来たのよ、あいつ…。
大雅も知っている少年ー周啓太で、前にこの店でいざこざがあったのだった。
「どうしたんだい? …その荷物は?」
風呂敷を3つ、4つ、降ろさせ、啓太は大雅に言う。
「家出してきたから、しばらくよろしく頼む」
「な…!!」
大雅と一緒に凛もびっくりする。大雅の横に並んだ彼に向かって言う。
「家出って、あんたね!!」
「あ! お前、どうしたんだ、その髪? ブスがますますブスになるじゃないか」
「はあ…? この野郎!!」
啓太を捕まえ、凛は怖い顔をする。一言言ってやりたかった。
「あんたは気楽に考えているかもしれないけど、家族がいるでしょう? 寝ないで探したらどうするの?」
「大丈夫。いようがいまいが、関係ないうちだから」
彼のうちも複雑で、色々とあるのだった。
ー雅巳さんの元婚約者が、姉の周麗さんなのよね。
雅巳と同じく美形で、花畑のような華やかさがあった。彼女が経営する茶館は賑わっており、有名だった。
「でも科挙の勉強は? どうするの?」
凛が指摘すると、啓太は嬉しそうな顔をする。
「今はその話はするな。腹減った。何か作って」
「あのね…!! こっちは真剣に話しているのよ!! あんたは軽く考えているかもしれないけど、人一人預かるって気をつかうんだから。ご飯だって、着るものだって、私達とは全然違うだろうし」
「ふん! 別にいいんだよ。多少は我慢するから」
「我慢って…あのね」
凛が何か言いたそうにすると、大雅が止めに入る。
「いや、いい。凛、この子のしたいようにさせようじゃないか」
「でもお父さん…!!」
「1人で生きるということがどういうことなのか、分かるようになる。今まで甘えた世界にいたと気づくようになるだろうさ。そのための金と地位なのだから。ここでは通用しないことを教えてあげよう」
「…。お父さんがそう言うなら」
「ありがとう、凛。…いいね、啓太くん。君は自分がどれだけ恵まれているか知ることになるから。自分のことは自分でやりなさい」
「分かっている」
「こら!! 言葉遣い!!」
大雅に指摘され、啓太は勝ち気にも悔しそうな顔をする。
「すみません。分かりました」
「はい。じゃあ凛、客室に案内してあげてくれるかい?」
「分かったわ。…荷物、少し持ってあげる」
風呂敷を持つと、啓太は馬車の御者に言う。
「行っていいぞ。あとこのことは内緒な。分かった?」
「はい。ではー」
馬車が行ってしまった。雪は道路の脇に少し残っているくらいなので、泥を飛ばしては行かなかった。
「ほら、こっち」
「はいはい、ブス」
「ブスは余計よ!! もう私は反対したのに…!!」
ぶつぶつ文句を言いながら、凛は先に立ったのだった。




