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【19】

陰りのある道をただ1人、歩いていた。名は朱春徳といい、体が引き締まった青年だった。彼は誰もいないような闇の道を進んで行と、声がかかる。

「ー坊っちゃん」

そう呼ばれても足を止めず、どんどん進んで行く。相手も気にしていないようで、姿は見えないが影だけがついていく。

「ー坊っちゃんとは呼ぶなと言っただろう?」

人気が全くなくなった裏道に来ると、春徳は振り返らずに言う。指摘された相手はどのような顔をしているのか分からなかったが、春徳の冷たい声音に恐縮しているようだった。

「失礼しました」

「分かればいい」

素っ気ない言い方は、凛達の前で見せる顔と全然違っていた。人懐っこい性格ではなく、逆に人を緊張させるような表情となっている。しかも隙がなかった。雅巳でも気配を消すのは難しいかもしれないのに、春徳は殺気を抑え、静かに言ってくる。

「侠客の息子に坊っちゃんはない」

ふっと笑うと、大人びて見えた。それはいじめられていた彼とは思えない冷たいものだった。全身、氷柱をまとっているような刺々しさを感じる。

「あの、その」

相手のほうが慌てだしたので、春徳はたしなめる。

「侠客の手下が慌てたりするな。堂々としろ」

「は、はい…!!」

相手の返事にうなずくと、春徳はくくっと笑う。

ー弱いふりをして、後で潰すのが好きなんだよな。

喧嘩は弱い男として演じ、情報を得るのが春徳のやり方だった。人間、相手が弱いと知ると、口が軽くなり、色々と好都合なのだ。もちろん暗殺される心配もなかった。

「ー面白い娘を見つけた」

唐突に言うと、相手が姿勢を正したのが分かった。

「葉凛と玉雅巳のことを調べろ。いいな?」

「はい、分かりました」

真剣な口調で言ったと思った途端、春徳を追う影が消えた。だが、春徳は足を止めず、口の端を上げる。

ー凛はいいが、雅巳には気をつけないとな。

弓矢を射ると告げた時、雅巳が1番、鋭い目つきを向けてきたのは分かっていた。とりあえず馬鹿を演じて逃げたが、彼だけには正体がぱれそうで、気をつけなければならない人物だった。

ーあの2人、関わったほうが楽しそうだ。

またくくっと笑うと、いつの間にか春徳の姿は消えていた。

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