明日のための旅(※Ver.2.2ストーリーのネタバレ含みますので注意)
ネタバレ・妄想注意です。
──太陽の下で再会するだろう
ふと朝目覚めるように、自然と意識が浮上した。これはいったい…
私は、ラグウォーク・シャール・ミハイル。元ナナシビトであり、ピノコニーの未来を憂う者である。いや、あった。というべきだな。
私の意識が浮上することは本来あり得ない。私がやるべきことは全てやった。そして私の意思は託すべき人たちに託すことができ、私の存在や記憶は…もう、終わったはずだ。
周りの状況を確認する。大劇場と言われている夢の世界で最初に創られた舞台。そこに『聖歌隊』が顕現し、『開拓者』が対峙している。空には無数の流れ星…いや、これは人の光。心の光だ。これは、劇の最終章のようだな。あの計画ともいえない荒唐無稽な賭けが、ここまで繋がってくれていた…!いや、繋げてくれていたか!私に、この老いぼれに何ができる。最後、彼らの背中を押せるものは…
シュシュシュシュシュ…
背後から蒸気の音、タイヤの回る音、汽笛の音が聞こえる。この音は…忘れるはずもない、列車だ。星穹列車が来ている…しかし、何故ここに列車が…?
「乗っていきなよミハイル!私たちにはまだ出来ることがある!」
ラザ…リナ…!?あの丸眼鏡。目にかかるくらいの前髪。茶色い髪の中にひと束だけある紫色の髪。活力に溢れたあの立ち姿は若かりし頃の彼女に他ならなかった。
何故彼女が…!?疑問をぶつける暇もなく列車が物凄い勢いで近づいてくる。
「ミハイル!手を出して!」
ラザリナに言われ咄嗟に手を伸ばす。車両の連結部分から手が伸び、私の手を掴む。
「久しいな、ミハイル。」
そう言うと男は私をそのまま引き寄せ列車に入れる。嘘だ。行方不明だったはずだ。
「なんだ、俺の顔を忘れちまったのか?」
「う、うそだ…どうしてみんな、ここに…」
ティエルナン。優しく、大きく、強い男。肩にかかるくらいの茶色い髪。自信みなぎる立ち姿。若い時の彼だ。
「どういうことかは俺にもわからん。きっと奇跡が起きたんだ。それよりお前、自分の姿を見てみることだな。」
「えっ、どいういう…」
ふと列車の窓ガラスに目をやると、そこにはしわしわのジジイではなく余裕のある笑みを浮かべた白髪の青年が。
「私…いや、僕。も若返って…どういうことだ?」
「私にももちろんわからない!でもやることはわかってる。だからこそ、ここに列車を創り出したの!」
そう。やることはわかっている。後は手段だが…列車を創り出した?
「誰が記憶域における理論を最初に打ち出したと思ってるのさ!私がいてここに夢があるなら、なんだって出来る!!」
彼女は記憶域と夢の力で列車を創り出した。あいつと車掌がいないが…いたら、何故手紙をよこさなかったと煩かっただろうから居なくて良かったのかもしれない。自然と笑みが浮かぶ。
「俺も同じだ。何故ここにいるのかはわからないが…せっかく心優しいお嬢さんが『無』から連れてきてくれたんだ、やれることをやるだけさ。」
彼は行方不明になり、会うことを諦めていたが…想いが連なり重なって、今ここに駆けつけた。それならもう、やることは決まってる。
「そうか、そうだよな。彼らのために今一度、僕たちの最後の開拓をしよう。」
『聖歌隊』という太陽の下、僕たちは再会した。
「ラザリナ!列車をもっと加速させてくれ!出来る限り!速く!硬く!!」
「了解ー!」
「僕たちの想いを列車に込めよう!!」
「見ているか、お嬢さん。ひとりひとりの波…波とすら言えない波紋でもな、こうやって馬鹿が揃えば、高い防波堤すら突き破るデッカい津波になるんだ…!」
「何をぶつぶつ言っているんだティエルナン!」
「お前ら最高だって言ってたんだよ!」
「何言ってるんだ!君も最高だよティエルナン!!」
全力で信じて、信じてもらえて。誰ひとり諦めない、全力で前を向く。僕たちの想いを届けに行こう。
列車が円を描くように走りながら加速していく。僕たちがやることは単純だ。列車を思いっきり『聖歌隊』にぶつける。劣勢な開拓者たちに少しでも立て直す時間と、少しのエールを送る。それだけだ!
僕たちの列車に気がついたのか、開拓者たちの瞳に活力が戻る。そうだ、それでいい。前を向け。
「完璧ではない明日に、乾杯。」
ギャラガー。少し僕の知っている姿とは違うけど、間違いなく彼はギャラガーだ。僕の計画ともいえない無謀な賭けを任せてしまったね。
そして、その通りだ。明日が完璧でなくてはいけない理由はない。完璧ではないからこそ人は夢を見る。
「見せてあげるわ、『弱者』たちの信念をね。」
未来を託した開拓者の1人、赤い髪の女性が声を上げる。そうだ、僕は決して才能のある開拓者ではなかったが。それでも、できなくても。やるんだ。それを人は信念と言うのだろう。
─そうだ。僕の帽子を引き継いだ女の子よ。
─そうだ。まっすぐな瞳をしたピンクと水色の女の子よ。
─そうだ。
─その通りだ。
─………
強い想いが、集まり重なって。それは確かな道導となる。
完璧で停滞した、幸せで心苦しい世界で人は生きていると言えるのだろうか。少なくとも、ここにいる人たちや空を飛んでいる彼らは違う考えのようだ。そして、僕もそう思う。人は、絶望しても傷ついて立ち止まってしまっても…また前を向いて、歩いていける強さを持っているんだ。僕はそう信じてる。
「僕たちに残された時間はそう多くはない。3人とも久しぶりに顔を合わせて言いたいことはたくさんあるだろうけど、それは全てが終わった後…列車でまた乾杯するときに取っておこう。」
「…うん。」
「わかった。」
言いたいことはたくさんあるだろうに、何も言わずに理解を示してくれる。僕は本当に素晴らしい仲間に恵まれたらしい。僕も、自慢の仲間に恥じないように覚悟を決めないとね。
最大限に加速した列車が今の開拓者たちの背中から『聖歌隊』に向かって走る。
「いっけぇぇええ!」
「突き破れぇぇえええ!」
「…みんな、後は…よろしくね。」
ガァァアアン!
列車が『聖歌隊』にぶつかり、走り抜ける。今の突撃で列車は異常警報が鳴り響き、確認すると動力、装甲だけでなく走るために必要な全てがオールレッド。ありったけの想いを込めてぶつけた列車はもう走れない。
「今のって…!」
「ラザリナ、ラグウォーク、ティエルナン…?」
「過去のナナシビトたちからの激励のようだな。」
「夢だから奇跡が起きたのかな…!ウチたち、尚更負けられないよね!!」
「あまりにも強烈なエールね…!」
それでも、伝えられるものはある。
残された意思を次に進む者が抱きしめて、引き継いで。背中に背負って歩いていく。そう。『開拓』は終わらない。
崩れた列車の中で、微睡む意識の中で考える。荒唐無稽な賭けにもならない博打。それを成し遂げたのは僕の力だけじゃない。みんなが、それぞれの想いを。意思を。繋げることが出来たから。例え自分が消えるとしても、自分の道導のその先に進む者がいれば自分は無駄ではないと言えるだろう…
意思を託すことが出来た僕はきっと幸せ者だ…ああ、もう。眠い…2人久しぶりに会えたのに全然話せてないや…
久しぶりに良い夢が見れた…さぁ、目を覚そう。目覚めるために、目を瞑ろう…また、みんなで…
───涙は、目覚めの後で。