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シたいことシテいいんだよ


「2人だと、部屋を広く感じるね」


「家具、ほぼねーし」



この部屋にはベッドがない。寝るときは、レンタルした布団を押し入れから出して敷く。


男女がいー感じになって、なし崩し的に深い関係になるにはベッドが必要だと思う。いー感じになったときに「ちょっと待って。布団敷く」なんてセリフ、難易度Sランク。「ちょっと待って。ゴムつける」と似て非なり。うっわ。オレ、何考えてんだろ。


普段はなんとなく学校生活を送っているオレでも、こと、ねぎまとの関係に関しては向上心に満ち溢れている。ベッドがよかったなー。たとえ、現時点での最高到達点に届かなかったとしても、ベッドあったら、その手前までイケるかもしんねーじゃん。


……せめて、ベッドに並んで座ってみたかった。



「宗哲クン、冬休みの課題、終わった?」


「ぜんぜん」



円いちゃぶ台の正面に、ねぎま。遠っ。

これじゃ、オレん家に遊びにきたときの方がぜんぜん雰囲気あるかも。その時は、オレがベッドに座って、ねぎまが机のイスに座る。いつも、「こっちに来て」の一言が難しくて、切ない。


ちゃぶ台で距離を詰めるには、一度立ち上がって、何かをし、座るときに、しれっとねぎまの近くに腰を下ろす? 何かすることってないっけ。


窓を開けるとか。いやいや冬。寒くてしゃーない。

カーテンを閉めるとか。エロい。ムリ。

ジュースもお菓子もテーブルの上に揃っている。


そーだ! 鼻水が出たふりをして、ティッシュを持ってこよう。ティッシュか。改めて考えると、DTの意気込みを悟られるような代物じゃないか。警戒されるかもしれない。

あわよくばってのは考えてる。でもさ、いきなりティッシュを使うような関係に持ち込もうとしてるなんて。誤解されて、ねぎまに嫌われたら、生きていけない。



「ちょっと寒い。シオリンのお祖父様の家、ガスストーブなの」


「ここ、エアコンだもんな」


「ごめんね。鼻水出ちゃった。失礼」



ねぎまは立ち上がり、ティッシュで鼻水を拭く。ゴミ箱に捨てる。その後、元の位置に戻ろうと、、、え?



「……」


「ここ、座っちゃお」



隣キターーーー!



どきん どきん どきん



心臓が爆音。

カノジョが寒がってる。そーゆーとき、漢はどーすんだっけ。かっこよく、自分の上着を羽織らせるじゃないか? よし、自分の服を脱ごう。

オレは自分が着ていたカーディガンのボタンを外す。



「これ、着る?」


「ダメだよ。宗哲クンが風邪ひいちゃう。エアコンの温度設定上げるね」



ピッ



ねぎまは、ちゃぶ台の上にあったエアコンのリモコンを操作した。

そうか。自分の上着を提供するパターンは、外の場合。今は屋内。他の服を貸せばいいだけ。オレ、ダサっ。


2人きりってシチュエーションなら、オレん家に遊びにきたときと一緒じゃん。

いや、ちげーって。

我が家には、常に誰かがいる。祖父母、母は高確率でいる。不規則な生活を送っている大学生の兄がいる場合もある。中学生の妹も。ねぎまに懐いてしまったコリー犬の諭吉は、オレの部屋まで入ってくる。


家族がいない一人暮らしって、すげー。



「……」



緊張して会話が浮かばない。いつも何喋ってたんだっけ。先日はGDPの話。ここでGDPはダメだろ。それくらいは分かる。


ダメだ。緊張して喉が渇く。オレは、ペットボトルに入れておいた水道水を口に含む。ふー。落ち着け。


オレが頭の中でぐるぐる考えていると、目の前にスマホの画面が出てきた。



「あのね。これ、リクエストして、いい?」





思わず口の中の水道水を噴きそうになった。

小さな画面には、花火を一緒に見る男女。体操座りをする男の脚の間に、同じ方向を向いた体操座りの浴衣姿の女がいる。



「温か、そ」



オレ、平静保てたかな。声、震えたかも。

ちゃぶ台との間に1人分のスペースを作って、オレは脚を広げた。単に脚を広げるという動作に耳が熱くなる。視姦されてる気分。めっちゃ恥ずい。


おずおずと、ねぎまがオレの脚の間に座った。ちゃぶ台の方を向いて。視界がねぎまの柔らかい髪でいっぱいになる。腕に腕が触れる。息をすると、フローラルな香りが鼻から入ってきた。近い近い近い。



「うふっ。恥ずかし」



ぷちっ



どこかで理性の切れる音がした。



「ぎゅってしていい?」


「うん」



断ったのに、ふんわりと控えめに腕で包むオレ。自分の理性の堅固さが残念過ぎる。

上半身垂直なままの姿勢は、どこにどう力が入っているのか、背中が攣りそう。



「この体制、キツい」

「え」



ぎゅっ



前傾して思い切り抱きしめた。

やっわらかー。



「いつも、諭吉にしてる」



精一杯の照れ隠し。



「あの子、大きいもんね」


「この子、もっと大きい」



オレはねぎまの肩にアゴを載せた。



「うふっ。あったかい」



祝、一人暮らし。


歌がうまけりゃよかったな。耳元でラブソングとか、やってみたい。言葉で好きって言うより、かっこいくね?


体操座りのまま、スマホでお笑い動画を観た。二人羽織でねぎまにお菓子を食べさせたり、ペットボトルの紅茶を飲ませたりして遊んだ。ふざけていないと、下心が溢れ出す。

指先を握りたい。首筋にキスしたい。胸を触ってもいーんじゃないか。


マズい。

体が反応しそう。

今すぐ離れなきゃ。



「海、行かね?」



オレのばかやろぉぉぉ。せっかくのチャンスなのに。一人暮らしだぞ。二人きりだぞ。迫られたんだぞ。



「うん」



とりあえず、危険(?)を回避した。




船への道を歩きながら、自分の選択は間違ってたんじゃないかと後悔する。あのまま押し倒して、最高到達点の手前までイケたんじゃないかと。


否。これでよかったんだって。高校生らしいつき合い方、オレらしいつき合い方。清らかな白いバラのようなねぎまを大切にしたいから。くっそ。ホントは、むちゃくちゃにしたいーーー。



「カイロ、入ってっし」



ねぎまの手を握って、オレのポケットに突っ込む。2人とも手袋のまま。こーゆーのって、素手だよな。なんか、スマートに決まらない。



「ね、宗哲クン」


「ん?」


「今度2人きりになったときは、キスくらいしてね」



「キス()()()」。それって、その先もOKってこどじゃん。だよな? だよな?


タイミング、なかった。下心がありすぎて。



「じゃ、今、いい?」



幸い人影はなし。



ちゅ



リクエストにお応えしました。



「訊かなくても。私、宗哲クンのカノジョなんだから。宗哲クンがシたいこと、シたいとき、シテね」



はぅっ。女神。



「わーった。でもそれ、大変なことになるかも。はは」



常にシたいから。

オレが笑うと、ねぎまはふざけて体をぶつけてくる。可愛い。



ウミネコがびっしり。ひなたぼっこしてる。そんな堤防を見ながら、船に乗り込んだ。

どこまでも青いい空の下、船を出航させる。



「どっか行きたいとこある?」


「宗哲クンに任せる。海のこと、分かんないもん」


「近場な。オレ、そんな遠く行けないから」



船舶免許には種類がある。オレが持つ2種小型船舶免許は、陸から5海里までの制限付き。

陸地を眺めながら遊覧し、戻るとき、バイト先近くでエンジンを止めた。



「宗哲クン、あそこから陸に上がれそう」



ねぎまが陸の傍に浮かぶクルーザーを見た。着岸してるじゃん。

こっちの船よりでかい。あの大きさのクルーザーが横付けできるなら、十分な深さがある。


クルーザーは陸を離れ、すれ違った。甲板にいた人達と挨拶を交わす。



「「「ハッピーニューイヤー」」」

「「ハッピーニューイヤー」」



操舵席に座り、先ほど、クルーザーが停まっていた場所を目指す。



「岸壁んなってるじゃん。ラッキ」



船を横付けできるように造られている。船体が傷つかないよう、古タイヤまでくくりつけてある。着岸。


船から降りてみた。道はないけれど、人が歩いた跡がある。ねぎまと2人で辿る。



「山登ってるのかな、宗哲クン」


「っぽい」



人が歩いた跡は、途中でなくなった。振り返って海を見下ろす。割と高い。斜面にはいろんな木が生えていて、根が剥き出したところを足場にする。


ん? なんだこれ。

どーんと黒っぽい塊を見つけた。あ、これ、猪のうんこ。たぶん。



「あはは。ここにも猪いるんだね」



ねぎまが、それを踏まないように用心深く登ってくる。



「続いてるもんな、介護施設の山まで」


「みーっけ」



ねぎまが指差す先には、介護施設があった。



「おおーっ」



ねぎまとハイタッチ。



「米蔵・根岸隊、基地発見! なんか、探検みたい」



なにやってんだろ、オレ。二人きりになるチャンスなんてなかなかないのに。山登りかよ。小学生かよ。楽しいけど。

ポケットの中で手繋ぐより、ぜんぜん盛り上がってるけどさ。



「猪に見つからないうちに戻ろ」


「了解しました、米蔵隊長」



ねぎまはご満悦。スマホに航空写真を表示させ、登ったルートを確認して、はしゃいでいる。


木に掴まったり、地面に手をついたりして登ったせいで、白いノルディック柄の手袋にいろんなものがくっついている。そのゴミを、柏手を打つようにぱんぱんと払う。可愛い。


白バラのように大人っぽい外見。ときおり見せる、子供みたいな仕草。


ヤバい。すっげー好き。




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