第5話:修行? いらないね。だってオレ、最強だから。
――王都エルグランディア、騎士団訓練場。
俺は、王国最強の剣士ヴァルド=ゼクトと向かい合っていた。
「……準備運動は終わりだ。さっさと、かかってこい」
ヴァルドが鋭い眼差しで剣を構える。
訓練場を囲む騎士たちも、固唾を呑んで見守っている。
でも――俺は微動だにしなかった。
「……や、やだ」
「……は?」
「めん、どい……ねむい……オレ、つよい。しゅぎょー、いらない」
その場でゴロンと横になる俺。
騎士団の見学者たちがざわつく。
「えっ、まさかの拒否?」
「戦う前からギブアップとか……」
「いや、それ以前に普通にしゃべってるんだが!?」
しかし、ヴァルドだけは違った。
彼は目を細め、低く呟いた。
「……お前、“わかって”言っているな?」
「んー……?」
「それなら――試させてもらう!」
ヴァルドの剣が一閃。
風を斬る音と共に、剣圧が俺を襲う――!!
「に゛ゃあああああああ!!!!(ガチ泣き)」
俺は叫んだ。いや、鳴いた。
その瞬間――
バシュッ!!!
「……なっ!?」
ヴァルドの剣が空を斬る。
次の瞬間――俺は彼の背後にいた。
「スキル発動」 風纏歩
【条件発動型】自身の悲鳴・鳴き声が一定以上の音量を超えた瞬間、超高速で空間を踏み抜き、音を置き去りにする移動術。
「……き、きえて……!?」
騎士団がざわつく。ヴァルドも驚愕の表情を浮かべた。
その隙をついて――俺はヴァルドの背中に飛びついた!
「ぬあっ!?!?」
そして、全力でにくきゅうストライクをお見舞いする。
「に゛ゃんっ!!」
ボゴォッ!!
「ぐっ……!!?」
ヴァルドの身体が吹っ飛び、地面を転がる。
俺は軽やかに着地し、ぺろっと前足を舐めながらドヤ顔で言った。
「……オレ、つよい。しゅぎょー、いらない!」
ヴァルドが、ゆっくりと立ち上がる。
額にはしっかり肉球マークが刻まれていた。
「…………」
沈黙。
ヴァルドは、じっと俺を見つめる。
そして――
「……悪くないな。お前、なかなかやるじゃないか」
その目は、なんとも言えぬ色で俺を見ていた。
しかし、言葉はどこか冷静で、驚いた様子はない。
「……え?」
「……その強さ、俺が認める。……ちょっとだけ、惚れたかもしれないな」
「……え?!」
ヴァルドが、ふっと笑う。
その表情は、戦士としての憧れと、ちょっとした好意を含んでいた。
俺は内心、めっちゃ焦っていた。
だが――ヴァルドの目が、なぜかキラキラと輝いている。
(……フッ。オレの強さに、ついに気づいたか)
俺は心の中でドヤ顔100%をキメるのだった。