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おかしな観劇・1

 今日は王都にある劇場で、建国記念祭を祝うお芝居が上演される日だ。


 リヴェラはライナードが急遽用意したドレスを着せられていた。古着を簡単に調整したものである。肩にショールをかけてごまかし、胸元に詰め物を入れてボリュームを出せば、それなりに見られる形になる。


 慣れないドレスに落ち着かない様子のリヴェラの髪を、メイドのニーナは器用にまとめてアップスタイルに仕上げた。耳にはメルフィナ嬢からもらったイヤリングが輝いている。


「お綺麗ですよ、リヴェラ様」

「はあ……ありがとうございます」


 ニーナにとっては満足のいく仕上がりになったようだ。リヴェラは突然、ライナードから今夜のお芝居に同行して欲しいと頼まれた。劇場へ行く服も靴も、リヴェラが持っているわけがない。先日リヴェラが訪ねた店の女主人に手配してもらい、中古のドレスと靴を屋敷まで持ってきてもらった。


 当然ながら、これはデートではない。ダルシオンとメルフィナが今夜、一緒に劇場へ行くことになっているのでライナードはそれの監視の為、リヴェラにパートナーのふりをして欲しいと頼んだのだ。


 ライナードは劇場にアリシアも現れると見ている。劇場内でアリシアとダルシオンが連絡を取り合うのではないかと考え、ダルシオンを見張るつもりなのだ。




 先に玄関ホールで待っていたライナードの元に、リヴェラがゆっくりと階段を下りて現れた。


(この靴、歩きにくい……!)


 ヒールの高い靴は不安定で非常に歩きにくい。転ばないよう、手すりを掴みながら一段一段ゆっくりと下りるリヴェラの姿は、皮肉にも優雅な令嬢のように見えなくもなかった。


「お待たせしました……」


 ようやくライナードの前に立ったリヴェラの顔を、ライナードはなんだかにやけたような顔で見ていた。


「見違えたよ、リヴェラ。本当に綺麗だ」

「それはどうも……」


 あまりにストレートにリヴェラを褒めるライナードに、当のリヴェラは調子が狂っている。


「あり合わせのドレスで申し訳ない。今度君のドレスを作った方がいいね。今後も着られるように」

「ドレスは一度きりでいいです……それより、ユアン様は一緒じゃないんですか?」


 足の痛みに顔を歪めながら、リヴェラは周囲を見回した。


「ユアンは別の夜会に招待されてるんだ。この時期は彼も忙しいんだよ」

「へえ……」


 ユアンはサージャー家の人間として、社交の為にあちこち顔を出しているのだとライナードはリヴェラに語った。建国記念祭の間は、貴族にとっては社交の時期でもあるので彼らは一か月の間、忙しい日々が続く。


「それじゃ、行こうか」

 ライナードは笑顔で腕をリヴェラに差し出す。どうやら腕に手を回せということらしい。リヴェラは恐る恐るライナードに腕を回した。


「まだパートナーのふりをするのは早いんじゃないですか?」

「君が転んだら危ないからね」

「あー……すみません」


 からかうような笑顔を浮かべながら、ライナードはリヴェラをエスコートしながら歩き出した。リヴェラは思わず彼の横顔を見る。いつもは肩の辺りまである長い銀色の髪を無造作に下ろしているが、今夜は後ろで一つにまとめてすっきりとしていて、落ち着いた大人の男に見えた。




 劇場に到着したリヴェラとライナードの二人は、案の定他の貴族達から注目を浴びることとなった。


「ライナード様のお連れの女性は、どなたなの?」

「さあ……お見かけしたことがない方だわ。どちらの御令嬢かしら」


 視線がぐさりぐさりと突き刺さるのを感じながら、リヴェラはライナードのエスコートで劇場内を歩く。当のライナードは周囲の視線を全く気にする様子がない。


「こんなに注目されながら、よく平然と歩けますね」

 リヴェラが小声でライナードに話しかけると、ライナードはわざとらしくリヴェラに顔を寄せた。

「わざと注目させているんだよ。こうやって君の顔を周囲に見せるんだ」


 二人がこそこそ話しているところへ、早速目ざとい二人の女性が近寄って来た。

「ごきげんよう、ライナード様。お隣の方はどなたかしら? 是非私達に紹介していただきたいわ。ねえ?」

「ええ、紹介していただきたいわ」


「彼女は吟遊詩人のリヴェラです。素晴らしい才能を持っていましてね。僕が彼女を支援しているのです」

 慌てて膝を下げて挨拶をするリヴェラに、女性達は冷ややかな視線を浴びせながら大げさに驚いて見せた。


「まあ……そうでしたの。それでしたら今度是非、私達のお茶会に来て歌っていただきたいわ。ねえ?」

「ええ、歌っていただきたいわ」

「光栄です。彼女の歌を一度聴いたら、虜になりますよ」

 よく喋る女性とオウム返しばかりしている女性がライナードと話しているのを、リヴェラは所在なさげに笑顔で見ていた。


 女性達がようやく去った後、ライナードはリヴェラに笑顔を向けた。

「ほら、こうやって君の顔を売るというわけだよ」

 思わずリヴェラはライナードを軽く睨む。

「ライナード様、その話は断ったばかりじゃないですか」

「まあいいじゃない。君の名が売れるのは悪いことじゃないよ」

 とぼけたように話すライナードの顔を、リヴェラはため息をつきながら見ていた。




 劇場にはダルシオン王太子とメルフィナの二人も、揃って劇場にやってくる予定である。


 いざ劇場に現れた二人の姿に、周囲はざわついた。何故なら妹のアリシアも一緒だったのだ。姉のメルフィナよりも目立つドレスを着て周囲に笑顔を振りまくアリシアと、どこか浮かない表情のメルフィナと、堂々と振舞うダルシオンの三人は、劇場の二階にある個室になっている座席へと向かった。


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