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creep

作者: odayaka


 奈良に一度だけ行ったことがある。

 母親も同伴だったはず。

 でも、彼女がいたと言う記憶はない。


 大学受験で田舎から出て来た。

 まぁ、都会の人からすれば奈良だって地方の田舎なんだろうけど。


 もっと西の、西の、日本の中でも田舎と呼ばれるような土地から来たから。

 だから、奈良だって、俺にして見りゃ『出て来た』になるわけで。


 奈良までどうやって出たんだか覚えてはいない。

 新幹線だって通らないような田舎だから。


 バスに乗った記憶はないから、JRの特急を乗り継いでいったんだろう。


 ただ、奈良に着いてからも、電車に乗ってても、田園風景が見えるばかりで。

 何だ、田舎じゃないか、と。

 別に馬鹿にしたわけでもなく、ほっとしてた。


 とは言え、やっぱ、電車の便は多くて。

 都会はやっぱ違うな、と多分、本気で思ってた。


 もう、昔の話だから。

 もう、昔の話だからさ。





 東北弁を話す女の子がいた。

 制服を着てさ。

 同じ受験生なんだろうな、と思った。

 地味な、女の子。

 ショートカットで、まぁ、教室見渡せば二、三人くらいはいるだろう。


 方言っていいな、って。

 思ったね。俺もバリバリの方言で。


 多分、そんなこと思ってた、って知れたら、都会の人たちも馬鹿にするんだろうな。



 確か、奈良の大学は落ちたな。


 田園風景が続いてる。

 やたら豪華なホテルに泊まった。

 バイキングだったかな。

 どうでも良かった。今から考えたら。







 東北訛りの子がいたのは。

 受験会場だったのかな。

 覚えてない。

 断片的にしか。




 親父と泊まったビジネスホテルを思い出す。

 いびきがやたらうるさくて。

 ムカついてた。

 あれは鳥取の大学の受験だった。

 ビジネスホテル。ツインの部屋。




 ありがとう、って言えなかった。






 俺は自分が悍ましくて。



 俺は、自分が震える程、悍ましくて。








 ありがとう、と言いたかった。







 ありがとう、と言いたかったんだ。









 あの子は、赤いスカーフを首に巻いてた。

 黒いセーラー服を着てた。


 笑顔一つ思い出せない。





 当たり前だよな。


 あの子とはその時だけだったんだから。



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