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大混迷

 中国では日本陸軍が撤退した。ただ、それまで占領地では日本陸軍が治安維持をしていたのだ。場所によっては占領時代の方が曲がりなりにも治安が良かったという笑えない現実があった。民衆は、日本鬼子が出て行った。東洋鬼がもういなくなった。と喜んだが、喜びもつかの間だった。

 軍閥の進出と馬賊の跳梁である。占領地時代には少なかった略奪と暴行が増え税も重くなり、あいつらの方が良かったのかと思うようになる。

 

 何人かが過酷な現実から逃げるためか冒険を試みたのか知らないが、大穴の中や未確認建造物の中に入っていった。日本陸軍が調査をしていたのは知っていた。犠牲が出たと調査が終わるまで進入禁止と言っていたので、住民も入るのをためらっていた。

 そして帰ってきた。帰ってきた人間は減っていたが、その手に有る物を見てそんな事実は無視された。

 帰ってきた人間の手には「ゴールド」「宝石」「絹織物」など財宝が有った。

 民衆は日本鬼子も知っていたのかと思ったが、奴らの態度には変わりなかった。なぜだろうと思うが、現実は酷く重い。

 軍閥と馬賊は金銀財宝が得られるのを既に知っていたが、大穴や未確認建造物全てをが自分たちで押さえられなかった。ならお宝をどうするか。弱い奴らから取り上げればいい。簡単だった。全ての軍閥と馬賊がそうだったわけでは無いが、半分以上は取り上げるという行為に出ていた。

 抵抗する人間は暴行され見せしめに殺された人間も多い。

 各地で暴動が発生した。

 中華民国政府も中国共産党も金銀財宝を独り占めするべく各地の制圧に乗り出し、今まで以上に内戦は激しさを増した。相場が暴落したとはいえゴールドの価値はまだ高く軍需物資を買う金は出来たのだ。


 数年後には中国の混乱は混迷に変わっていた。春秋戦国時代や三国志の時代を彷彿させるように各地で様々な勢力が勃興しては消えることを繰り返すようになる。

 1943年の夏頃から、彼らは世界を見ずに中原ちゅうげんだけを見るようになっていた。




 世界各国は国家間戦争や植民地独立紛争に関わっていられなくなり、自然と戦争が減り独立容認の動きが加速している。容認と言っても、もし未確認構造体が拙い物であれば植民地の事になどかまっていられないというのが本音である。

 それに伴い独立紛争地域での独立紛争沈静化が起こるが今度は内部分裂を始めているところもある。次の支配者になりたい人間がいかに多い事か。しかも、未確認構造体から出てくる金銀財宝という資金があった。中国と同じである。


 未確認構造体から内部で確認されている化け物たちが外に出てこないのであれば植民地維持も可能であろうが、持ち出される金銀財宝で潤った植民地人の取る行動は独立運動が激しくなると簡単に予測はついた。

 したがって、激しい独立運動を押さえ込むのに国家予算と人員をつぎ込んだあげくに抑えきれなかった時の反動が国内で怖い。特に国内では戦争が終わったと思ったら植民地での人的損害だ。政治的に問題が起きる。

 独立容認派が増えている。



 しかし、それでも植民地支配から脱却しようとしない国がいる。アメリカ合衆国、フランス、オランダの3カ国であった。

 3カ国とも中国から流れてくる中古軍需物資に悩まされ始めている。中国では金銀財宝を元に新品や年式が新しい中古品を手に入れ、古い物を国外に流すという事をし始めた。


 国外に流れた中古品は近場の東南アジアで受け入れられた。インドネシアとインドシナ半島にフィリピンである。3カ国は頭が痛い。

 インドはイギリスが宗主権の放棄を示唆したために独立運動の激しさは減っている。





 世界中で金相場、銀相場、ダイヤモンド相場、生糸相場、絹織物の価格が暴落した。閉山する鉱山も出てきている。近年高品質な生糸や絹織物で世界を席巻した日本も大打撃を受けている。



 商工省のとある一室。大蔵省と農林省の役人もいる。


「生糸相場の下落が止まらん。絹織物の価格もだ」

「出てくる物は中級品に届かないくらいの品質なのだがな」

「最高級品や上級品は未確認構造体から出た物よりも上質なので求める層が違い影響は少ないが、普及価格帯は酷い影響を受けている」

「価格的にはともかく金額的・量的に中心だった中級品が駄目になったのは痛い」

「だが一時的な物だと思うぞ。出てくる量がしれている」

「今はまだ入る人間が少ないが、規制は危険なので入らないようにと言うだけで事実上野放しだ。入る人間が多くなれば、中級品以下は全滅だろう」


 謎の建造物や大穴は未確認構造体と呼ばれている。とりあえずの通称だ。


「金もな。調べてみたら14金だった。色目が悪いので調べた結果だ。金塊として品位は今ひとつだが量が多い。ついでに精錬すると銀等が出る」

「銀も同様だ。量が多いので相場は下がりきっている。金銀市場は無くなるかもしれない」

「ダイヤモンド相場などベルギーと南アフリカが価格の維持を放棄したぞ」

「あれだけ出ればな。透明にブルーにイエロー、ピンクやレッドまで有る」

「金鉱山だけではなくダイヤモンド鉱山も閉山しそうだな」

「絹織物や生糸と同じで高級品に絞って動くのだろう」

「対策は有りそうか?」

「有るわけ無いだろ。鉱山から産出される量よりも運び出される量の方が多いのだ」

「絹は高品質に注力で中級品は生産量を落とすか」

「農家にどう言えばいいのだ」

「高品質な物を作ってもらうことは出来ないのか」

「量が少ないから価格を維持できている。ダイヤモンドや金と同じだ。それに多くはお蚕様主体ではなく田んぼや畑の合間にやっている農家だ。高品質品の生産に転換出来る農家は多くないだろう」

「それもそうか」


「さて、大蔵省の旦那。金本位制とか気でも違ったか」

「今の産出量というか入手量が全ての未確認構造体で確認され、それが20年も続けば金本位制でも問題なくなる」

「だが拡大する経済にはかねが必要だ。その増やす札を裏付けるほどの量が出るとか考えているのか」

「入る人間が増えれば、持ち帰る金銀財宝も増えるという試算に立ってだ」

「それは「「「取らぬ狸の皮算用」」」」

「みんなそろって言いやがる」

「当たり前だ」

「当然だろう。突然出来たのだ。突然無くなる可能性もある」

「そこは無くならない前提でお願いします」

「だが、保有する金が増えることはいいことだ、が」

「民間人が全て素直に差し出すとでも思うのか。大蔵さんよ」

「出入り口に検問を作って押収するのはどうだろう」

「それこそ馬鹿の考えだな。暴動が起きるぞ。そこは買い取りにしろよ」

「買い取りか。相場で満足するかな」

「14金相当だから相場よりも安いぞ。相場の半額以下でないと精錬で足が出ると言う理由で安くな。14金のまま置いておいてもいいが、24金の方が国家備蓄には良い」

「それでいけるかな」

「後は警察・・いや、軍だな。警察では人が足りんだろうから。第一内務省にこれ以上でかい面をされたくない」

「軍かー。大臣は交渉してくれるかな」


 大蔵官僚は弱気だった。



 

 大本営

 陸軍参謀総長と海軍軍令部総長が面を付き合わせている。皇族が務めるのが通例であったが日中関係や日米関係がきな臭くなった時点で退いていただいている。他にも高官が数名参加している。

 陸軍参謀本部か海軍軍令部か会議場で揉めたが、大本営があるので。


「大陸から撤退しましたが、軍内には依然として反対意見が根強く・云々・」

「それは知っていますが、抑えるのが君の役目ではないのでしょうか」

「ですがやるとぶち上げた拳を引っ込めるのをよしとしない人間も多く・・・」

「この未曾有の事態にそんなこと言っている奴らは・・・どうしようか」

「海軍としては2・26のような事態を起こしてほしくない」

「陸軍としても起こしたくは無いですが、5・15が引き金でしたな」

「・・・」

「まあそれは置いておこう。海軍さんは何かか案があるのか」

「海軍は島嶼地帯の建造物と穴を調べました。結果、有望であると」

「それは陸軍でもやった。有望には違いない」

「ですから、そこの探索をやらせればいいと考えます」

「それで?」

「ガス抜きですな」

「ガス抜きですか。大分恨まれている者もいますが」

「戦場に後ろ弾は付き物です」

「遺恨が遺恨を呼ばないか。それに戦場ですと?」

「今は他国とやっている場合では無いでしょう。それは皆さん承知しているはず。新たな活躍の場を設けてやれば良い」

「評判の悪い連中を放り込んで、ついでに始末させようとか。何でそんなこと考えられるのだ」

「評判の悪い士官連中は、大体強硬派ですな」

「だがしぶといぞ」

「しぶといなら結構。探索が進むでしょう。あまりにも態度が酷ければね」

「情報方の手練れを出すと?」

「場合によってはですが、海軍にはおりません」

「陸軍にもおりませんよ」

「公式にはでしょう」


「細かい事は後から詰めるとして、大蔵大臣から詰め所を軍に担当して欲しいと申し入れがきておりますな」

「任せてくれるなら、島嶼地帯の未確認構造体は海軍でやりましょう」

「陸軍としても内務省に出張られて利権をさらわれるような事は認められません」

「大蔵省や商工省も同じ考えなのでしょうな」

「では議会に諮るという事で」

「内務省に辟易している議員も大勢います。通るでしょう」




絹糸の原料で有る蚕のことを「お蚕様」と呼んでいました。

暗くないと餌の桑の葉をよく食べないので暗くした部屋で飼っていたと思います。1匹1匹はたいしたことはないのですが、数が多いのでワシャワシャと桑の葉を食べる音が聞こえました。


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