3話 約束
翌朝、窓から差す光で目が覚めた。洗顔を済ませ、朝食をとる。ナトリー様から8時に寮にくると連絡があったので、おとなしく部屋で待っていることにした。
コンコン。
扉がノックされた。扉を開けると、抱えきれない程の荷物を持ったナトリー様が立っていた。荷物を半分受取ると、部屋の中に招き入れた。
リビングに荷物を降ろすと、制服などを渡された。微妙なサイズを調整するために、色々なサイズの物を用意してくれたという。
制服の試着は後回しにして、入学に必要な書類の記入を始めた。ナトリー様に指示された所にのみ記入をした。
「名前はステータスに表示されていたものと同じのを書け。住所は寮で大丈夫だ」
「分かりました。ここの欄は——」
一通り書き終わると、大きなボストンバッグからナトリー様は鞄や、筆箱を取り出し、見せてくれた。
「この中から好きな物を選べ。好みのものが無ければあとで自分で買うように。お前の世界の物はこの世界だと目立ちすぎる。お小遣いは後で渡すので、自由に使ってくれ」
「じゃあ、この筆箱が良いです」
「ペンは……これとかどうだ?」
「良いですね! へぇ、芯が勝手に出てくるなんて便利ですね~」
筆箱やら、鞄やらの用意が終わり、制服のサイズも決まった。この後仕事があるというナトリー様を部屋の入口まで見送った。時間がお昼に近付いていて、することが無いので外にでも出ようかと思い、廊下に出た。
鍵を閉めていると、隣の部屋からバタバタと足音が聞こえてきた。勢いよく扉が開かれ、中からレベシーさんが出てきた。
「リョータくんっ、今暇!?」
「あ、うん。暇だけど」
「じゃあ、一緒に散歩しない?」
「良いよ。えっと、ここで待ってるね」
レベシーさんの格好は明らかに部屋着だったので、廊下でしばらく待っていることにした。あまり時間がかからず、レベシーさんは出てきて、二人並んで寮の庭に出た。
♢
「はぁ~、疲れたー。散歩できて良かったよ。勉強しっぱなしで疲れてたんだよねー」
「いい気分転換になって良かったね」
「ほんとだよー。あ、そうだ! ねぇ、お腹空いてない?」
「空いてるけど」
「でしょでしょ。じゃーん! お昼持ってきました! 手作りが駄目じゃなければ一緒に食べない?」
「うん。食べたい!」
どこから取り出したのかバケットを草の上に置くと、中からレジャーシート代わりとなるチェック柄のピンクの布を取り出し、地面に敷いた。
「そのバスケット、何処から今出したの?」
「? ずっと持ってたよ」
「え、ガチ?」
「うん。マジ」
どうやら俺が気づいて居なかっただけで、ずっと手に持っていたらしい。確かによく考えればレベシーの手元を見ていなかった。そんなことを考えながら、布の上に腰を掛ける。レベシーはバケットの中身を見せてくれた。
中にはサンドイッチに、サラダ。デザートにドリンクが二人分入っていた。ドリンクはレモンのさっぱりした物で、サラダには地下鶏という鶏の肉が入っていた。
「大地の創造と太陽の恵みに感謝して。いただきまーす!」
「えっと、大地の創造と太陽の恵みに感謝して。いただきます」
レベシーさんの真似をして、食事前の祈りをした。三角に切られた白いパンにはさまれた野菜たち。しっかりとパンを握ると、思いっきりかぶりついた。
「ん~! おいしい! レベシーさん、ありがとう」
「良かった、喜んでくれて。それと、呼び捨てでいいよ」
「じゃあ、レベシー。よろしくな」
「改めてよろしく!」
その後もサラダやドリンクをお腹いっぱいになるまで頂いた。メインのサンドイッチとサラダを食べ終え、雑談を少しした。一息つけたので、デザートを食べる事にした。デザートは紫色をしたマカロンで、何かの実が挟まっている。
「これって、なんのマカロン?」
「芽葡萄だよ。花からもう一度芽が出てくる植物があって、その二回目の芽が丸く膨らんで、その芽の部分が食べられるの。って知ってるよね」
「知らなかった。教えてくれてありがとう」
「いいえ、どういたしまして。私ね、芽葡萄が大好きなんだ。ケーキ屋で食べたマカロンが美味しくて、こうやって何回も買ってるの」
「お気に入りの物があるっていいよね」
「だよねー。あ、そうそう。今度、このお店紹介しようか?」
「お願い! 楽しみだな」
甘すぎないけど、美味しい絶妙な味わいのマカロンを食べながら、ゆっくりと過ごした。
♢
太陽の光が少し強くなり、時刻13時を回っていそうだった。心地よい光に癒されていると、レベシーがこちらを見た。
「はー、お腹いっぱい。そろそろ部屋に戻ろうか」
「うん。今日はお昼ありがとね」
「全然気にしなくていいよ。あのさ、最後に一個話してもいい?」
「いいよ。聞かせて」
少し目を伏せるとレべシーは、眉尻を下げ、どこか寂しげな雰囲気を纏わせた。さっきまでの元気なレベシーとは少し違う、ミステリアスな雰囲気も感じられた。
そして、レベシーは徐に話を始めた。
「私、好きな花があるんだ。【ランカ】って言ってね、帝国の一部地域にしか咲いてないんだけど、あんまり世間では好かれる花じゃないんだよね。見た目が赤黒くて花言葉もあんまりよくないから。でも、私その花が大好きなんだ、花言葉も含めて……ってなんかごめんね。面白くもなんともない話だけど……」
「面白いとは違うかもだけど、俺はレべシーの話聞くの好きだよ。もしよかったら今度、案内してよ」
「え? ランカの咲いてる場所にってこと?」
目を丸くして、レベシーは驚いていた。その様子が可愛くて、思わず口元が緩む。
「うん。俺、ランカを見て見たい、それと花言葉ってどんな言葉なの?」
「【とらわれ続ける】だよ。いい言葉ではないかもだけど、好きなんだよね。いつかランカの咲く場所まで案内するね。約束ね」
レベシーは、にこりと笑うと小指を差し出してきた。
昼時の暖かな光が指切りを交わす俺達を照らしていた。この時はランカを見に行く約束が果たされると思っていた。
でも、現実はもっと残酷で厳しい。
この日、俺達は一生果たされることのない約束をした。
指切りを交わすと、寮の建物の中に戻ることにした。部屋に戻ると翌日までゆっくり過ごした。




