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2話 ステータスと寮と探し物

 応接室を出て、大人しくナトリー様の後ろをついていく。様々な美術品が壁際に並ぶ廊下を歩いたが、間違って美術品を落としそうで怖かった。


 暫く歩くと、ナトリー様は大きな純白の扉の前で止まった。人2人分ほどある大きな扉には太いドアノブがついており、重そうに見えた扉は簡単に開いた。

 ギィと耳を塞ぎたくなるような甲高い音が鳴る。部屋の中には椅子が並べられていて、壁の近くには甲冑が立てておいてあった。人は入っていなさそうだった。


 真ん中にはカーペットが敷いてあり、真ん中には背の低い石に囲まれた大理石の床と、水晶があった。真っ白な柱の上においてある水晶にナトリー様が手をかざす。少しして、『開示』とナトリー様が唱えた。すると、ナトリー様の頭上にステータスウィンドウが開き、すぐに閉じた。


「この水晶に手をかざす。そして、『開示』と唱えれば、ステータスが周りに見えるように表示される。やってみろ」


 ナトリー様のように手をかざす。何かが吸い取られるような感覚と同時に、胸元が暖かくなった。程なくして胸の前に小さくステータスウィンドウが表示された。『開示』と唱え、ナトリー様にもステータスを共有する。


【アダチ・リョータ HP3500・MP5000  スキル・華冠・腕力増強・跳躍力上昇・身体強化…】


 一見どこもおかしくなさそうに見えたが、名前のところの表記が少し変わっていた。

(あれ? 【りょうた】なのに【リョータ】に変わっている。)

 不思議に思ったが、異世界だからこんなこともあるだろう。と無理やり納得させた。


「これならすぐに死ぬことはないだろう」

「本当ですか!? やったぁー!」


 すぐに死ぬような雑魚ステータスだったら嫌だと思っていたので、ナトリー様の言葉で少し安心することができた。その後はすぐに移動し、王宮を出た。これから俺が暮らす寮へ行くためだ。舗装された道を歩きながら、この世界の景色を楽しんだ。


 歩きながらナトリー様は、少しこの世界について話してくれた。ナトリー様の話によると、この国は植物が多く魔法が発展しているらしい。魔法に関しては帝国よりもまさると言っていた。アシュレーゼ王国以外にも国はあり、この国は比較的治安が良いが、無法地帯となっている国もあるという。そして、異世界ではお決まりの魔王という存在もいるらしい。

 友人が異世界の話しを俺に沢山してくれた知識が、ここにきて役に立ちそうだった。無理やり聞かされていたので、詳しく異世界について覚えている訳ではないので、友達の知識とこの国の常識が混ざり、混乱することはなさそうだ。


 20分ほど歩くと、白く大きな建物が見えてきた。ここが寮だという。これから通う学校は貴族の方も通っているらしく、スパイ科以外にも様々な学科があるという。黒い門を開き、敷地内へ入ると、そこには低木があり、上から見ると規則性のある模様に見えるように植えられていそうだった。低木の間を歩くと、二階建ての建物の前に着いた。引き戸の大きな玄関と、窓があった。ナトリー様は、窓をノックする。


「おい、ヴェノン」

「ん? あ、はいは〜い。こんにちはってナトリー様!?」

「お前の所にアダチ・リョータというやつ宛に、カードキーが届いてるだろう?」

「ちょっと待ってくださいね〜。あ、はい。ありましたよ。君がアダチ・リョータくんであってるかな?」


 ナトリー様にヴェノンと呼ばれた人は男性で、紫色の髪をしていた。髪はうねっていて、黄土色の眼鏡をかけた姿はどこか、チャラ男感がすごかった。


「はい。アダチ・リョータといいます。よろしくお願いします」

「よろしく〜。君、身分証は持ってる?」

「え、あ、無いです」


 無いと言ったは良いものの、その後なんて答えたら良いのか混乱していると、ナトリー様が代わりに答えてくれた。


「私が彼が本物だと証明できる。書類は無いが、私の知り合いだ」

「はーい。ナトリー様が本物だと保証してくれるなら、それ以上何も言いませんよ。はい、この寮のカードキーだよ。玄関と、自分の部屋以外開かない鍵で、他の人は君の部屋に入れないからプライベートは守られるよ。安心してね」

「ありがとうござます。」


 手を降って送り出してくれるヴェノンさんに手を振り返す。ナトリー様に促され、機械のようなものに、カードキーをかざした。小さく音がなると、扉の鍵が開き、中に入ることが出来た。


 中は落ち着いた雰囲気で、左奥に階段があり、右奥には食堂と書かれた部屋があった。壁際には掲示板があり、お知らせなどが貼られていた。階段を登り、二階へと上がる。幅の広い階段を上がった先には、自習スペースがあり、制服を着た生徒が勉強をしていた。更に奥に進むと、先の見えない長い廊下があり、生徒の部屋はここにあるようだった。


 俺の部屋番号は【0016】だった。比較的前の方にあり、すぐに近くまで行くことが出来た。扉の目に立って鍵を開けようとすると、隣の部屋の扉が開いた。中から出てきたのは女性だった。走ってきたのか少し息が上がっていた。ツヤのある黒髪は腰まであり、ショートパンツにTシャツというなんともアクティブな格好をしていた。


「こんにちは! 私、ガムリディア・レベシーっていうの。よろしくね」

「あ、はい。俺はアダチ・リョータです。よろしくお願いします。レベシーさん」

「うん。よろしく! もしかして君も新入生?」

「はい、そうです」

「ほんと!? 私もなの! 同級生が隣の部屋なんてめっちゃ心強い! あ、タメ口でいいからね」 

「わかった。敬語外すね」

「うんうん。その方がなんか、同級生!って感じしていいよね〜。あ、やば! 勉強しないと。また今度ね、リョータくん」


 勢いよく出てきた彼女は、勢いよく部屋へと戻っていった。廊下が静かになり、もう一度鍵を開けようとした。カチャリと音がなり、扉が開く。そして、ナトリー様が話しかけてきた。


「ここに来る前にも伝えたが、君が異世界人だということは隠しておいた方が良いだろう。こちらとしてもあまりバラしたくないからな。それと、授業でこの世界の基礎についても触れるように伝えてある。詳しい事情はあまり聞かれなかったが、基礎知識も教えてくれるそうだ。私がついてこれるのはここまでだ。後で召喚時に持っていた荷物を持ってこさせる。あとは好きにしろ」

「分かりました。お忙しい中ありがとうございました。また、何かあったらよろしくお願いします」

「あぁ、それと特殊な機械が荷物に入っている。おそらく説明が無くても使えるだろう。何かあったら私のもとに来てくれれば対処する。」


 それだけ伝えると、ナトリー様は帰っていった。

 気を取り直してドアノブに手をかける。扉を開け部屋の中へと入った。


 部屋の中には生活必需品が備え付けられていて、ご丁寧に使い方までおいてあった。キッチンがある短い廊下の先にリビングがあった。ローテーブル、ハンガーラック、布団がおいてあるシンプルな部屋だった。部屋の状態もきれいで、これから暮らすのに問題はなさそうだった。

 しばらく座ってゆっくりしていると、扉がノックされた。返事をして外に出ると、スクールバッグを持った人とヴェノンさんが居た。荷物を受け取り、ヴェノンさんを招き入れる。


「いや〜、邪魔してごめんね。でも、ナトリー様に『リョータは世間知らずだから、お前が道具の使い方を教えろ』なんていうからさ。本当にごめんね。すぐ帰るからさ」

「全然大丈夫です。俺としては使い方を直接教えてもらえるのとても嬉しいので」

「めっちゃいい子〜! あのナトリー様の知り合いだっていうから、氷の様な人かと思ったよ〜。じゃあ、まずはこの洗濯機から教えるね」


 キッチンの使い方や蛇口からお湯を出すやり方など、ありとあらゆる物の使い方を教えてもらった。数十分ほどで終わり、その後は早速キッチンを使ってお湯を沸かした。


 ナトリー様の気遣いで、最低限必要な物以外にも、鞄が何種類もあったり、携帯があったり、お茶までおいてあった。一息つきたかったので、お茶菓子と王宮でもいただいた、了茶を飲むことにした。


 お茶菓子はモナカみたいなもので、中に入っている餡がとっても美味しかった。まろやかな味わいのお茶でほっとしたところで、預かられていた荷物を見た。教科書やペンケースに、スマホが入っていた。

 スマホの電源を入れるが、時間の表示はおかしくなっていて、電波も入っていなかった。この調子じゃ、電話をしても繋がらないだろう。家族と連絡を取るのは諦めて、届けてくれた荷物に入っていた学校のパンフレットに目を通すことにした。


 俺がこれから通う学校は【国立レストレジェル学園】という名前らしい。貴族からも人気が高く、一般クラス、専門クラス、エリートクラスの3つに分かれているという。そして、そこから更に専門的な科に分かれている。先生紹介などに目を通した所で、ナトリー様が言っていた機械の存在が気になった。


 その機械は二つ折りの携帯で、開くと液晶が光った。メニュー画面には連絡先や写真と書いてある。ボタンを操作して、連絡先の項目を押す。そうすると、ナトリー様や国王様の連絡先が入っていた。そして、秘密携帯の説明が出てきた。

【この携帯は秘密携帯といいます。デザインが可愛いですが、全ての秘密携帯が同じデザインなので許してね! ところで、この携帯は君にしか開けないから安心してね。最初に開いた人の魔力が登録される仕組みなんだ。そして、この携帯の写真項目ではシャッター音を鳴らさずに写真が撮れるよ! そして、連絡先に国王陛下の名前があると思うけど、君は特別に陛下と連絡が取れるんだ! ナトリー様にもここから連絡できるよ〜あ、そうそう。この携帯にはお友達の連絡先は入れないでね。あくまでスパイに関する人の連絡先だけ入れること! いいね!?】


 すべての説明を読み終わると、試しに写真を撮ろうとした。すると、写真項目にもまた説明が出てきた。

【写真はあなたの魔力を吸い取って撮る事ができます。1未満の微量な魔力を使います。動画は長くなればなるほど、消費魔力は多くなります。でも、魔力切れにはならないと思うから安心してくださいね。では、よきスパイライフを――】


 写真の説明は連絡先の説明とは違い、落ち着いている雰囲気だった。きっと、入力した人が違うのだろうと思った。試しに写真を撮ってみる。画質もよく、問題なさそうだ。


スクールバッグだと目立つかと思い、部屋においてあった鞄に荷物を入れた。服も元の世界の制服から着替え、落ち着いた色のTシャツを着た。

 ボディバッグを身に着け、部屋を出る。カードキーを財布にしまうと、部屋においてあった寮や周辺の地図を見た。どうやら、寮には庭があるらしいので、一旦玄関から外に出た。建物沿いを歩いていると、芝生が見えてきた。奥には木が生い茂っており、森のようになっていた。


 自然を感じながら歩いていると、遠くから声が聞こえてきた。


「ない、ない、ない!」


 近くに行くと丸眼鏡をかけた男性が背の高い草の間に這いつくばり、何かを探していた。

 何事かと思い声をかけた。


「どうしたんですか?」

「あ、えっと、大切な物をなくしてしまって」


 突然声をかけられ驚いている彼に、「大切なものはどんな見た目ですか?」と聞いた。


「先に青い石がついているペンダントです。幼馴染から貰ったもので、石の中に魔石が入っているんです」

「なるほど。俺も一緒に探してもいいですか?」

「え!? 良いんですか。ぜひお願いします。あ、僕はバーナ・マル・アルバートです。新一年生です。マルって呼んでください」

「俺はアダチ・リョータっていいます。俺も新一年生です。よろしくな、マル!」


 そこからはペンダントを落とした可能性が高い場所を手分けをして探した。その間にはマルの事を知ることが出来た。マルの敬語はデフォルトで、バナナが好きなことが分かった。ペンダントには幼馴染の魔力が入った魔石があり、お守りとしてずっと大切にしてきたという。


 しばらく探していると、黄緑色の草の中にキラリと光るものがあった。手に取ってみると、チェーンがついていて、青い石がはまっていた。


「マル! あったぞ!」

「良かった。リョータさん、ありがとうございます」


 ペンダントを渡すと、すぐに首にかけた。その後は自然な流れで近くのベンチに座り、少し話をした。


「本当にありがとうございます。このペンダントは亡くなった幼馴染からの最後のプレゼントだったんです。」

「そう、なんだ。」

「って、急にこんな話、重いですよね。でも、本当に良かった。さっきは僕の話をしましたが、リョータさんの話も聞きたいです。」

「じゃあ、俺の好きな食べ物は――」


 マルといっぱい話をした。そろそろ夕飯の時間だったので、お開きにして食堂へと向かった。部屋に食堂の使い方が書いてあったが特に難しいところはなかった。バイキング形式になっているので、トレーとお皿を取り、料理をとるだけ。


 食堂に入り、トレーいっぱいに料理を取ると、席を探した。今の時間帯は混んでいて、相席しか空いていないようだった。近くの人に声をかける。


「ソファ側の席座ってもいいですか?って、マル!?」

「リョータさん! ぜひ座ってください」


 マルが机の半分を開けてくれた。小柄なマルからは考えられない量の料理が机にのっていた。

 また少し話しながら食事をして、一緒に部屋まで戻った。そのときに、驚くべき事実を知った。なんと、マルの部屋が隣だったのだ。レベシーさんも新入生で隣だったのでまさかとは思ったが、本当に隣だとは。


 部屋に入ると、秘密携帯を開いた。連絡項目に通知マークが付いていて、ナトリー様から連絡が来ていた。


【明日、学校に関する書類を届けに行く。必要事項を記入してほしい。それと、君が入ることになる科は、エリートクラスの天才科だ。ここがスパイ科になる。表向きは入試の成績が11位から21位の人が入れる。というふうになっている。くれぐれも他の人にスパイ科だと伝えないこと。あぁ、そうだ、制服も明日届ける。以上】


 わかりました、と返信をして今日はもう寝ることにした。その前に風呂に入っていなかった事を思い出し、大浴場へと向かった。



 寮の地図には大浴場があると書いてあった。表から見た時は二階建てにしか見えなかったが、実は三階まであるようで、三階に大浴場がある。なんと露天風呂付きだそうだ。


 風呂から出て、近くにあった機械から牛乳瓶を取り出した。やっぱり、風呂上がりの飲み物といえば牛乳か、コーヒ牛乳だろう。コーヒ牛乳を飲むと、部屋へ戻った。


 布団を敷いて明かりを消すと眠りについた。

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