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「もっとカッコよく書いてよ!」

作者: 小雨川蛙

 

「こんな感じでどうでしょうか?」


 私はそう言って魔王を倒した勇者に紙を一枚渡す。

 勇者はその紙を黙読していたが、やがて読み終わって言った。


「ここの戦いはもうちょっと激しかったと思う」

「えっ、そこはこないだ勇者様が『まさにこんな感じだった!』って絶賛したところなんですが……」

「いや、今読み直したらちょっと違うんだよ。もっと上手く書けない?」


 私はうんざりして大きなため息をつく。

 また書き直しだ。


 私は編纂者にして勇者の従者。

 常に勇者の隣に立ち、その軌跡を記録し続けていた者。

 強大なモンスターの倒し方や罠の解除の仕方や気をつけなければいけないダンジョン……とにかく勇者に同行していれば様々な知識が増えていく。

 私の役目は勇者が魔王に殺された時、直ちに帰還して後の勇者となるであろう者達に助言することだった。

 だが、目の前の勇者は見事に魔王を討伐し役目を果たした。

 故に私が記し続けていた書物はただの記録ではなく勇者の英雄譚へと変わった。

 そのお陰で勇者本人に注文をつけられているわけだが……。


「ダメだ。ここはもっとドラマティックに書けないか?」

「ドラマティックって……ここほとんど素通りだったじゃないですか」

「だけど、この辺り何にもなさ過ぎて退屈だろ?」


 私は苛立ちながらため息をつく。


「注文が多すぎます」

「いやいや! そんなことないって! だって、後世の人たちが読むんだよ!? 僕たちの物語を!」

「それにしても多すぎです。もう私は嫌になったんでこの結末も変えたいくらいです」


 そう言って私は記録の一番最後を指差す。

 それを見た途端、勇者は大慌てで叫んだ。


「ダメだ! それだけは絶対ダメ!!!」


 その様を見て私は少しだけ気が晴れる。

 何度も書き直しさせられるのには本当にうんざりしているが、この顔を見るのは本当に飽きない。


「ならもう少し注文を少なくしてください」

「いや、でも……せっかくの物語なんだし……」


 そう言って勇者は改めて結末の文章を見つめる。

 そこには長々とこう書かれていた。


『長い旅を終えた勇者は常に自分の隣を歩いていてくれた美しく可憐で聡明で優しくて作る料理は美味しくて歌も上手いし踊りも上手いし笑うと可愛い非の打ち所がない少女の魅力にようやく気づいて告白し末永く幸せに暮らした』

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