第3話:王猫ニャルガ、ついに喋る日が近い……!?
王都エルグランディア――
神聖エルフ王国の中心にして、光と風と魔力が満ちる場所。
その城の中庭で、俺――ニャルガ=ドラグーンは、全力でゴロゴロしていた。
いや、これは違う。太陽魔力を吸収しているだけ。決してサボっているわけではない。
「ニャルちゃん、今日ももふもふですね~!」
笑顔でブラシを持ってくるのは、専属メイドのミーナ。
耳がちょっとだけとがった、ハーフエルフの女の子だ。
「ニャルちゃんの毛、ほんのりあったかくて……癒されるんです~」
(ああ……お前が癒されてるけど、俺も内心けっこう満足してるんだ……)
俺の癒しスキル「癒気の毛並み」、意外と大人気。
しかも、魔力吸収率も上がるらしい。ぶっちゃけ、サボりながらパワーアップできるとか最高では?
――なんて思っていたら。
「ニャル!」
元気な声が響く。振り返れば、銀髪の王女――リリィ=アルセリス。
相変わらず全力で駆け寄ってきて、俺を抱き上げる。
「今日も元気にしてた? ふふ、最近ますます表情が豊かになったね♪」
そう。
最近、俺……ちょっと“変化”が出てきている。
たとえば――
「……ッっ……にゃ……」
「!?」
たった今。
喉の奥から――ただの鳴き声じゃない、言葉になりかけた“音”が出た。
「今の……! 今、“にゃ”じゃなくて、“にゃ”のあとになにか言いかけたよね!?」
リリィの目が輝く。
「もしかして……本当に、“意思疎通”できるの!? 喋れるの!?」
(……ヤバい、これ、本当に来るかも。人語、解禁フラグ)
実は昨日、鏡を見ながらこっそり「ありがとう」って発声練習してた。
なぜなら、レベルアップ時にこんなスキル通知が出ていたからだ。
[スキル習得通知]
《言霊開放(第1段階)》:精神力と魔力の調律により、発声器官が再構成を始めました。意志を込めた発声が可能になります。
※現在は喉と魔核の進化中。あと2~3回の強い感情刺激で言語能力が目覚めます。
(つまり、テンション爆上がりとか感動イベントが起きたら、俺……しゃべれる!)
その時――
「ん?」
中庭の外で、剣戟の音が鳴った。
どうやら訓練場で、騎士団が模擬戦をしているらしい。
「……おっ?」
その中に混じっていた一人の青年。長身、鋭い目つき、魔力の流れが尋常じゃない。
「彼は……兄さまの側近で、王国最強の剣士、“ヴァルド=ゼクト”よ」
リリィが誇らしげに紹介する。
「最近、あなたのこと……気にしてるみたい。“魔獣じゃないなら、鍛えてみたい”って」
(えっ、今の俺を鍛えるって、どういうこと? 修行イベント来るの?)
その時、ヴァルドがこちらを一瞬だけ見た。
「……今はまだ、ぬるい毛玉、か」
去り際に、そう一言だけ。
(……ぬるい毛玉ぁ!? お前、あとで勝負だ……!)
怒りで耳がピクピク震える。
喉が、また少しだけ――震えた。
「……ッ……ヴぁ……」
「!? 今の、“ヴァ”って……!? ニャル、まさか名前を……!」
リリィが驚きで目を丸くする。
(そうだ。俺はこの世界で、生きる。戦う。そして……喋る!!)
こうして俺の中で、言葉を発する力が、少しずつ覚醒していくのだった。