第1話:目が覚めたら、もふもふで空を飛んでいた件。
気がついたら、そこは森の中。どう見ても日本じゃない。ていうか……俺、なんで四足歩行?
ツヤ毛のしっぽ、耳はピコピコ、声が「にゃー」とか言ってるんだけど!?
異世界に転生した俺の姿は、まさかのもふもふ幻獣――しかも、やたらと強い。
この世界、どうなってる!? ていうか誰か服着せろ!!
目を開けると、そこは――草原だった。
いや、正確には、高い崖の上から見下ろす、どこまでも広がる草原。そしてその景色を、俺は四つん這いで眺めていた。
「……ん? なんか、手が……毛深くない?」
視線を落とすと、そこにはモフモフの前足。肉球はぷにぷにで、爪がにょきっと出る構造。
完全に猫の前足――いや、猫っぽい何かだ。
「え、なにこれ……しっぽ長ッ!? しかも……翼、生えてる!?!?!?」
背中には、大きな滑空膜型の翼。
現実で見たことがあるような、コウモリのそれに似ているが、ずっと大きく、筋肉質で、内側から淡く雷光が走っている。
「なんで俺、こんな姿に……いや、まさか……」
思い出す。
終電を逃し、コンビニ飯で延命しながら資料を作り続けたあの夜。
ブラック企業の残業地獄の果て――限界を超えたその瞬間、俺は……
「死んだ!? 転生!? なにそれテンプレすぎない!?」
慌てる俺の目の前に、ふわりと青白い光が浮かぶ。
そこには――
[ステータス]
名前:ニャルガ=ドラグーン
種族:フェルゼ・ドラグリア(幻獣猫竜族)
属性:風・雷・炎(副属性:光)
翼種:幻獣滑空翼
特性スキル:
・風牙刃
・雷迅閃
・竜魂解放
・癒気の毛並み
・もふもふ威圧
「なにこの厨二設定!? いや、かっこいいけどさ!」
とりあえず「フェルゼ・ドラグリア」っていう猫とドラゴンのハイブリッド種族らしい。しかも属性多すぎ。
てか、「癒気の毛並み」ってなんだよ……癒せるの? 俺の毛で?
「てことは、俺の毛に……ヒーリング効果あるのか!?」
もふもふの自分の前足を見ながら、思わず試しにほっぺたに当ててみる。
「……ちょっと落ち着く。やべぇ……癒し属性ついてる……!」
そんな自分に軽く引きつつ、突如、崖の下から轟音が響いた。
「うおっ!? な、なんだ――」
現れたのは、体長3メートルを超えるイノシシ型モンスター。牙が二本、岩みたいに太くて鋭い。
「ちょ、おま、いきなりボス戦かよ!? 転生初心者に優しくないなこの世界!?」
しかし――
俺の背中の幻獣滑空翼が、勝手に動いた。風がうねる。雷が走る。
「おいおい……飛べるのか、俺……」
瞬間、視界が傾き、体が宙に浮いた。
「にゃあああああああ!?!?!?(本能的悲鳴)」
風を巻き起こし、雷撃を纏った俺の爪が――モンスターを一閃。
ドォンッ!!
大地が震え、イノシシモンスターが吹き飛んだ。
「……勝った? え、ちょっと待って。俺、今――普通に強くね?」
攻撃特化、翼もカッコいい、そして癒しもできる。
この転生、もしかして――
「……最強なのでは? いや、でも名前が『ニャルガ=ドラグーン』って。かっこいいんだかかわいいんだか、運営のセンス迷子じゃない……?」
こうして、猫みたいでドラゴンな俺――ニャルガ=ドラグーンの異世界生活は始まった。