婚約破棄されたけど、偽聖女じゃ世界は救えないと判明したので私が浄化します
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貴族令嬢メルト・ティーナには秘密があった。
___それは十歳の誕生日に突如として前世の記憶が戻ったこと。そして、自身が‘‘聖女‘‘だったという事実
前世の名は『東雲優樹菜』。かつて‘‘日本‘‘と呼ばれる異世界で穢れに満ちた土地を救おうと戦い続けた聖女。だが、力が足りず世界を救うことができずに命を落としてしまう。目覚めたこの世界も、同じように穢れが広がっていることを知ったティーナは、再び聖なる力を呼び覚ました。
以来、彼女は力のことを誰にも明かさずに王都から離れた辺境の村で静かに暮らしていた。
名を告げず、立場も明かさず、ただ目の前の人を癒し浄化し命を照らし続けた。
____人々はやがて、彼女をこう呼んだ。
「女神さまだ」
けれど本人は、その呼び名を受け入れなかった。
「私は、女神なんかじゃない。ただの偽善者……。罪滅ぼしのために、力を使っているだけ……」
______それから十年後
★✩
王都に激震が走った。
「異世界から‘‘聖女‘‘様が召喚されたらしい!」
王命により執り行われた‘‘召喚の儀‘‘。現れたのは‘‘ヒカリ‘‘という少女だった。可憐な容姿に愛らしい笑顔。謙虚な言葉遣いや振る舞いが人々の心を瞬く間に掴んだ。
王都は彼女の話でもちきりになった。
その光景をティーナも目のあたりにしていた。
____おかしい。
確かに、人の心を惹きつける‘‘なにか‘‘はある。だが、‘‘聖なる力‘‘は感じられなかった。
「まさかあの子……‘‘聖なる力‘‘がない……?」
ティーナには聖なる力の‘‘光‘‘が視える。聖女であれば、神聖なオーラが常に身体を包んでいるはずなのに___ヒカリからはまるで感じない。
むしろ、まるで真逆の気配。人の心を強制的に縛る、なにか歪な力
それもそのはずだった。ヒカリが持っていたのは聖なる力ではなく____【チャーム】。無条件で心を魅了する能力で心を操る呪いの力。
それに魅了されたのはメルト・ティーナの婚約者であり第二王子でもあるフロスト・クロードである。
★✩
祝賀の会が開かれた夜。ティーナの運命が静かに崩れた。
「メルト・ティーナよ! すまないが君との婚約を破棄したい。私は、聖女ヒカリを未来の妃にするつもりだ」
王族として、政略結婚として結ばれた婚約。それを一方的に切り捨てるなら、正当な理由がなければ王家の信用にかかわる
「……理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
ティーナは静かに問いかけた。
「ただ、彼女に一目惚れしたのさ」
「それだけ……ですか?」
「君は冷たく、笑わない。ヒカリは優しく、いつも笑っていて落ち着くんだ! それに、言葉にはできないが彼女には‘‘特別な魅力‘‘がある」
宴の場に、ざわめきが広がった。だが、ティーナは表情を崩さなかった。
「……では、あなた方の幸せをお祈りします」
そう告げて、静かに踵を返した。
その背を、誰も追いかけなかった。
______それから数日後
★✩
突如として厄災級の大魔獣が王都を襲った。咆哮一つで大気が揺れ、炎を吐いて街を焼き尽くす。
騎士団も兵士ではまるで歯が立たず、民も逃げ惑い王都は火の海と化した。
悲鳴が飛び交い、空は赤黒い煙に覆われていく。その光景はまるで地獄のようだった。
「くっ、こいつ剣が効かない!?」
王太子クロードは、騎士団を率いて魔獣と応戦していた。その傍には、聖女と称えられているヒカリが控えている。
「ヒカリ! 聖なる力でこの魔獣を払ってくれ!」
クロードの叫びに、ヒカリは顔を引きつらせた。
「む、無理です……! 私にはそんな力、ありません……」
「なに……?」
「クロード様……お願いです。わたしを、守ってください……!」
次の瞬間、魔獣の巨大な爪が振り下ろされた。
「ぐっ……受け止めきれない……!」
クロードが剣で受け止めようとするも、重さに押しつぶされ地面に叩きつけられる。
____このままでは、王都が滅ぶ。
そのとき。
真っ白な光が、炎に包まれた空を貫いた。
静寂が訪れ、熱気すら洗い流されるような感覚。
「ティーナ……なのか?」
誰もが視線を向けた先にいたのは、メルト・ティーナだった。
彼女の全身は、眩い金色の光をまとっていた。背には、天使のような羽。
「こ、これは……?」
「聖なるオーラ……彼女が本物の聖女……なのか!?」
人々のざわめきが広がる中、ティーナは静かに手を掲げる。
「穢れよ、払われよ。‘‘無‘‘へと還りなさい」
その声と共に、聖なる力が拡がり魔獣を包み込む
魔獣は断末魔を上げる暇すら与えられず、魔獣は浄化されて塵となり崩れていった。
やがて静かになった王都の上空に、柔らかな光だけが残った。
誰もがあっけにとられて立ち尽くしていた。
「……あなた、本当に……聖女なの?ごめんなさい……」
かすれた声で、ヒカリが問いかけた。
ティーナは彼女を見つめる。その瞳に、憎しみはなかった。
「ええ。あなたは‘‘噓‘‘をついていたわけじゃないのよね。怖かったのよね……帰る場所を失うのが」
「本当にごめんなさい……!私、ただ……」
「……もう大丈夫。あなたの罪は私が背負うわ」
そう言って、そっと手を伸ばし神々しいオーラがヒカリにまとわりつく呪いを浄化した。
「これであなたは自由よ。‘‘呪い‘‘チャームを浄化したわ」
「チャーム……ですか?」
「あなたの心の弱さに取り憑き周囲の心を魅了していたのよ」
ヒカリの瞳が見開かれる。
「そんな……わたし、わたし……」
クロードはその光景を呆然と見つめていた。ヒカリの正体、ティーナの真実。すべてを知った今____彼は初めて、自分が何を失ったのかを理解した。
メルト・ティーナ。
かつて前世で世界を救えなかった彼女は、今再び聖女として王国を救った。
誰にも知られることなく、ただ人々を癒すために。
それが、彼女の背負った‘‘贖罪‘‘だった。
____そして、彼女の物語の、本当の始まりでもある。
ここまで見てくださってありがとうございます!(´▽`)
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