【15】
「ーで、ここまで連れてきたと?」
雅巳と落ち合うと、彼は不機嫌全開になった。凛が何度もまこうとしたのだが、春徳はずっとついてきたのだった。
「ごめんなさい」
「…全く。探し人は別だろう?」
「はい。申し訳ないです」
何度も詫びると、春徳が雅巳に興味を持つ。
「誰ですか。この格好いいお兄さん? まさか姉御の彼氏じゃ…」
「ち、違うわよ!?」
慌てて否定すると、雅巳も不機嫌なまま答える。
「違うな。完全に違う」
強く否定され、凛は少し傷ついたが、今は無視することにした。
「俺、朱春徳って言うっす。兄貴って呼んでもいいっすか?」
「誰が兄貴だ、全く。変なものを拾うな」
春徳が握手しようとしたのを、雅巳は拒み、しっしと手を振る。
「兄貴、今、イラッとしてるっすね。そういう時は発散したほうがいいっすよ」
「お前がいなくなれば、すっきりする」
「ま! 俺っすか! 不機嫌の原因は!!」
「他に誰がいる?」
雅巳は腕を組み、指をとんとんと動かす。何だか申し訳なくて、凛は春徳に小声で言う。
「何でついて来るの?」
「だって姉御が気に入ったっす。まさかあの状況で割って入っくる女なんて、滅多にいないっすよ」
「あー。…助けないほうが良かったかしら?」
「何の話だ?」
2人で話すのが気になるのか、雅巳が割って入る。凛は短く説明すると、雅巳が盛大にため息を吐く。
「何でも首を突っ込むな!!」
「はい…。反省中です」
「姉御が悪いわけじゃないっす!! 命の恩人っす!!」
「お前は黙っていろ」
びしっと言いつけると、雅巳は凛に向かって言ってくる。
「何、拾っているんだ? 猫や犬じゃあるまいし。しかもかなり懐かれているじゃないか。どうするんだ、こいつ?」
「こいつじゃなくて、春徳っす。呼び捨てでいいっすよ」
「いいっすじゃない!! 今すぐいなくなれ」
「あーれー。彼氏さん、きついっす」
「誰が彼氏だ。ふざけたことを言うな」
「厳しいっすね。まるで毒の花のようっす。一見、美しいっすけど、近寄ったり、触ったりすると危ないっていう」
「何でもいいから、黙っていろ」
「嫌っす。俺も混ぜて欲しいっす」
「あのね、ちょっと黙ってくれる? 私達はこれでも忙しいのよ」
凛もようやく会話に加わり、春徳をたしなめる。しかし彼は尚も、
「大丈夫っす。体力はあるっすから、姉御と兄貴が何しているか教えて欲しいっす」
と言ってきた。凛と雅巳は顔を見合わせ、同時にため息を吐く。
「何っすか? 俺じゃ力不足とか…」
「そうじゃなくて、今、人を探しているの。あなたには関係ないんだけど…」
「誰を探しているっすか?」
「あ…っと、ええと」
「もういい、行くぞ。日が落ちてしまう。ーお前はここで去れ。いいな?」
雅巳が顎で示すと、春徳は真顔で言ってくる。
「俺も協力するっす。蛇の道は蛇、役に立つかもしれないっすよ」
「役に立つどころか邪魔だ。喋るな」
「そんな…。兄貴…!! 仲良くやりましょうよ」
「誰が兄貴だ。全く。こいつ、どうにかしろ」
「どうにかしろって…。何回も断ったのよ? それなのに、ついて来て…。私だって困っているんだから」
「姉御ー!! 見捨てないで欲しいっす」
「きやあ!!」
いきなり春徳が抱きついてきたので、凛は驚いてしまった。雅巳が眉根を寄せると、春徳の頭を叩いてくれる。
「やめろ。抱きつくな」
「そうっすか? いい香りがするっすよ?」
「いいから早くどいて!!」
凛も怒って春徳の手を叩く。「しょうがないっすね」と言いつつ、春徳は体を離してくれないのだった。雅巳はそれを見、
「あのな、お前は自分の手におえるのなら、首を突っ込んでもいいが、そうじゃなければやめろ。お人好し過ぎてただの馬鹿だ」
「ぱ…!! …すみません」
凛は恐縮して小さくなると、春徳が前に出て手を広げる。
「兄貴、姉御をいじめちゃ駄目っす。俺のことなら何を言ってもいいっすけど」
「そうか。じゃあ今すぐ消えろ。いなくなれ。帰れ。分かったか?」
「全然、分からないっす」
「は…?」
雅巳がますます渋い顔をしたので、凛はがくっと肩を落とす。
ー前向きなのはいいんだけど…。
雅巳とは水と油のような気がした。雅巳は額に手を当てると、くるりと踵を返す。
「先に行く。そいつ、何とかしろ」
「何とかって…!! だって、来るなって言っても、ついて来るんだもの!!」
「そうっす。姉御は悪くないっす。助けてくれた恩を返したいだけっす」
「そう言うなら、雅巳さんが言った通り、離れてくれない? 私達、また言うけど人を探していて忙しいの」
「よく分かったっす!! 人探し、手伝うっす」
「は…?」
凛と雅巳が同時に口から発した。どうも春徳という人物はとらえどころがなかった。
ー一見、元気で馬鹿なことを言っているように見えるんだけど…。
凛が困っていると、雅巳が吐き捨てる。
「勝手にしろ。行くぞ」
雅巳が歩き出したので、凛も足早について行くことにした。




