第2話:王族のエルフに拾われたんですけど!?
人間に見つかったら厄介だな……そう思ったのも束の間。
なんか王女っぽい少女に拾われた。しかも、もふもふを全力で堪能されてる。
「あなた……幻獣ね!」って即バレした上に、なぜか家(王城)まで持って帰られました。
俺、ペットじゃないんですけど!? 説明しろこの世界!!
「……はあ、なんでまたこんなことに」
巨大イノシシを吹き飛ばしてから数時間。
俺は草原をさまよっていた。空も飛べるが、方向感覚ゼロ。地図もスマホもない。文明、消失。
「この世界、チュートリアルすっ飛ばしすぎだろ……」
ふわふわと滑空しながら、木々の間をすり抜ける。
崖を下り、川を越え、やがて――
「……ん? なんか……光ってない?」
森の奥。淡く光る花々と、水晶のような木々。
そこに立っていたのは――
銀髪のエルフの少女だった。
年の頃は十代後半。金と碧のオッドアイ。
白いローブには紋章が織り込まれており、明らかに一般人じゃないオーラ。
「…………っ!」
そのエルフが、こちらに気づき――目を見開いた。
そのまま走ってくる。
え、え、ちょっと、待って――!?
「もふっ!!!!」
突然、俺は彼女の腕の中に抱きしめられた。
完全に猫を拾ったテンションである。
「か、かわいい……!! いったいどこから来たの? 怪我は!? おなかはすいてない!?」
(あの……僕、喋れないけど意識はあるんです……)
心の声が届くはずもなく、少女は抱っこしたまま、わしゃわしゃと俺の首元を撫でまくる。
……うん、正直ちょっと癒されるけど!
「この毛並み……ただの幻獣じゃない。魔力の流れが規格外……!」
急に真顔になって、俺の額に手を当てる。
「もしかして、伝承にある――“空の竜猫”……?」
うお、種族名出た! てか、それ伝承レベルだったの!?
てことは、俺、めっちゃ貴重な存在ってことじゃん!
――と、そこへ、遠くから馬車の音。
「リリィ様ー! お待ちください!」
「見て、父上! この子、可愛いだけじゃなく、魔力量がすごいの!」
現れたのは、ローブ姿の若いエルフ男性。
風格ある顔立ちに、整った装飾の剣。そして、何より――
「リリィ様、お連れするにはいかがなものかと……それは、どう見ても魔獣です」
「ちがう! この子、魔獣なんかじゃない! ……たぶん、精霊か、聖獣の類!」
(ちょ、そこまで言ってくれるの!? なんか、ちょっと嬉しい)
「……連れて帰るのですか? 城に?」
「もちろん! 王の許可なんていらないわ。だって――この子、運命を感じるもの!」
え、王って……てことはこの子、ほんとに王族なの!?
しかも、運命ってそんな簡単に感じるもんだっけ!?
「よし、決めたわ。あなたの名前は……」
(来る!? 改名の流れ来る!?)
「――でも、なにか名前の印象があるような……うーん」
(やばい!ここで「モフ吉」とか変な名前にされたら、俺の異世界ライフが終わる!!)
祈るような気持ちで、俺は空中に自分のステータス画面を思い浮かべた。
ほら見て! 名前あるから! ニャルガ=ドラグーンって!
「……え? 今、光が……」
彼女の目に、ステータス画面が映ったのだろう。
目を輝かせて、こう言った。
「ニャルガ=ドラグーン……!? まさか、伝説の――」
(おお、セーフ!! かっこよくてよかった俺の名前!!!)
「……よし、ニャル。今日からあなたは、私の家族よ!」
こうして俺は、王族のエルフ――リリィ姫に拾われ、
王都エルグランディアへ向かうことになった。
これは、“もふもふで最強”な俺の、ちょっと甘くて騒がしい異世界生活の始まり――