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そういえばこれは恋愛小説




冬休みが終わると、課題提出と共にテスト。期末テストの意味は分かる。学力テストと実力テストの違いを教えてくれ。こんだけテスト漬けにするんだったら、いっそのこと、シリアルナンバーでいいんじゃね?


ももしおは、英語と古典で追試を受けた。


そんなことを鼻クソほども気にしないももしおは、しばらくご機嫌で。それは、「汗水垂らして働いたことによって労働の尊さを味わった」とみなされ、晴れて、自分の証券口座を持てるからに他ならなかった。


基本、アホみたいに笑っているが、はしゃぎ、うかれる様子は、学校内のももしおファンの間で「恋」の噂が出たほど。オレは会ったとき、なぞの歌を聴かされた。



「一生一緒にS&P

 円安で買ってもまだまだイケるかも

 愛をもってホールドしてくれや♪」




介護施設のことをときどき聞かされる。鉄砲水の後処理が大変だったこと、巽奇稲田姫さんが再び認知症になってきたこと、厨房ではももしお案のアプリが使われていること。


巽家の発掘は、少しずつ進んでいる。ももしお×ねぎまの王水が効果あったかどうかは不明。オレの推測では、ほぼナシ。砂金を回収してから、掘り出したことを警察に届け出るらしい。


聖母浜部が、予定通り離婚して自首したのかどうかは知らない。

オレ的には、元同僚こそ何らかの制裁を受けるべき、と思う。




横浜駅近くのパン屋のイートインに集う。



「ももしおちゃん、証券口座、手続きできた?」



ミナトが尋ねると、ももしおは、座っているイスに溶けて、なくなりそうになった。幻のうさぎの耳がバターのようにイスに染み込んで消えていく。



「決算書が英語なの〜」



英語はももしおの鬼門。



「シオリン、グーグル先生に訊きなよ。私に分かるとこだったら訳すし」



帰国子女のねぎまは、イスと一体化してバターのようになってしまったももしおの腕を持ち、うんしょっと引っ張って人間に戻す。



「税金が高いの〜」



オレは無知を晒した。



「税金って、NISAとかってのだと大丈夫なんじゃなかったっけ」


「宗哲、あれ、未成年ムリ」


「そーなん? 知らんかった」



ももしおが呪文を唱え始める。



「譲渡益課税、国内20.315%。配当課税、アメリカ10%、国内20.315%。二重課税解消のための外国税額控除制度があるから、確定申告をすれば配当課税のアメリカでの10%が返ってくるんだけど……」


「ももしおちゃんが税金気にするなんて。今までやってた日本株だって、NISA枠超えてたじゃん」


「大金動かせば、税金分をカバーするプラスんなるけど。原資がないの」


「シオリン、今までの分、いっぱいあるじゃん」


「母の口座だから。母のお金」


「貰っちゃえば? ももしおちゃん」


「贈与税がかかるの〜」


「「「ぞーよぜー」」」


「110万円未満なら贈与税はかからない。でもね、私が今まで増やしてきた分を母の口座から私んとこに動かしたいだけなのに。それすると、嗚呼。半分税金」



しくしくしくしく



ももしおが涙する。幻のうさぎの耳が悲しみに震えている。

どんだけの大金を動かしたいんだよ。

そもそも、母親の口座で株取引してるってのが違法行為。



「シオリンー、元気出して」


「やっぱ、今まで通り、母の口座でやろっかなとも思うわけ」


「そしたらNISA使えるね、シオリン」


「NISAね。枠少なすぎ。旧NISAの株がロールオーバー経て増えてるのに。NISAに移しただけで枠が埋まっちゃう。株式分割した分を売ったとしても、優待&配当狙いのガチホ株、全部入れられないよー。せめて1桁増やしてほしい。成長投資枠で全部埋められるようにしてほしい。証券会社に手数料渡すつみたて投資枠、使いたくないんだよね」



ももしおが、なんか、わくわく言ってる。



「ももしおちゃん、いずれは、自分の口座でするわけじゃん。今からがんばれ。ゲームだって、HP0んなったら、リスタート」


「はぁぁぁ。110万から、か。信用取引も未成年はムリ。資金回せないよー」


「アイテムが少なくても、コツコツ集めるの得意じゃん。シオリンはそーゆー戦いを楽しめる子だって、私知ってる。スヌーピーが言ってたよ。『配られたカードで勝負するしかないのさ』って」



ねぎまが両手をぐーにし、不思議な言葉でももしおを鼓舞する。



むくむく ぴーん



ももしおの幻のうさぎの耳が立ち上がった。



「がんばる! 大幅下落に備えて1/3をプール。1/3をドル転して米国株。あとの1/3は慣れた日本株で1日200回くらい回して増やす。110万の1/3って、36万。少なっ」


「200回、ムリだね。ももしおちゃん」


「じゃ、米国株。1株単位で買えるんだよね。よっしドル転。……なんでこんなに円安。為替手数料と売買手数料考えなきゃじゃん。売買を繰り返したいのにぃぃぃ」


「ももしお、S&Pをホールドするって歌ってなかったっけ」



オレは株に詳しくない。でも、ホールドが持ったままって意味なのは分かる。売買を繰り返すの真逆。



ぽっふ〜ん



ももしおがねぎまの胸に顔を埋める。推定DかEの柔らかさと弾力がももしおの頬に跳ね返る。羨ましい。



「マイマイ、宗哲君がいじめるよー。細かく刻んで儲けるのが私のスタイルなの」



くっ。







雨の日も風の日もインフルエンザの日も、オレは君に恋をする。



「宗哲クン」



昼休み、裸の藤棚で待ち合わせ。

落ち葉すらない足元に、太陽が枝の形を描く。



「走らなくても」


「休み時間、短いもん」



そうだね、少しでも長く一緒にいたい。



「人、少ないな」



日差しが暖かくても今は冬。



「寒いもん。宗哲クン、風邪引かないでね」


「大丈夫」



君の小さな気遣いが嬉しい。好きだよ。

いつかこの何気ない日常を、二人で一緒に思い出せたら。



「シオリン、咳したらね、先生に睨まれちゃって」


「咳だけで?」


「受験シーズンだから、ウイルスを持ち込まれて3年に移されたくないんじゃない? 他にも自宅強制送還や保健室送り、いるよ」


「ももしおが咳?」



オレの記憶では、ももしおは風邪をひいたことがない。



「だから、保健室のシオリンとこ行くね」



なんだよ。走ってきたのは、早くももしおのとこへ行きたかったからなのか。



「オレも行く」



寒くても暑くても寒暖差が激しくても、ももしおは風邪をひかないはず。



保健室、カーテンで仕切られた中には、株トレードをするももしおがいた。やっぱり。



「シオリン、風邪は? 咳は?」


「へーき。早く資産を増やしたかっただけなの」



こっちを一瞬見ただけで、視線をパソコン画面に戻すももしお。目の下にははっきりと隈ができている。



「シオリン寝不足なの?」


「夜は米国株を見てるから」


「ももしお、夢中だな」


「うん。すっごく楽しい。奇稲田姫さんとこ掘ってたとき、資源株のこと考えてて。でもね、もし戦争が終わったらWTIはどうなるんだろうとか。実は今、高いんじゃないかって。脱炭素社会が実現するには脱石油。んー。砂金からは金融業界のこと考えちゃったよ。リーマンショック級ブラックスワンの可能性。でねでね、ユニコーン企業探してんの。NYとNASDAQ合わせてだいたい6500社。IR調べて、その中から、、、」



ぱたり



「シオリンっ」「ももしおっ」



ももしおの顔がパソコンにダイブした。



すーすーすー



寝息たててるし。


ねぎまは、ももしおの顔の下からパソコンを引き出して閉じる。それから、ふわっと肩が隠れるように布団を掛けた。


カーテンから出る時、間違えた。

隣のベッドのスペースに来てしまった。使用者がカーテンを開け忘れたのか、ベッドが空なのにカーテンが引かれている。


カーテンを開けようとするねぎまの右手に、自分の右手を重ねた。



「そうてつクン」



振り返る小さな声のねぎま。



ちゅ



キス。

オレを見て。

君の1番になりたい。


驚いた顔で口を押さえるねぎま。



「シたかった」



ちゅ



いいんでしょ? 言ったじゃん。シテいいって。



ちゅ



ぎゅうううううう



思い切り抱きしめる。こんなんじゃ足りない。



「そうてつクン、じゅぎょ、」



ちゅうう



ねぎまの耳たぶを吸ったら、どんっと押されて、カーテンの外に出てしまった。昼休み終わりのベルが鳴る。



「ダメだった?」



カーテンの中を覗くと、ねぎまの首から上がピンク色。


っ。


一瞬、体中ピンクか確かめたくなった。

ここが学校の保健室でよかった。じゃなかったら、オレ、理性、飛んでたかも。破壊力すげー。


ばくばく言ってる心臓のまま、努めてダルそうに平静を装って、保健室を出た。ベルが鳴る。冷んやりとした廊下。

逃げた。


ベルが少し速くなった足音を消した。







          おわり


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