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父と息子・1

 ライナードは国王との謁見の間にいた。大広間の一番奥、段差の一番高い場所に玉座があり、そこはウィンガルド王国の国王だけが座ることを許される。


 ウィンガルド王国の建国前は、この辺りは小国が乱立していた。様々な歴史を重ね、結果的にエヴェリオン家がウィンガルド地方を一つの国にした。そのお祝いが現在一か月間に渡って行われている『建国記念祭』なのである。


 玉座にはマルグレイル国王が座っていた。美しかった銀髪は全て白髪に変わり、顔には深い皺が刻まれているが、目元がライナードによく似ている。

 マルグレイル国王の横には、サウル宰相が座っていた。サウル宰相はマルグレイルが最も信頼する男であり、ライナードの出生の秘密を知っている数少ない人間の一人でもある。


 この広い謁見の間にいる人間はごく僅かであった。サウルは護衛の為に立っている近衛騎士らに声を掛ける。

「ここからは我々だけで話をする。下がりなさい」

 近衛騎士らは敬礼をして謁見の間を出て行った。これでこの場にいるのは国王と宰相、それとライナードの三人のみである。


 重苦しい空気の中、マルグレイルが口を開いた。

「この後の謁見の予定が詰まっているのでな。早速話を始めるとしよう。ライナード、こちらに来なさい」


 段差の下で膝をつき、頭を下げていたライナードは顔を上げると段差をゆっくりと上がった。


「お久しぶりです、父上」

「久しいな。元気そうで何よりだ」


 親子はお互いに目を細め、再会を静かに喜び合った。


「騎士団では上手くやっているようだな」

「お褒めいただき、光栄です」

「馬術大会で怪我をした騎士の容態は?」

「軽い怪我です。陛下の心配には及びません」


 マルグレイル国王はホッと頬を緩める。

「それは何よりだ。だが、お前は私との約束を破ったな」


 ライナードは国王のピリッとした声に、笑顔が固まった。


「申し訳ありません」

「お前の言いたいことは分かる。あの時、お前が魔法を使わなければ他に怪我人が出ていただろう。だが多くの観客がいる前で魔法を使うことがどれだけ危険なことか、お前もよく分かっていたはずだ。それなのに何故、魔法を使った?」


「……申し訳ありません」

 ライナードは謝罪を繰り返した。


「お前はあの場で迷いなく魔法を使った。魔法使いであることが知られれば、お前だけでなく私にも非難の目が向くだろう」

 その場にさっと跪き、ライナードは頭を下げた。


「どんな罰でも受けます。陛下にご迷惑をおかけしたことを、心からお詫びいたします」

「他人行儀はよい、ライナード。私はお前に罰を与える為にここへ呼んだわけではない」

「……え?」

 怪訝な表情でライナードは渋々立ち上がる。


「キャリーは……お前の母は魔法を人々の為に使いたいと考える人だった。私がキャリーと出会った時の話をしたことはなかったな? 私が北の地へ視察に行っていた時、私を見ようとした子供が近くの建物の屋根に上り、足を踏み外して落ちてしまったことがあった。キャリーはその時風魔法を使い、子供を助けたのだ」


 マルグレイル国王は当時を懐かしむように、目を閉じた。

「私は子供を助けた魔法使いをずっと探していたのだ。あの時、周囲は混乱していてキャリーは姿を消してしまい、名前すら聞けなかった。何年も経ってようやく見つけた時、私は既にナイアラと婚約し、結婚間近だった」

 ライナードは息を飲み、じっと父親の話を聞いていた。


「私は彼女に、許されない嘘をついた。キャリーに、ナイアラとの婚約を破棄すると話したのだ。キャリーを手放したくないばかりに、私はキャリーを騙した。そうして私とキャリーとの子供ができたが、キャリーはお前を生んだ後に、姿を消した」


「……それは、真実ですか?」

 ライナードは静かに尋ねた。


「そうだ。キャリーは私にこう話した。婚約破棄などあり得ないと初めから知っていたと。知っていて私を愛してしまったと」


「母上は僕を守る為に、あなたに僕を託し、国を出て行ったと聞いていましたが」

 怒りを抑えているようなライナードの声だ。マルグレイル国王は彼の問いにゆっくりと頷く。

「その通りだ。お前が生まれる前、キャリーと話し合った。ライナードをサージャー家の養子とすると決め、キャリーには王都に家も用意していたのだ。だがキャリーはお前を見送った後、一人で王都を出て行った。私はこう思うのだ。キャリーは私に罰を与えたのだと」

「罰? どういうことですか」

 こわばった表情のまま、ライナードは静かに呟いた。


「魔法使いの血を引くお前を、私に守らせると彼女はそう決めたのだ。私の犯した罪を、キャリーは決して許さなかった。だから私は、必ずお前を守るとキャリーに誓っている。お前を追放するつもりはないし、処刑することもしない」


 三人だけの謁見の間が、無言の時間に包まれた。


「……僕を守るのは、母上の願いだからですか」

「そういうことだ。だが私にもできないこともある。今回のお前の行動は、表に出ていれば私でも庇いきれない。今後は一層気を引き締めるように」


 ライナードはふっと微笑んだ。

「……父上のご忠告は、確かに受け取りました」

「いいか、忘れるな。私はお前を守るとキャリーに誓った。お前が今ここにいるのは、キャリーのおかげなのだ」


「はい、父上」

 さっと敬礼をしたライナードに、マルグレイル国王は目を細めた。


「これが一つ目の話だ。あともう一つ、お前に話がある」

「もう一つ、ですか?」


 ライナードは首を傾げた。

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