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1話 俺がスパイ?

 9月に入り、少しずつ朝の気温が下がってきた。薄い上着を持ってこなかったことを後悔しながら、俺は肌寒い住宅街を歩いている。腕で体を擦りながら、高校に行くために、最寄り駅に向かってると、ふいに違和感を感じ下を向いた。


「!!」


 下を向くと、地面には、先程までなかったはずの謎の魔法陣ができていた。

 すると、魔法陣は激しい光を放ち、あっという間に俺の体をつつみ込んだ。眩しさに耐えきれず、しゃがみ込む。光は段々と収束していき、目を空けた。


 目を開けると、そこは、住宅街ではない別の場所だった。


「は? え? なんだよこれ……」


 俺の周りをぐるりと一周、ローブを着た人や、鎧を着た人、タキシードを着た人たちが囲んでいた。そして、その人達は一人、また一人と壁際に寄っていく。誰も俺の周りからいなくなると、初めて、目の前に広がる光景を見ることができた。


 幅の広い、赤い絨毯に高い高い階段。その頂上には、王冠をかぶった茶髪の男性と、桃色の髪に桃色のドレスを着た女性が、金色の椅子に座っていた。男性は国王様で女性は王妃様のように見えた。

 辺りをよく見れば、天井には天使が描かれていたり、シャンデリアがぶら下がっていたり。一人一人の服装や調度品が豪華で高価そうなものばかり。

 ますます、今の状況に困惑していると、男性が口を開いた。


「少年をアシュレーゼ王国、国王が歓迎しよう」


 やはり、男性は国王様だったようだ。


「ここは、少年が元いた場所とは違う異世界だ! そして、少年には頼みたいことがある。その前に質問はあるか?」


 (質問なら色々あるけど、一番重要なのは……)


「あの、俺ってこの世界に召喚されたってことで、あってますか?」

「ああ。あっている」

「なら、元の世界に戻ることって可能ですか?」

「出来るが、今すぐには無理だ」


 (無理か、そうだよね)

 少し落ち込んでいると、壁際に立っていた男性が、一歩前へでた。


「その件に関しては私から説明してもよろしいでしょうか」

「もちろんだ」


 国王様の許可をもらうと、銀髪で長髪の男性は話を始めた。


「私はマシュトルク・ナトリーという。魔法団という団体の第二部隊の団長をしている者だ。我々第二部隊は召喚魔法についての記録や、指示出しなどを行っている。そして、召喚魔法には大量の魔力を消費する。よって、魔力を国を守っている結界に使う魔力とは別に貯めなければならない。なので、すぐに君を元の世界に戻すと、国の結界に使う魔力が少なくなり、防御が疎かになり、魔物などが侵入する可能性がある。だから、君が元の世界に戻れるとしても数年後になるだろう」

「数年後。それまでの衣食住とかは……」


 この質問にはナトリー様ではなく、国王様が答えた。

「もちろん衣食住は国で用意する。最大限に良い環境を用意する」

「ありがとうございます」


 どこぞの森で暮らせとか言われたら、どうしようかと思ったが、野垂れ死ぬ心配はなさそうだった。そうなると、気になるのは国王様が言っていた、頼みたいことについてだ。

 衣食住は提供してくれるらしいが、何を頼まれるのだろうか。拒否権はあるのだろうか。不安になったが、今ここで考えても仕方がないので、聞いてみることにした。


「さっき仰っていた頼みたいことって……」

「そうだな。その話をしよう。少年には、なって欲しい職業がある。その職業とは……」


 緊張でゴクリと喉がなる。張り詰める空気の中国王様の口から出た言葉は、

「スパイになってほしい」

だった。


「え? す、す、スパ? スパ」

「スパイだ」

「ええええええええ!?」


 王宮中に、俺の悲鳴が響いたことだろう。まさかスパイになってほしいと言われるとは。

 だって俺は……()()()()()()のだから。


「ナトリー、少年を応接室へ連れて行け」

 国王様が指示を出した。

「分かりました。こい、行くぞ」

「え? あ、はい!」


 ナトリー様は一瞬だけ俺を見ると、早足で歩き始めてしまった。俺は頼み事を自分の中で、受け入れる間もなく、ナトリー様に必死についていった。


「適当に座っておけ」

 長い廊下を歩いた末にたどり着いた応接室。ナトリー様に言われるがまま、ソファに座る。部屋のあちこちには高級そうな家具に、美術品が置いてある。近くの台でナトリー様がお茶を入れている音のみが、この部屋に響いていた。ここから見えるナトリー様の顔は険しく、俺の事を、あまり良く思っていないであろうことが、表情から伺えた。


 十分ぐらいしたのちに、扉がノックされた。国王様の声がして、ナトリー様が返事をする。開いた扉からは国王様のみが入ってきた。


「こちら、陽ノ牙国(ひのがこく)産の了茶(りょうちや)です」


 ナトリー様が机に置いたのは、薄緑色をしたお茶だった。一口飲むと、味は俺の地元に売っていた、緑茶とあまり変わらなかった。ただ、了茶の方が少し、まろやかな味をしていて、癖のない味わいだった。茶菓子も出されたが、誰一人として口を付ける事はなく、話が始まった。


「少年よ。まずは、勝手に召喚したことを謝らせてくれ!」

「国王様!? 顔を上げてください」


 深々と頭を下げた国王様に慌てて言葉を投げかける。しばらく頭を下げたままだったが、ようやく頭を上げてくれた。


「その、驚きはしましたけど段々と、俺もこの状況を受け入れ始めていますし。あまり気にしないでください」

「そう言ってもらえるとは。本当にありがとう。早速本題にはいらせてもらう。今、王国のスパイは人手不足だ。なので、ステータスが高いと思われる少年には、元の世界に戻るまでの間、スパイをしてほしい」

「分かりました。でも、一つだいじな話があって。その、俺、嘘をつけないんです。」

「そうか。でも、問題ないだろう」


(え? 問題ないって……。嘘をつけないことって、めっちゃ問題だと思うけど。)

 例えば、変装してどこかの機関に潜入したとする。普通の人なら、怪しまれて、あなたは本当に研究員ですか?とか、貴方の正体は? とか聞かれても、はいそうです。と言えるだろう。でも、俺は……いいえ違います。と言ってしまう。

 だから、スパイに向いてないと思うけど、何か策があるのだろうか?


 国王様の隣に座っていた、ナトリー様が手を上げ、話を始めた。

「そこに関しては少し時間をいただければ、魔法石というものを使った道具で、対処できるだろう。」

「魔法石?」

「魔法石とは魔法が込められた石だ。これを使うことで魔法を使うことができる」

「なるほど。やっぱり、魔法って便利ですね」


 その後は、これから作る魔法石道具について話を受けた。そして、俺の心はもう決まっていた。この世界でしばらく生きていくことになるのなら、少しでもこの国の為に、何かしたいという気持ちが、芽生えてきていた。


「少年よ、スパイを頼めるだろうか?」

「はい。スパイとして、これから、よろしくお願いします」

「ありがとう。それじゃあ、ステータスを見に行ってくれ。その後、学校の寮へ入ってもらう」

「学校の寮?」

「少年には明後日から始まるスパイ科がある学校に通ってもらう」

「スパイの学校ぉぉおおお!?」


 俺の悲鳴が、また王宮中に響いたことだろう。でも、まさかスパイの学校があるとは。確かに、冷静に考えればあってもおかしくない気がする。


「私が、ついていけるのはここまでだ。後はナトリーに任せる。最後に少年の名前を聞いてもいいか?」

「安立良太です!」

「リョータか、いい響きだな。」


「国王様、お忙しい中ありがとうございました」

「気にしないでくれ。お礼を言うのはこちらの方だ。召喚について、スパイについて受け入れてくれてありがとう」


 忙しいはずの国王様の時間を、奪ってしまったことに、罪悪感を覚え、簡単にお礼を言う。そして、ナトリー様にせかされ、ステータスを見れる魔法石道具が、置いてある場所に向かった。

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