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依頼の中身

 暖炉の薪がパチパチと音を立て、暖かなオレンジ色の光がライナードの横顔を照らしている。ライナードはリヴェラに依頼の内容を話し始めた。


「王の息子であるダルシオン王太子のことは、知っているよね?」

「はい、もちろん」

 リヴェラは当然だと頷く。国王の息子であるダルシオンは王太子として、次の王となることが決まっている。


「ダルシオン王太子には婚約者がいる。ウィンドグレース家のメルフィナ嬢だ。二人の結婚式を一年後に控えているんだけど、ここで一つ問題が起きたんだ」

「問題?」

 首を傾げながら、リヴェラは紅茶を口に運ぶ。


「彼女の妹であるアリシア嬢と、ダルシオン王太子の仲が怪しいんだ。王都で開かれた夜会で仲良くなったようで、以来二人は密に手紙をやり取りしているとの情報を得たんだ」


 ウィンドグレース領は歴史ある大領地である。大きな港を持ち、貿易で豊かな経済力を持ち、諸外国と繋がりのあるウィンドグレース家と、王家であるエヴェリオン家の婚約は、双方にとって旨味のある話だ。


「その、メルフィナ嬢との婚約がなくなりそうってことですか?」

 リヴェラの質問にライナードが頷く。

「そうだ。ダルシオン王太子はどうやらアリシア嬢に夢中らしい。婚約者をメルフィナ嬢からアリシア嬢に変更するんじゃないかとの憶測まである」


 リヴェラはライナードの話を聞きながら、首を捻った。

「……その話が、私の竪琴に何の関係があるんです?」

「話はここからなんだ。ある日僕の所に、婚約者のメルフィナ嬢から手紙が届いた。メルフィナ嬢とは以前から顔見知りでね、王族に近いけど外の人間である僕を頼って来たんだ。王太子に婚約破棄されそうだと悩んでいたようだ」


(この人は王の庶子だけど、メルフィナ嬢が頼るということは、それなりに王家との繋がりもあるということかな)


 そんなことを考えながら話を聞いているリヴェラに、ライナードは話を続ける。


「メルフィナ嬢の手紙には不思議なことが書かれていた。それによると、アリシア嬢の人格がある時、急に変わったらしい」

「人格が急に変わった?」

 ライナードの言葉に、リヴェラが反応した。


「そうだ。妹の性格が急に変わり、それまで興味のなかった王太子に関心を持つようになったそうだ。その後王太子に接近し、彼と仲良くなったようだ。メルフィナ嬢は妹の突然の変化に悩んでいた。僕は彼女の手紙を読んですぐに『転生者』の噂を思い出し、彼女に返事を書いた。どこか分からない異世界からやってきて、誰かの魂を乗っ取るという噂をメルフィナ嬢に教えたんだ。すると彼女は、妹をなんとか元に戻す為に協力してくれと頼んできた」


 ライナードは一呼吸置き、強い視線でリヴェラを見た。

「僕はメルフィナ嬢の頼みを受け、色々と調べていたんだ。そして、その転生者の魂を浄化させることができる『魔法の竪琴』を扱う吟遊詩人がどこかにいるらしいと突き止めた。つまり、君のことだ」


 リヴェラは腕組みをして少し考えた。

「話は分かりました。ただ仮にアリシア嬢が転生者だとして、竪琴で魂を浄化する為には本人の前で『見送りの歌』を歌う必要があるんです。私がアリシア嬢に近づくのは難しいですよ」


 ライナードは「普段ならね」と頷き、身を乗り出した。

「王都ではこの後一か月の間『建国記念祭』が開かれる。だから君も王都に来るだろうと思っていたんだ」

「建国記念祭は稼ぎ時ですからね」


 王都では年に一度、緑が芽吹くこの時期にウィンガルド王国建国のお祝いが一か月に渡って開かれ、祭りの期間中は多くの観光客が訪れ、王都はより一層の賑わいになる。当然商人やリヴェラのような旅芸人にとっても、大きな稼ぎを期待できるチャンスなのだ。


「建国記念祭では各領地の貴族達も王都にやってきて、しばらくの間王都に滞在することになる。貴族達は連日パーティやお茶会で交流を深めるというわけだね」

「と言うことはひょっとして、アリシア嬢も王都に来るってことですか?」

「その通り。アリシア嬢だけでなく、メルフィナ嬢も既に王都に来ているよ」


 ライナードは紅茶を一口飲み、音を立てずにカップを置いた。その一連の動作がとても上品で、リヴェラは思わず感心してしまう。


「つまり、この時期だけ王太子とアリシア嬢、メルフィナ嬢の三人が同じ王都に滞在しているということになるんだ。こんな機会はなかなかないよ」

「なるほど……」


「まずはリヴェラ、僕と一緒にメルフィナ嬢に会って欲しい。彼女から詳しい話を聞く為に、僕は彼女と会う約束をしているんだ。それに君も同行して欲しい」

「分かりました。メルフィナ嬢とはいつ会うんですか?」

「予定では二日後だ。それまで君は好きに過ごしていていいよ。ただし、分かってるだろうけどこれを他の誰かに話してはいけないよ。君は愚かじゃないから、そんなことをしないだろうけど」


 ライナードは優しく微笑んだが、その口調に怖さを感じたリヴェラは、ただ静かに頷くのだった。


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