【2】
雪がちらちらと降る中、凛はそれほど寒くないと思っていた。今日はまだ暖かいほうで、積もるような雪ではないと長年、雪が降る街に生まれているだけあって推測できた。
「はあ…」
吐く息は白く、手に吹きかける。横で雅巳がそれを見、手を伸ばしてくる。
「ちょっと見せてみろ」
「え…? 急に何?」
「いいから」
手を掴まれ、どきりとしながら、何をされるのか不思議に思っていた。両手、特に手の甲を見、雅巳が言ってくる。
「あかぎれになっているじゃないか。痛そうだ」
優しく手の甲をさすられ、息を吐きかけられる。冬はどうしても水を扱うと、あかぎれが酷く、我慢しているのだった。
「ま、雅巳さん…。あの…!!」
「何だ? どうした?」
「恥ずかしいというか…。その、あの」
「ああ、あかぎれが恥ずかしいのか? それなら心配いらないぞ。気持ち悪いとは思わないから」
「…そうじゃなくて」
手を握られ、息を吹きかけられるのが恥ずかしいのだが、されるままにしておく。髪もそうだが、誰かに触られるのは気持ち良いことだった。雅巳は凛の気持ちなど気づかず、ぼそっと呟く。
「ヘクソカズラがあれば…」
「ヘ…? 何それ?」
「独特の香りがするんだよ。煎じるとしもやけなどに利用されるんだけど。…って、知識を喋るのもな」
雅巳の顔に陰りができたので、凛は努めて明るく言う。
「大丈夫よ!! これくらい。いつものことだし」
「何を言っているんだ。放置したら、血が出てくるだろう? 痛いのはお前なんだからな」
「それはそうだけど…」
凛はそわそわし始める。雅巳に自覚はないのだが、一緒にいると美しい存在に皆、惹かれるのだった。まるで蝶が生み落としたかのように、暗くても鱗粉をまとっているような感じで目立っていた。
ー私は幸せ者だ。
本当にそう思う。優しい家族がいて、心配してくれる人達がいて、何て恵まれているのだろうと思う。その反対に、雅巳は孤独であり、理由があって1人暮らしだった。家族とは疎遠なのである。
「とりあえず、うちに何か薬がないか?」
「う、うん。探してみるね」
戸惑いながら、凛は手を引っ込める。雅巳の手は長く、神の使いのように、自分にはもったいなかった。
ーでも自分のほうが、大変なのに…。毎日、何を食べたりしているんだろう?
雅巳への興味がわく。一緒に散歩しているということは、彼も痩せているということになり、体が引き締まっているように感じる。
ー他人のことに首を突っ込むのは良くないんだけど…。
凛は肩に落ちた雫を払うと、雅巳に言う。
「雅巳さん、行こう。、雪が酷くなる前に」
「そうだな。…ちょっと待った」
雅巳は凛の体についた水滴を払ってくれる。それこそ丁寧に髪から足にかけて、飛沫をとばしてくれた。
「ー散歩も考えないと駄目だな」
「…そうね。雪が酷くなってくると大変だものね」
「後で考えるか。…行くぞ」
「はい!!」
雅巳が手を握ってきたので、凛は手を握り返したのだった。




