【13】
翌朝、まだ待ってみたが、啓太は見つからなかった。
「時間だ」
大雅の言葉に、全員が集中する。
「やれることはやったんだから、あとはお役人様達に任せよう」
「そんな…!!」
悲鳴に近い声を上げたのは、凛だった。興奮して眠れないこともあり、目がぎらぎらしていた。
「私、また探しに行って来る!!」
「ちょっと待ちなさい」
「でも…!!」
「焦ってもいいことはないわ」
母親の定の言葉に、凛は足を止めた。確かにこのまま、何の情報も持たないまま外出しても、無駄足に終わるかもしれなかった。、
ーてれでも何かしていないと…!!
凛はぎゅっと拳を握りしめ、悔しそうに俯く。
「俺が必ず見つけますから」
代わりに清が胸を叩いてみせる。市場には色んな情報が集まるので、期待できるが、麗の前で格好良く見せたいという欲も見えた。
「…仕方ありませんわ」
麗は扇を開くと、小さく言った。その表情は読めず、あくまでも冷静だった。
「うちの者にも、しばらく探させようと思いますわ。気になるところがいくつかありますし。それに私、茶館へ戻らないといけませんしね」
「俺も店に行かないと」
声を上げたのは雅巳だった。皆に迷惑をかけていると思い、凛は詫びる。
「申し訳ありません…!! 私が、私が…!!」
「凛、もういい。謝っても帰って来ないものは帰って来ないのだから」
「…お父さん…」
大雅の言う通り、謝るくらいなら動け状態だった。
「とりあえず様子をみないかい? お役人様にも頼んであるのだし」
「…そうですわね。もう少し待ってみましょうか」
麗は凛を見ると、目を細める。
「あなた、自分のせいと言うのねら、一生懸命、探しなさい。過ちを犯さない人間なんていないけれど…。よろしくて? 私の大事な弟を早く返してくださいな」
「は、はい…!! もちろんです!!」
凛が飛び出して行こうとするのを、雅巳が止める。
「ちょっと待て。どこへ行くつもりだ?」
「啓太を探しに行くに決まっているでしょう?」
「それはそうだが、店は? どうするんだ?」
「店は…お父さん!! お願いだから、探しに行かせてください!!」
「…困ったな」
大雅は首を撫でると、凛に真剣な眼差しを向ける。
「無駄足になってもいいのかい? 疲れるだけかもしれないよ?」
「それでも…!! 今頃、助けてって言っていたらと思うと…!!」
「…。凛も頑固だからな」
大雅はため息を吐くと、しょうがないとばかりに口を開く。
「行きなさい。ただし危ない目には遭わないこと。探し疲れたら戻ってくること。分かったかい?」
「は、はい…!!」
凛は体をぴんと立たせると、外へ走って行ったのだった。
しかし皆の願いも虚しく、数日経っても、啓太は見つからなかった。
ーもうどこにいるの!!
凛も毎日毎日探しているのだが、足が痛くなるだけの状態だった。本格的にまずいと思い。気持ちばかりが焦るのだった。
ー犯人というか、何と言うか、連絡ないし…。
少しでも要求があれば、まだいいのかもしれないが、何の音沙汰もなかった。散歩の時間も返上して啓太を探すのだが、無理だった。
ーどこにいるのよ…!!
凛に辛く当たるように、冷風が過ぎていく。襟元を合わせると、息を吐き出す。その姿は10は年取ったように見えるのだった。
「…駄目だな。情報はなしだ」
「そう…。こっちも駄目だ。何も見つからない」
伸びた影が闇で見えず、周りも白と黒の光景だった。もし捕まって外にでも出されていたらと思うと、ぞっとする。
ー変なことを考えるな。
凛は両頬を叩くと、気合を入れ直す。
「もう少し探して見てもいい? どうも落ち着かなくて」
「別に構わないが、その前に足を見せてみろ」
「え…? 足? 何で?」
「いいから」
雅巳に言われ、凛は素直に靴を脱ぐ。すると血で汚れているのだった。
「わ、何これ…!!」
自分でもびっくりし、傷に触れようとするのを、雅巳が止める。
「触るな!! とりあえず」
手巾を取り出すと、裂いて巻きつけてくれる。凛はされるまま、大人しくしていた。
「これだけ歩けば、足も痛くなるはずだ。全く」
「…でも私のせいで…!!」
「うるさい。誰もお前のせいだと言っていないだろう?」
頭を撫でられ、凛はその箇所を押さえる。
「誰のせいでもない。啓太自身が出ていったんだ。本人が一番、後悔しているだろうさ。逆にお前に心配されていると知ったら、怒り出すかもしれないぞ?」
「それは…」
何も言えず、黙ると、足の治療は終わり、雅巳が離れる。
「うちに帰ったら、ちゃんと薬をつけろ。ハトムギかトウガラシを塗るといいんだが…。お前のうちに任せた」
何故かぶっきら棒に言うと、手に息を吐きかける。
「寒いな。雪が降るかもしれない」
「う、うん…」
今の凛の心境のようで、闇に襲われそうだった。そのまま飲まれれば楽になるのだが、責任感が邪魔をする。
ー啓太を必ず見つけ出さないと。
固く誓い、天を仰ぐ。ぽつりと小さな粒を感じたように思ったが、気のせいのようだった。、
ーもし啓太が泣いていたら…。
そう思うと、ぞっとし、二の腕を擦る。雅巳は勘違いしたのか、
「早く帰るか?」
「…も、もう少しだけ探そう?」
凛は必死に粘るつもりだが、雅巳は冷静そのものだった。
「皆、協力して探してくれているんだ。足もその状態じゃ…。悪いが、今日は切り上げよう」
「でも…!!」
「お前の気持ちはよく分かる。しかし気ばかり焦っても何も手に入らないんじゃ意味がない。お前は足を痛めるほど十分に探したんだ。もういいだろう?」
「…そんな。啓太がもし!! もし!!」
「悪い想像はよせ。本当になったら困る」
雅巳に強く言われ、凛は黙り込む。
「戻るぞ」
先に歩き出されたので、凛も続くことにした。




