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妹の変化・1

――メルフィナの一つ下の妹アリシアは、控えめなメルフィナと性格が似ていて、姉よりも更に引っ込み思案で、刺繍が趣味の地味な令嬢だった。


 聡明な姉を慕い、姉も妹を可愛がり、二人は仲が良かった。二人には兄もいるが、少し年が離れていることもあり姉妹は双子のようにいつも一緒に過ごしていた。メルフィナが王太子との婚約が決まると、アリシアは自分のことのように喜んだ。まだ若いアリシアは社交の場に出ていなかったこともあり、社交界では知られていない存在だった。


 そんなある日、アリシアは高熱を出して寝込んだ。熱が下がった翌朝、アリシアは記憶の一部を無くしているようだった。姉の顔を見て混乱し、自分の顔を鏡で見て悲鳴を上げていた。家族はアリシアが熱のせいで混乱したのだろうと思い、いずれ落ち着くだろうと考えた。


 アリシアはやがて落ち着きを取り戻した。だが熱が下がった後の彼女の性格は変わっていた。控えめで大人しかったアリシアが、明るく人見知りしない性格になった。言葉遣いも変わり、使用人にも気軽に声をかけ、調理場に入って勝手に料理を作ろうとしたりした。あんなに好きだった刺繍は全く見向きもしなくなった。


 ウィンドグレース家の人々は、アリシアの急な変化に戸惑いながらも、彼女がいい方向に変わっていると思っていた。姉のメルフィナも最初のうちは、アリシアの変化を受け入れようとしていた。


 アリシアは社交界に出ることになり、お茶会や夜会に進んで顔を出した。初めは慣れていないこともあり、失礼な物言いをするアリシアに眉をひそめる貴族もいた。だがそんな彼らも、初対面から懐に入るような人懐こさのあるアリシアに、次第に心を許していった。


 社交をするならお洒落は大事だと言い、家に商人を呼んで新しいドレスやアクセサリーを次々と買うようになった。服の好みも以前とは違い華やかな色合いを好むようになり、より多くのアクセサリーを欲しがるようになったが、父親はアリシアの為ならと何でも買い与えた。アリシアの為に、毎日商人達が訪ねて来るような日々だった。




「アリシア嬢は本当に楽しい方だわ」

「姉のメルフィナ嬢とは随分雰囲気が違うから……本当に姉妹なのかと思ってしまうわ。これはもちろん、あなたを褒めているのよ?」

「本当? 私もあなた達と仲良くできて嬉しいわ。私、こういう場に慣れてないから沢山失敗してしまって……あなた達が親切にくれたおかげで、なんとかなってるの」


 お茶会で他の令嬢達と会話を楽しむアリシアは、すっかりその場の人気者になっていた。


「最初は誰でも慣れないものよ。でも今のあなたは華やかで、まるで『ウィンドグレースの花』ですわね」

「ええ、本当に。私たちがアリシア様のお力になりますわ」


 令嬢達はアリシアとすっかり仲良くなっていた。社交界に出たばかりのアリシアが以前どんな性格だったか、それを知る者は少ない。昔と多少雰囲気が違っていても、子供と言うのは成長するものだと周囲が勝手に納得した。


 アリシアはきらきらと輝く大きな瞳に、ミルクティー色のふわふわとした髪を揺らせ、子犬のような可愛らしさがある女だった。化粧にもこだわりがあり、全て自分で化粧をしていた。アリシアは幼さを強調するような儚げな化粧を好んだ。彼女の細い指に光る華奢な指輪は、大きな石が好まれる王国の流行とは違うものだったが、アリシアには良く似合っていた。


 アリシアと仲良くなった令嬢達は、次々と別の貴族にアリシアを紹介していった。そうして彼女の顔と名前が徐々に広まっていった。流行りに敏感な令嬢達は、他の令嬢とは違うアリシアの化粧やファッションを取り入れていく。そうしてアリシアは、ウィンドグレース領でちょっと名を知られた存在になっていった。


 その頃アリシアは、メルフィナの婚約者であるダルシオン王太子のことを詳しく知りたがるようになった。使用人や他の令嬢達に王太子がどんな人物なのか、世間話をするついでに細かく聞き出していた――

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