彼の名前は…ブートヒル?
星は窮地に陥っていた。仲間とはぐれ、多くの傷を負い、未だ視界を埋め尽くす敵の数。
だが、そんな窮地にこそこの男は現れるのだろう…
「おいおいおい、そこの女ぁ!劣勢のようだな!」
「きゅ、急に何!?」
「ここで会ったのも何かの縁だ!助太刀してやる!」
「この状況をどうにか出来るの…?」
「ああ!」
「今はどんな助太刀でも助かる。秘策があるのね…!」
「そんなもんはない!気合だ!大抵のことは気合いでどうにかなる!!」
「バカ!何もないなら逃げてよ!ここにいたら死ぬよ!」
彼はこの窮地で、なんの突破口も見つけられない状態で…笑った。
「死なねぇよ。俺も。お前も。」
不思議な男だ。バカなのに任せてみたくなる。自分の想いをぶつけてみたくなる。
「娘っ子!お前、何が出来る!」
「思いっきりぶっ叩くこと!」
「よしっ!十分だ!!俺についてこい!!」
彼は駆け出した。刀と呼ばれる刃物を手に無謀にも敵に突っ込んでいく。
「大将だ!軍団ってのは頭を抑えりゃ烏合の衆になるもんだ!」
「わかった。じゃあ…」
「おう!そこまで一直線に突っ込むぞ!!」
私よりも少し前を走る彼に敵の攻撃は集中した。矢を射られ、鈍器や刃物で襲われても致命傷だけを避けて真っ直ぐ走っていく。途中どんなに罵倒されても蔑まれてもひたすら真っ直ぐに…さっきまでの適当な人間とは思えないほど、真っ直ぐに!
「1度道を決めたなら!」
顔面が腫れ上がり頭から血を流しながら彼が叫ぶ。
「媚びねぇ、曲げねぇ、戻らねぇ!!」
遠くから飛んできた弾丸が彼の足を貫く。
「俺が止まる時は、死ぬ時だけだ…!」
彼は止まらない。
「やいやいやいやい。テメェが大将か!」
「ど、どうやってここまで…!」
大将も困惑してる。盤石な状態から敵が自分にたどり着くイメージなんて誰もできない。
「おい嬢ちゃん!あんたがやれること。頼んだぜ…」
「任せて。」
ガンッ!
銀河打者の強烈な一撃が大将に決まった。その一撃が戦場全体の支配にも繋がる。周りにいた参謀や将たちは恐怖し、その恐怖は軍団全体に伝わる。私たちの…勝ちだ!!
「アニキ!勝ったよ!」
敬意を込めてアニキと呼びながら振り返ると、彼は立ったまま動かなかった…
「はぁ…はぁ、おい嬢ちゃん。名前は?」
「喋らないで!傷に響く!!」
「いいから…名前は。」
「…グスッ、星。」
「いい名前じゃねぇか…星。名前に負けんな、大空に輝けよ…」
「アニキ…!」
そう言うと彼は膝から崩れ落ち、もう動くことはなかった。
「うぅ…アニキ…!」
私はしばらく立ち直れなかった。俯き、泣き、自暴自棄になっていた。列車のみんなが迎えにきてくれてからも廃人のような生活が続いていた。
そんなある日、私以外の全員で向かっていた『開拓』でトラブルが起きたようだ。みんなを助けたい。でも動けない、恐い。助けてアニキ…
「なんだ、床のカビと勘違いしたぜ。」
「アニ…キ?」
「いつまでそこでうずくまってメソメソ泣いてるつもりだ?」
「だって、アニキが…」
「星ぃ!歯ぁ食いしばれぇぇえええ!」
私の顔面に衝撃が走った。どこにも何もない空間のはずなのに。
「えっ…え??」
「言っただろ!大体のことは気合いでどうにかなる!」
「アニキ…!」
「目は…覚めたかよ。」
「うん!!」
「もう見失うなよ、大切なもんをよ。」
「アニキ。私、行ってくる!」
「ああ思いっきりぶちかましてこい…!あばよ。」
「ウチ。もう限界かも…」
「厄介な状況ね…」
「…みんな、俺の後ろに。」
「…っ!」
列車の仲間たち4人の姿が見える。まだ生きてる…!間に合う!!
でも、地平線の彼方まで埋め尽くす敵の数にまた足がすくみそうになる。アニキは、こんな状況なのに笑って…来てくれたのね。そっか、アニキ。やっぱりアニキはすごいよ。
…私も、負けてられない!
「みんな、お待たせ。」
「あっ、アンタ!?大丈夫なの!?」
この期に及んで私の心配なんて…本当に、間に合ってよかった。恐怖で震える心を鼓舞する。笑え。アニキは笑っていた。
「銀河打者の全打席ホームラン。特等席で見ててよね!!!」
─私は目を瞑り、胸に手を当てる。
「偶然出会った奇妙な『仲間』の」
─目を開け目標を見定める。
「託された想いを胸に。」
─狙うは…大将だ。
「このひと振りに、命をかける!」
───こうして私は『螺旋』の運命を歩み始めた。