ヤリモク場だったんですね
和やかな雰囲気終了。4人で光る粒々を眺める。
「金」「金」「GOLD」「砂金」
「誰のもん?」
「巽さん?」
「施設じゃないよな。借地だもん」
「日本のじゃない?」
一気にテンションが下がったし。
「じゃさ、黙ってたらいーんじゃね?」
「宗哲、ムリだろ。量が多かったら。換金でバレる」
「ねねねね。すっごいいっぱいあるんかな」
「シオリン、まず、巽さんに報告だよ」
冷静なねぎま。
その前に。
「本物?」
確認してからの方がいい。
ショベルカーの扱い方を知らないオレ達は、今日のところは、その場を離れることにした。
調査のため、きらきら光る部分の土を鞄に詰める。
「あのさ、マジで本物だったら、この量はまずいんじゃない?」
ミナトに指摘され、土の量を減らすオレ。つい、がっついてしまいました。
ももしお×ねぎまは、奇稲田姫さんに聞くと言う。即、介護施設のフロントで面会を申し込んだ。
バイト中の人間ということもあり、そのまま4R号室の奇稲田姫さんの部屋まで通された。
「「「「こんにちは」」」」
ベッドとチェストと小さなテーブル&椅子。簡素な部屋には薬の匂いが微かに漂っていた。
「あれまあ。この間は、助けてくれてありがとうございました」
オレは、奇稲田姫さんが車椅子で暴走していたときに助けたことで御礼を言われた。会話が成り立つことを期待していなかったから面食らう。
「もう大丈夫ですか? 先日戴いたお菓子、ごちそうさまでした。美味しかったです」
そんなふうに返す。
ねぎまは、早速本題に入った。
「祠の横の石をどけて掘りました。何か、木でできた物があったのですが、うまく取り出せなくて壊れました。箱ですか? 何か、大事な物が埋めてあったのでしょうか?」
奇稲田姫さんは、掘って欲しいと頼んだことを覚えていたし、木に関しても心当たりがあったようだった。
「木の箱の中はね、きっと戦のためのもの。そー書いてあるのが、蔵の中のどこかにあるべ」
「鎌倉時代のですか?」
「書いたのは私の祖父。明治時代。目まぐるしくいろんなことが変わってね。地租改正もあった。だから祖父が後世に巽家の土地のことを伝えるために書いたんだべ」
江戸から明治になって、武士はいなくなった。埋めてあったのは、時代に淘汰された戦のためのもの。
「巽家の『ゆ』は、砂金ですか?」
ねぎまが尋ねる。
「ゆは、ゆ」
ん?
オレ達の、訳が分からないという顔を見て、奇稲田姫さんはくしゃっと笑った。
「お湯。温泉」
「「「「……。」」」」
4人で言葉を失う。
ご先祖様に申し訳ないって何度も謝ってたのは「湯」のせい?
「巽家が代々続いていくには、子孫繁栄、家庭円満が1番大事なこと。なかなか子宝に恵まれなくても、夫婦でゆつめ坂ぁ上ってお湯に浸かれば、必ず子ができる。家庭が壊れそうになっても、夫婦でお湯に浸かれば、必ず解決できる、有り難ーい、霊験あらたかな場所だべ」
いや、それ、ヤッちゃってるよね?
ゆつめ坂って、湯詰め坂だったのか。湯が詰まってる場所。
奇稲田姫さんは一人娘。父親から、祖父が記した書と「湯」を引き継いだ。「湯」に関して、人に言うなと言われたらしい。理由は荒らされるから。
けれど、奇稲田姫さんは温泉に浸かることなく4人の子宝に恵まれた。あるとき父親から引き継いだ場所に行ってみると、湯を溜める岩や石は崩れてほぼなくなっていたものの、温泉は出ていた。
温泉が出なくなったのは、介護施設ができてから。
湯詰め坂と分かって一件落着。奇稲田姫さんは、ももしおに話しかける。
「百田さんのお孫さん、私の昔の友達にそっくりなの。あの時代はみんな痩せててね」
確かにももしおは痩せている。モデル体型。それを戦後の物がない時代に重ねるのはいかがなものか。
「私、似てますか?」
ももしおは、こてっと首を傾げる。
「懐かしーべ。恋人同士がうらやましくて、女友達と一緒に、その人らが坂を上っていくとこ見に行った。村にな、王子様みてぇな、この人とそっくりな人と、ここの介護士さんみてぇなべっぴんさんがいたんだべ」
奇稲田姫さんは、「この人」のとき、ミナトを見た。かつて憧れたカップルは、ミナトと聖母浜部に似ていた。通常ならば、食事を運ぶオレ達はマスクで顔バレしない。ミナトは下心満載で、4R号室付近ではマスクを取って聖母浜部と話していた。
まさか、それって、
「ゆつめざかのふたり」
オレの言葉に、奇稲田姫さんはうんうんと頷く。
「そー呼んでた。狸や猪がいる山でも、2人は映画に出てくる俳優さんみたいで。当時、恋愛なんて、ほーんと珍しくてね。羨ましくて憧れたべ」
つまり、オレが聞いた「ゆ…つめざかの…たりだべ」は「湯詰め坂の二人だべ」だったってこと。
じゃ、どーして車椅子で暴走したのか。昔とそっくりな2人がいたことに驚いたって。プラス、いつも見つかりそうになると走って逃げていたから。そんだけ? 脱力。
ほっこりなってるところに、ねぎまが水を差す。
「砂金はどうなさいますか?」
おーっと。世間一般的には、湯よりも金。
「もう、戦って時代じゃないじゃん。どーすっかね。息子に任せるわ」
「砂金と聞いて、驚かれないんですね」
ねぎまは不思議そうに奇稲田姫さんを見た。
「この年になると、金も金も使えないからねぇ」
ずっしりと重みのある言葉。
「じゃさ、温泉の方がいいですか? ここの施設に温泉引くの」
ももしおが奇想天外なことを言い出す。
「巽さんとこに先祖代々伝わる湯だぞ」
オレが諌めるのに、ももしおは止まらない。
「体にいいよ。きっと。子宝には恵まれないかもですけど」
おい、「かも」じゃなくて、絶対に恵まれん。
「ふふふ。いーねー」
奇稲田姫さんは顔のパーツをシワに埋めて笑った。
迅速一番のももしおは、その場で巽さんの家に電話。湯と砂金のことを報告した。
『母はそこまで回復したんですね』
巽さんは、温泉よりも砂金よりも、母親の認知症が治ったことを喜んだ。
奇稲田姫さんの個室を出ると、4R号室Aの通路がざわついていた。人が何人もいる。その中には目黒さんもいた。
「橘様、この子が助けてくれた子です。他の子も一緒に協力してくれました」
そう言って、ももしおを紹介した。橘すゑさんのご家族だろう。息子も娘もいないのだから、孫?
オレ達は丁寧に頭を下げられた。
橘すゑさんは、やっと精神を安定させ、眠っているところ。
連絡を受けた家族が到着し、施設職員と今後のことを話し合っていた。問題は、橘さんに体力があること。寝たきりならば問題は起こらない。けれど動けてしまう。102歳という高齢なのに、自分で車椅子への乗り降りができる橘さんは、トイレの介助すら不要。驚異の102歳。
「これだけ長生きされているのは、もともと骨や内臓がとても丈夫だからなんです」
目黒さんは困っていた。今晩は孫が橘さんの部屋に泊まる。その後は、しばらく施設職員が交代で橘さんの部屋に在中しようと相談していた。介護士は他の8人の介護をしなければならないから。
「認知症です。認知症ですよね。認知症だからです」
孫は、橘さんの認知症が治っていることを否定していた。
4R号室を出てから、オレは、見送りをしてくれる奇稲田姫さんに聞いた。
「物忘れはなくなったんですか?」
さすがに本人に向かって「認知症」という言葉は憚られる。
奇稲田姫さんは、オレが聞きたかったことを察してくれた。
「頭は、はっきりしてる。橘さんもね、今は認知症治ってるべ。普通に喋る。でもねぇ、そうすると要介護度が下がって、ここを出されるんだべ。次のとこなんて見つかんない。どこもいっぱい。要介護度が下がると補助金も減る。私も、認知症のままってことにしてね」
「分かりました」
橘さんの孫が「認知症」と訴えていたのは、事情があったのか。
介護施設には様々な事情がある。
例えば、この介護施設の個室は、大きな部屋に10室ずつ。けれど、9名までしか受け入れない。入居者3人につき介護士1人という介護保険法の基準があるから。10名を受け入れるには介護士を増やす必要がある。プラス1名を受け入れる為に、介護士1人を増やすことになる。コスト面を考えると、9名のままが最適解。
このことは、表向き「介護士が足りないから空室があっても受け入れられない」と表現されている。へー。
介護施設の外、ねぎまは両手の指を組み、伸びをした。
「納得。温泉だったから、江戸時代の地震で2つになったんだね」
地震で別のところからも温泉が出てきて、祠が2箇所になった。なるほど。




