探索者協会
未確認構造体への侵入者対策として議会を通過した内閣総理大臣素案を元に各種の制度が閣議決定され議会に諮られ通過していく。
未確認構造体利権に絡めなかった内務省派議員の内、少なくない議員が内務省派から鞍替えを図っている。その手の議員は内務省とあまり深く関わっていないので内務省派でも問題とはならなかった。
それは数人であるが、議会における数は重要で確実に未確認構造体に関する法律や制度が議会を簡単に通過するようになってしまった。
これは内務省と内務省派議員には痛手だった。
そんな国内の未確認構造体に関する状況の中、ニューヨークで開催された未確認構造体に関する国際会議から政府代表団が帰国した。昭和17年5月23日のことである。
主な成果として
1.未確認構造体の国際共通名称を【 ダンジョン 】と命名する。
塔型ダンジョンと穴型ダンジョンがある。
2.ダンジョンに侵入して産出物を持ち帰る人間の国際共通呼称を
【 サーチャー 】と決めた。
3.サーチャーを管理する機構・団体を各国とも設立する事になった。
サーチャーを管理する機構・団体を
将来的に国際統一機構としたいとの意見があった。
4.サーチャーについての細かい規定はいずれ国際条約で制定する。
それまでは各国国内規定を作って運用する。
5.産出物の呼称は特に定められていないが、
概ね見たままの名前で当面運用する事となった。
6.生物と思わしき謎の存在は、ウサギもどきを角ウサギ、
小型の狼をステップフルフ、緑小人をゴブリンと呼称する事となった。
注)欧州の伝説にある悪いゴブリンから付けられた。
7.産出物をサーチャーを管理する機構・団体で買い上げる事は決定した。
注)安い買い上げだと国際化したときに恥をかくようになると思われる。
主な決定事項は以上である。他は他国の未確認構造体に関する状況報告と腹の探り合いで終始したと言われた。
第2回目の会合は同じくニューヨークで昭和17年10月10日に開催される運びとなった。
他国・地域の未確認構造体であるが、驚くべき事に大きさは共通していた。200メートル級・300メートル級・400メートル級の塔と大穴。
内部に入るには200メートル級の塔の一階部分に2カ所、300メートル級の塔の一階部分には4カ所、400メートル級の塔の一階部分には8カ所の開口部があった。
大穴の場合は、200メートル級大穴は外周2カ所に最上層の回廊に降りる階段や斜面があり、回廊には内部へ入る開口部があった。300メートル級の大穴は4カ所、400メートル級の大穴は8カ所であるのも同じだ。
外部の回廊から塔は上に上がる階段は無く、大穴は下に降りる階段も斜面も無かった。
足場を組んだり、ロープや縄梯子で上下しようとした者はいずれも罠に掛かり死亡している。内部に入らないと2層以降に行けないようになっているらしい。
ダンジョンがどういう存在かわからないが、楽は出来ないようになっているらしいと考えられた。
1層と2層の内部構造と生物も同じで、産出物も同じであった。参加者はかなり違いがあるのではないかと考えていたのだ。
産出物の内、金銀は問題になっていた。各国とも取り扱いに苦慮しているようである。
14金である事を説明し、見合う金額で引き取っているという。納得しない者は独自に売り捌こうとしているが、14金である事から24金並みの高値は付かないし金相場が暴落しているので結局当局に買い取ってもらうのが一番楽となってきているのが各国の現状である。日本も同様だ。
ダイヤモンドは困っているのがダイヤモンドシンジケートと鉱山だけなので、各国とも問題にしていない。むしろ一部は工業用として安値で引き取れるので歓迎している。
絹織物や生糸は困っているのが主に日本だけというので、ダイヤモンドと同じ扱いだ。
国内では未確認構造体の事を国際呼称【 ダンジョン 】と呼ぶ事になった。
侵入者の国際呼称が【 サーチャー 】とされた事から、サーチャーを訳して 【 探索者 】と呼称する事となった。
探索者を管理する機構・団体は紆余曲折の末、総理大臣直轄の内閣官房の一部局とし【 探索者協会 】として設立運用される事となった。
総理大臣直轄となったのは内務省が無理難題を言い出し省庁間で収拾が付かなくなったせいだった。
探索者協会として落ち着いた侵入者対策だが、運用主体は従来の検問所や検問・買い上げ体制をそのまま拡大しものになった。
つまり、運用主体は軍と商工省であり内務省はかんでいない。利権にありつけない内務省は警察を使って嫌がらせに出た。
探索者協会へ従来呼称侵入者が探索者登録をしに来るのを「ちょっと来い」と呼び止め、執拗に聞き取りを行ったり些細な事でしょっぴいたりもした。無論一部であるがこれが問題となり調査を開始。調査は憲兵隊が行い警察は関与させられなかった。
探索者も探索者登録する者も憲兵隊が関与すると決められていたからだ。運用によっては問題が有るが現在のところはうまくいっている。
行為を実行した者を辿っていき、最終的に内務大臣指示が有ったとの証言から内務大臣の罷免と警保局全体が内務省から独立する事となった。それを契機に特別高等警察も内務省から剥がされた。
内務省をさらに弱体化させるには地方局の分離が絶対条件になる。地方局の分離が成功すれば、一気に解体まで持って行けるだろう。裏に表に暗闘が始まるが実行部隊である警保局と特別高等警察を引き剥がされた内務省は弱くなっていた。
探索者協会は軍と商工省を背景に大蔵省の後押しもあり他官庁からの影響を排除する事に成功した。
そんな国内状況の中、第2回目の会合がニューヨークで開催された。
議題は現在の進展が主な焦点で、各国の探索者協会がどう活動しているのかが報告される事になっている。
代表団の帰国は師走になった。
今回の成果として、問題点の洗い出しと新たな課題が課せられた。
また、他国において第3層へ到達という成果が有り、内容が開示された。
1.各国のサーチャーズ・アソシエーション(探索者協会)を国際的に
統括する上部組織を作る。
注 現状急ぐものではないが極めて重要な議題とれさている。
対応を誤れば国際的に孤立する可能性も考えられる。
アメリカ合衆国が主導権を取ろうとしており警戒に値する。
2.金銀買い取り金額の安定化。絹織物と生糸も同様。
これは探索者の収入安定化に繋げたいためである。
注 現在は各国の金銀相場や生糸相場を参考にしているが、
動く相場に振り回されないよう年単位で固定したい。
3.探索者の法律的な保護体制の確立。あるいは規定を制定。
注 我が国内務省による妨害工作が国外に知れ渡った模様。
他国でも同様に利権を手に入れようとする組織的な動きがあり
探索者個人を保護する法律や規定の制定に動く事となった。
4.3と連動するが探索者の社会的な位置付けを決定する。
労働者として個人事業者とするか協会所属の非正規職員とするか。
各国とも正規職員とするには成果も能力も多様すぎ抵抗がある模様。
個人事業主とするのが良いというのが会議での感触である。
社会的地位は時間が決めるというのが大勢である。
5.イタリアのシチリア大穴で第3層に世界で初めて侵入。
注 成果と状況は別書面にて
6.ダンジョンへの火薬持ち込み禁止が決定。
注 成果と状況の別書面にて
一部兵士の身体能力向上であるが、いずれも徴兵され部隊へ配属されたばかりの兵であり身体能力の向上はまだ体が出来ていない兵の鍛えが入った段階と思われ、第2回会議での報告は取りやめとなった。
大きな動きは以上であった。