眠れない夜に。
今日は星とデートをした。お昼にはしゃぎ疲れちゃったのもあるけど、夜は借りたホテルの部屋でゆっくりと過ごした。一緒にテレビを見て、一緒にお風呂に入って、一緒に歯を磨いて…一緒にお布団に入る。
星とずっと一緒で、ホタルとして過ごせる幸せな時間。ずっと、ずぅっとこんな時間が続くと良いなっ!
星の寝顔をしばらく眺めて、トイレに起きそうなら寝たフリをする。彼女は寝る時には仰向けになるようで、横を向いたままお話しはしても寝る時は布団を首元まで上げて天井を向く。
視線を感じると睡眠の邪魔になるかもしれないと思い、今日はこの辺で一旦寝息の聞こえてくる布団を出る。朝方に戻ってくれば彼女は違和感を覚えることはないだろう。
布団を出てすぐだけれども夜特有のひんやりした空気に迎えられ、早くも星の温もりが恋しくなる。それでも、私はパジャマのまま部屋を出て屋上に向かった。今の私は少し冷えるくらいで丁度いい。
屋上に続く扉を開けると、今日はあまり風が強くない穏やかな風が流れていた。私は屋上にあるベンチに腰をかけて空を見上げる。
夜更かしは良くないって思うかもしれないんだけど、私は普通の人に比べて睡眠時間は極端に短くていいんだ。そりゃそうだよね、元々は兵器なんだし…戦場で居眠りなんて死んじゃうもんね。
だから、いつも街が静まる時間は屋上とか丘の上とかで街の灯りや星空を眺めているんだ。人の気配や星の巡りを見ていると、なんだろ…温かさ?みたいなものを感じられて好きなの。
でも、でもね。たまーにだけどね…どうしようもなく寂しくなることがあるんだ。無くなってしまった故郷、名前もない仲間たち…真っ暗で音もない空間にいると苦しい思い出と一緒に孤独感が襲ってくる。
忘れられない記憶、忘れたくない思い出。そして、人のフリをするバケモノ。
「あれ…おかしい、な…」
とっくに割り切れていたと思っていた心の重荷に目頭が熱くなる。
「どう…して…」
どうして涙が止まらないんだろう。昔のことは捨てずに大切に抱えることができて。今は星というかけがえの無い人にも出会えて、大切にしてもらえて。たくさん笑って。ホタルは楽しく生きているのに、どうして。
そんな時でもどうしようもなく星空は綺麗で、穏やかで。流れる涙も拭わず私はただただ景色を眺め続ける。
そんな私に毛布が掛けられる。
「ホタル。まだ夜は冷え込むから、風邪ひいちゃうよ。」
「え、星…なんで…」
「なんでだろうね。虫の知らせかな?目が覚めてホタルが居なくなってたから探したんだ。」
よく見ると息が少し乱れていて、首元やおでこが若干汗ばんでいる。
きっと、居なくなっちゃったんだと思って慌てて探してくれたんだ…行き先なんて伝えてもいないし街の公園とか近くのコンビニまで闇雲に走ってくれたのかな…?ふわりと心が温かくなる。
「それで、なんで泣いてるの?」
「あはは…なんでだろう。自分でもよくわからないんだけど、寂しくなっちゃったのかな…」
「隣、座るね。」
「毛布、一緒に入らないの?」
「…軽い運動をして私は寒くないから大丈夫。それに、今あんまり寄るのは困る…」
「…やだ。汗なんて気にしないし一緒に入ろ。そのために大きめの布を持ってきてくれたんじゃないの?」
「…そうだけど。」
返事を聞いた私は、掛けてもらった毛布を星の肩にも掛ける。二人で掛けてもまだ余裕のある毛布の中、肩と肩が触れ合う距離で私たちは一緒に星空を見る。
「…綺麗だね?」
「ホタルには負ける。」
「えへへ…ありがと。」
「うん。やっぱり、ホタルは笑ってる方が良い。」
そう言われて私は涙が止まっていることに気が付いた。
「私は、ホタルが今まで何があったかわからないけど…これから笑ってもらう努力はするから。」
「…聞かないの?」
「話したくないでしょ?」
「うん…今はまだ…ごめん。」
私。わがままだ。何も話せず何も伝えられず、それでも甘えさせて欲しいなんて…
「うん、大丈夫。でも、何もわかってない私が言えることがひとつだけあるよ。」
「なに?」
「ホタルのこと、絶対に1人ぼっちにさせないから。」
「…ッ!!」
私はまた目頭が熱くなってきて、熱いものが頬を伝う。さっきまでと違って優しくて、あったかくて、嬉しい涙。何も言葉を発することが出来なくて、私は星にもっと体を寄せて星空を見る。
…最後に睡眠が取れたのはいつだったかな。そんなことを考えながら…
「星、お願いがあるんだけど。」
「いいよ。」
「まだ何も言ってないよ?」
「大丈夫。何でも。」
「ふふ…そっか。じゃあとびきりのワガママ言っちゃうから。」
「ばっちこい。」
「ここで、このまま少しの間だけでいいから肩を貸してほしいな。」
「もうひと声ほしい。」
「なんでお願いされる側の人が物足りないってなってるの…じゃあ、手も繋いでください!」
私がそう言うと彼女から手を絡ませてくれた。さらに、私は星と腕も絡ませて肩に頭を置く。うん。すごく…心地良いなぁ。
横目でチラリと星を見てみると、すごく優しい顔をしながら空いている手で私の頭を撫でた。
「大丈夫。私はここにいるから。」
「…うん。」
「ホタルがたくさん頑張ってるの、私知ってるから。」
「……うん。」
少しずつ薄くなっていく意識の中で返事をする。彼女の体温が、頭を撫でる感覚が、触れた指先の感触が、全て愛おしくて…心地良い。
「私は絶対ここにいるから。」
「………うん。」
───だから、おやすみなさい。




