【1】
粉砂糖のように柔らかな雪が降る中、雑貨屋の灯りは暖かかった。
「ーいらっしゃい…あ」
店番の葉凛ははたきをふる手を止め、振り返った。そこには1つ年上の男性ー玉雅巳がおり、薄く積もった雪を払っていた。
「今日、散歩はどうする?」
耳ざわりのいい声で言われ、凛は表を確認する。積もりそうな雪ではなさそうなので、雅巳を見上げる。
「行く。多分、大丈夫だと思うから」
「そうか。じゃあ待っているか」
雅巳が椅子の1つに座り、暖をとる。2人が散歩しているのは理由があり、凛のダイエットのためだった。
ーお陰でかなり痩せたし。
雅巳はその護衛として雇っており、いつも一緒に出かけるのだった。商品をきちんと整理し、凛が雅巳の元へ行く。
「…もうお客さん、来ないと思うんだけど…」
「雪の日はな、どうしても客足が遠のくよな」
外を見ながら、雅巳は同意するためにうなずく。夕方というよりは夜のような暗さだった。
「短い距離にする?」
「そうだな…。歩き始めてみた感じだな」
そう言うと、雅巳が急に手を伸ばしてくる。何事かと慌てていると、髪の毛に触れられる。
「髪、はねてる」
「嘘!! …あ、本当だ」
手鏡で確認し、凛は慌てて直そうとする。今日1日中、そこの髪だけが乱れていたことになる。
ー水をつけて直したんだけどな。
少し傷つきながら、手鏡をしまうと、雅巳が言ってくる。
「櫛は?」
「あるけど…どうするの?」
「とかすに決まっているだろう」
少し怒った口調に、凛は首を竦めつつ、櫛を手渡す。
「ほら、大人しくしろ」
「うん」
雅巳の大きな手に、櫛は小さく見える。しかし誰かに髪を構われるのは、気持ちの良いことだった。うっとりとしていると、雅巳が
「身だしなみは大事にしろ」
と言ってくる。凛が何か言おうとする前に、続けて言ってくる。
「お客さんはよく見ているから。特にお金が発生することには敏感なんだよ。この店、大丈夫かって思わせるなよ」
「うん…。ごめん。ごめんなさい」
凛は素直に詫びると、雅巳が櫛を動かしながら言う。
「椿油でもあればな…。でも今日はもう店じまいか」
「うん。今日はもうそろそろ終わりにする。雅巳さんが迎えに来てくれたし」
2人で和やかに会話を交わしていると、そこに母親の葉定がやって来た。
「あら、雅巳くんじゃないの」
「こんにちは。いつもお世話になっております」
凛の髪を構うのをやめ、挨拶する。凛は残念がったが、定は目を輝かせる。
「お茶でも飲んでいかない?」
「え? お母さん?」
急な展開に、凛のほうがびっくりする。何の合図が知らないが、定は片目を瞑ると、雅巳に近づく。
「今日はもうお店、終わりにするし。どう?」
「…。ありがたいんですが…散歩に行かないといけないので」
「少しくらいいいじゃない。ね、凛?」
「え…。私は」
少し考えてから、凛は定に答える。
「せっかく雅巳さんが来たんだから、散歩に行きたい。お母さん、ごめん」
「この娘は…。せっかくの機会なのに」
後半は小さくて聞こえなかった。
「お母さん、店番を任せた。私、行かないと」
「…もう。親心が分からないんだから」
「何が?」
「ううん、何でもない。行ってらっしゃい」
定に見送られ、凛と雅巳は外へ出かけたのだった。




