ホタルと映画と歪んだ銀狼
「銀狼ー。これ一緒に観たいんだけどー?」
ホタルが私の部屋に1本のディスクを持ってくる。今ゲームしてるんだけど?
横目でちらりと見てみると、彼女が手に握っているのはホラー映画だった。
「今忙しい。それに、あなたホラー苦手じゃなかった?」
「だ、だって…星が、これ良かったよって…」
尻すぼみに小さくなっていく声。震える手と力みすぎて穴が空いている映画のパッケージ。
また星かー。もう慣れ始めてるとはいえ彼女の行動基準はとても重くてわかりやすい。
「1人で観ればいいじゃん。」
「ひ、1人は流石に怖くて無理なの!ね?ね??お願い銀狼。こんなこと頼めるの銀狼しかいなくて…」
私しかいない…か。ふーーん、それなら仕方ないよね??私はもう星と一緒に観たけど。
「はぁ、仕方ないなー。」
「あ、ありがとう銀狼!!!」
彼女がぎゅっと抱きついてくる。ちょっ、まだ対戦中だって!
「ほら。再生するよー。」
「ま、ままままだ待ってよ心の準備が…!」
「うるさい。はい、ポチー。」
うるさいお姫様の言うことは無視して再生ボタンを押す。せっかくだし部屋も暗くして…彼女に立体音響のヘッドホンでも着けさせるか。
…そんな涙目でこっち睨まなくてもいいじゃん。大方、無理言ってるのはこっちだからこれくらいは…でもそれはそれとして恐い!って思ってるんじゃないかな。
何故かわからないけど最近ホタルの困ってる表情見てるとなんかゾワゾワするんだよね。
バタンッ!!
「ーっ!?」
大きい音にビクッと体を跳ねさせるホタル。割と序盤から私の腕を掴んで離さないから私も一緒跳ねてるんだけど?
まぁ、こんな反応見せてもらえるなら悪い気はしないかな。ホタルにぎゅってしてもらうの結構好きだし。
ウワァァァァ。ザクッ、ドシュッ。
あー、そういえばここ。1人を犠牲にすれば残り全員逃げ切れたのに…アホが見捨てられない!助ける!とか言い出して結局2人とも犠牲になって、残った人たちの負担がヤバくて無理ゲーになるんだよね。
「が、がんばれぇー…ひっ。そ、そんな…!」
思いっきり感情移入してるし刺される瞬間また体跳ねてるし、もう腕どころか私の体に抱きついてるし…体に大きくて柔らかいものが押し付けられて腕がむにむにに囲まれて、なんかふわふわしてきた。なんだこの感覚。
気が付けば途中から私は映画じゃなくてホタルの方に意識が向いてたと思う。まぁ一回観たやつだしどちらかというとホタルの反応が気になったんじゃないかなって。でも私好みの良い反応してたよね。満足だ。
「はぁ〜…ふぅ。うぅ…」
「全部観れたじゃん。」
「ぅぅ〜ぎんろぉ〜〜、今日一緒に寝よぉ?ひとりダメかも…」
「ぇえーー?はぁ。もう…わかったわかった。そしたら早く寝る支度してきて。…デイリーは諦めるか…」
「ト、トイレ…ついてきてほしい、です。うん。」
「……。」
顔を真っ赤にして涙目で私を下から覗き込むように見上げてくる。
なんだろ、庇護欲?なんか、守りたいんだけどすごくイジメたい気分に…でもこれホタルが悪いよね?私、変じゃないよね??
私の手を引っ張ってトイレの前まで歩いてきた。ギリギリまで私の手を握りながらトイレの扉を開ける。
「ぜ、絶対そこにいてね?絶対だからね??」
「はいはい。」
扉が閉じるギリギリまでこちらを見つめながらトイレに入る彼女。
…ここで私の我慢が限界を迎えた。
バンッ!バンッ!!
扉が閉じた瞬間その扉を強く叩く。
「きゃ、きゃぁあああああああ」
ニシシ。悪戯成功〜。どうだろ、びっくりして腰抜かしてるかな??
「あ、ああぁぁぁ…うぐっ…ひぐっ……」
「…!」
扉を開けると腰が抜けてその場にへたり込んでるホタルがいた。でも、彼女の座っている所から水たまりが広がっている…現在進行形で。
「みない、で…んぐっ、ひっぐ…」
それに本気で泣かせてしまった。ものすごい罪悪感が….
「ひ、ひどいよぉ……」
「ご、ごめんなさい!流石に、その。やりすぎた。本当にごめん…後処理は私がやっておくから、ホタルは先に部屋に戻ってていいよ。」
「………一緒にいる。」
「……ッ!!」
ここまでされたのに恐怖が上回ったのか私の側から離れない…あっ、ダメだこれ。やばい。これ以上は危ないという警鐘が頭の中に鳴り響く。
そして、罪悪感と一緒に何かが込み上げてくる。なにこれ。心臓がバクバク鳴ってる…人のおもらし、ホタルのおもらし…それでも服の袖をぎゅっと掴んでは離れない。離さない!ゾクゾクする。止まらない、気持ち良い…!
─── 嗤ってしまう。ゾクゾクが止まらない。彼女の泣き顔が、困り顔が、羞恥に染まる顔が…これ、ヤバい。もっと…ごめんホタル….もっと、もっと…!




