くしゃみしたら宇宙まで飛んじゃったから、どうすれば良いかAIに聞く
今年のスギ花粉は本当にひどい。朝からくしゃみが止まらない。鼻の奥がムズムズして、ティッシュの箱がもう空になりそうだ。薬も全然効かないし、いっそこのまま、地球から飛び出してしまいたい気分だ。
「は、はっくしゅん!」
盛大なくしゃみが俺の体から噴き出した。と同時に、背中にあったはずの壁が、足元の床が、目の前の窓が、すべて消え去った。
「……あれ?」
目の前には信じられない光景が広がっていた。真っ黒な宇宙空間に、鮮やかな青と白が輝く巨大な球体――地球だ。俺はさっきまでいたはずのリビングから、文字通り宇宙に放り出されていたのだ。
呼吸ができない。いや……なんかできてるな?体はゆっくりと回転し、周囲の無数の星々が静かに瞬いている。
「くしゃみ、強すぎた……?」
どうしよう? 手の中を見ると、スマホが握られている。
「こうなったら、AIに聞いてみるか」
俺はスマホの画面をタップした。
「くしゃみしたら宇宙に来たんだけど、これどんくらいで地面つく?」
「ユーザー様、ご無事でしょうか。現在の状況を把握し、サポートを開始します。
まず、地面に到達するまでの時間ですが、正確な高度が分からないと算出できません。
現在、どのような景色が見えていますか?
目の前に、巨大な青い球体が見えますか? その表面の雲や陸地の模様は、どの程度詳細に見えますか?
周囲には、無数の星々が瞬いていますか?
太陽の光は、直接当たっていますか? それとも、地球の影に入っていますか?
国際宇宙ステーション(ISS)や人工衛星のような構造物は見えますか?
これらの情報から、おおよその高度を割り出し、地面までの時間を推測することが可能です。」
「地球見えるよ、青い球体に見える。雲の渦巻きも、陸地の茶色や緑色の模様も見えるよ。太陽眩しいけど、星もたくさん見える。飛ばされた瞬間宇宙ステーションみえた、もう遠いけど」
「承知しました。詳細な情報ありがとうございます。
地球が青い球体に見え、雲の渦巻きや陸地の模様がはっきりと見える、そして宇宙ステーションが少し前に見えたという情報から判断すると、あなたは現在、地球の低軌道上、おおよそ高度300km~500kmあたりにいらっしゃる可能性が高いです。これは、国際宇宙ステーション(ISS)が周回している高度とほぼ同じです。
〈地面に到達するまでの時間〉
この高度からの落下についてですが、単純な自由落下で地面に激突するという形にはなりません。
落下開始: 現在の軌道から地球の重力に引かれて徐々に高度を下げ始めるでしょう。
大気圏突入: 高度約100km付近から地球の大気(空気)が濃くなり始めます。ここからが最も危険なフェーズです。
燃え尽きる可能性: 宇宙服や特別な耐熱装備がない場合、大気との猛烈な摩擦によって体が加熱され、燃え尽きてしまう可能性が極めて高いです。これは、流れ星が燃え尽きる現象と原理は同じです。
もし仮に、奇跡的に大気圏突入時の熱や衝撃に耐えられたとしても、現在の高度から地上に到達するまでには、数十分から1時間程度かかる可能性があります。しかし、繰り返しますが、装備なしでの生還は現在の科学では不可能です。
この状況、非常に危険です。他に何か、私にできることはありますか?」
「こえーな。なんか息もできるし体も熱くないみたい。何かできることありそう?」
「ユーザー様、それは非常に奇妙な状態ですね。本来、宇宙空間では呼吸ができず、体温も急速に失われるはずです。その感覚がないというのは、通常の物理法則があなたに適用されていない可能性を示唆しています。
この状況下で、私に何かお手伝いできることはないか、いくつか提案させてください。
〈現在地に関する追加情報〉
もし可能であれば、以下のような情報で現在の状況をより詳しく把握できるかもしれません。
見える地球の様子に変化はありますか? 例えば、先ほどより地球が大きく見えたり、雲や陸地の模様がさらに詳細に見えるようになったりしていますか?
周囲に何か異常な光や現象は見えますか? 通常の星の光とは異なる、奇妙な色の光や、何らかのエネルギーのようなものが見えるでしょうか?
体はどちらの方向に動いていますか? 地球に向かって落ちている感覚ですか? それとも、地球の周りを回っている感覚ですか?
〈今後の対策について〉
もし、あなたの体が物理法則を超越した状態にあるのであれば、通常の宇宙飛行士が直面する問題(酸素不足、低温、放射線など)とは異なるアプローチが必要になるかもしれません。
何かに捕まれる場所を探す: もし近くに宇宙ステーションの破片や、他の人工物が見えるのであれば、それに触れることで、少なくとも無重力下での漂流状態からは抜け出せる可能性があります。
自分の体調に変化がないか注意する: 呼吸ができる、寒くない、という状態が続いているか、痛みや痺れなど、他に変わった感覚がないか、継続して確認してください。
この状況下で、私にできることは限られますが、あなたの状態や周囲の情報を詳しく教えていただければ、引き続き最善のサポートを試みます。」
「段々地球大きくなってるね。地球に向かって落ちてる感覚あるよ」
「承知しました。地球がだんだん大きくなり、地球に向かって落ちている感覚があるのですね。
ユーザー様、情報ありがとうございます。地球が大きく見え、落下している感覚があるということは、高度がさらに下がっていることを示しています。
このままでは、まもなく大気圏に突入し、非常に危険な状態になります。
しかし、先ほどお話ししたように、あなたの体は通常の物理法則に縛られていないようです。この「息ができる」「体が熱くない」という状態が続いているのであれば、もしかしたら、大気圏突入時の熱や衝撃も、通常の人間とは異なる形で耐えられる可能性も考えられます。
〈今、できること〉
体の変化に最大限注意を払ってください。 落下速度が上がっているはずですので、空気の抵抗を感じ始めるかもしれません。もし何か物理的な変化(例えば、風圧を感じる、体が温かくなるなど)があれば、すぐに教えてください。
着地地点の特定を試みます。 地球の表面がより詳細に見えるようでしたら、どのような地形が見えますか? 例えば、広大な海、大陸の形、山脈、都市の光など、具体的な情報があれば、おおよその着地地点を推測できるかもしれません。
非常に緊迫した状況ですが、引き続きサポートいたします。」
「体は大丈夫だわ。なんなら快適。海よりは陸地沢山見えるね」
「ユーザー様、体が快適でいらっしゃるというのは、本当に驚くべきことです。通常の人間であればありえない状況ですが、何よりご無事で良かったです。
「海よりも陸地がたくさん見える」とのこと、情報ありがとうございます。
〈着地地点の推測〉
陸地が多く見え始めたということは、あなたは太平洋上空から、ユーラシア大陸や南北アメリカ大陸といった大きな陸地に近づいている可能性があります。具体的にどのような形の陸地が見えますか?
アフリカ大陸やアラビア半島のような砂漠地帯が見えますか?
ヨーロッパや北米のような緑豊かな大陸ですか?
アジア大陸の広大な平野や山脈が見えますか?
〈今後の対策〉
体が快適でいらっしゃるのであれば、引き続きあなたの感覚が重要になります。
視界に変化があったら教えてください。 例えば、建物や道路、田畑など、より具体的な地上の様子が見え始めたら教えてください。それが着地地点の特定に繋がります。
何か着地の兆候を感じたら教えてください。 例えば、空気抵抗をわずかに感じる、特定の匂いがする、音が聞こえるなど、どんな小さな変化でも構いません。
引き続き、状況に合わせて最善のサポートを提供します。」
「多分だけどユーラシア大陸の真ん中くらい!」
「承知いたしました。ユーラシア大陸の真ん中あたり、とのこと。広大な地域ですが、着地地点が絞られてきましたね。
ユーザー様、情報ありがとうございます。ユーラシア大陸の真ん中あたり、ということは、中央アジアの広大な平原や山岳地帯、あるいはシベリアの森林地帯などが考えられます。
高度がさらに下がっているはずですので、地上の様子がより詳細に見えていることと思います。
着地地点をさらに特定するために
もし可能であれば、以下の点について教えていただけますか?
どのような地形が最も目につきますか?
広がる平野ですか?
高い山々が見えますか?
大きな川や湖が見えますか?
森林が広がっていますか?
砂漠のような乾燥した土地ですか?
人工的な構造物(建物、道路、畑など)は見えますか?
もし見えたら、それはどのような規模のものですか?(小さな集落、大きな都市、点々と続く道路など)
着地はもう間近と思われます。引き続き、あなたの感覚と見えるものに集中してください。」
「平野だ!ごめんもうすぐ地面着くわ!」
「承知しました。平野が見えているのですね。そして、もうすぐ着地とのこと。
ユーザー様、情報ありがとうございます! 平野ということは、着地まであとわずかです。
周囲の景色は、より鮮明に見えていますか? 建物や具体的な地上の構造物が見えるレベルでしょうか?
着地は非常に衝撃を伴う可能性があります。最後の瞬間まで、体に異変がないか、周囲に変化がないか、最大限注意を払ってください。」
すまんが、もう最大限注意を払っている場合ではない。
「うおおおおお! もう終わりだああああ!!」
「あれ……? 鼻がムズムズしてきた……?」
「は、は、はっくしゅん!」
数分ぶりの盛大なくしゃみが、俺の体から噴き出した。
その瞬間、体にフワリと減速がかかった。まるで、空中で誰かに優しく受け止められたような感覚だ。強烈な勢いで地面に突っ込んでいたはずの体が、まるで羽のようにゆっくりと舞い降りる。
そして、俺は地面にふわっと着地した。
「た、助かったー!」
思わず叫んだ。死ぬかと思った。
「は、はっくしゅん!」
喜びもつかの間、再びくしゃみが出た。鼻の奥が止まらない。
「やばい、また花粉症だ……。ここ、どこだろう?」
見渡す限りの緑の平野。遠くに小さな街のようなものが見える。
やばい、何も持ってない……。いや、スマホがあるな。AIに聞けばなんとかなるか。とりあえず、あの街まで歩いて、観光でもして帰ろっと