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ダンジョン学

 ダンジョンを研究する人達は、ダンジョン出現初期からいた。しかし、個人研究や観察記程度であり本格的な研究は1940年代終わりから始まった。

 それまでの研究は探索者協会や軍の一部所で行われていたが、どうしても探索者協会と軍であり探索者目線と軍人目線からの研究になっていた。

 統合的に研究する機関が設けられた。国の研究機関と大学の学部である。

 遅いと言われるが別に不都合はなかったので、設立されなかっただけだ。

 だが階層が進み、1950年中盤には多種多様な現象を一部の研究部門で解析をするのは無理になっていた。大学や研究機関の俯瞰的な立場からもたらす研究結果や提言はダンジョン階層突破やドロップ品の研究に役立だった。



 昭和40年10月14日  新潟大学ダンジョン学部


「城島教授、城島教授」

「・・・ん?自分か?」

「そうです。城島教授に質問があります」

「ああ、君は三回生の田島君だったね」

「今、お時間よろしいでしょうか」

「そうだな。午後1時に研究室で待っている」

「ありがとうございます」

 

 自分が教授か。中佐で現役引退。まさか大学教授になるとはな。


(城島君。貴公、済まんが予備役になってくれないか)

(連隊長殿。なんの冗談でありましょうか)

(冗談ではなくてな。実は各大学にダンジョン学部を設ける事になった。ただ、高等教育を受けていてダンジョンを知る人材が圧倒的に少ない)

(自分は天保銭を持っていませんが)

(陸士で十分だ。陸軍大学はもう時代遅れの内容を連綿と教えるだけの情けない機関に落ちぶれてしまった)

(そうなのですか。寡聞にも知りませんでした)

(教育に反映させるべき情報の更新が昭和16年で止まっている。教育内容にダンジョンが無いのだぞ)

(それは・・・)

(ダンジョン内では連隊単位の戦闘などは無いからな。せいぜい1個大隊だ。参謀本部や陸軍大学の想定する満州の大平原や大陸、ましてやシベリアではない。しかも、近代火力は使えないときている。教育総監部もダンジョンをどう扱っていいのか判らないのだろう。だから陸大の教育内容に反映できないのだと考える。さすがに陸士ではダンジョン経験者の士官や下士官を講師として招いてはいるが)

(それで、何故自分なのでしょうか)

(貴公、そろそろきついだろ)

(まだ、そこら辺の少尉には負けません)

(きついのだな)

(確かに30台後半になってから回復力が落ちました。短時間の休養では回復しきれません)

(うむ。理解は出来る。自分もこのあいだ久々のダンジョンで参った)

(連隊長殿はもう50近いですよね)

(だからだ。年寄りでは深い階層はきつい。若い連中が深い階層でも安全に行動できるように知識を付けさせたい。そのためには軍や探索者協会ではなく大学や国の研究機関が必要となった。この部隊では貴公を含め20人が対象となった。熟練者と指揮官が20人も抜けると困るのだがな)


 39歳で予備役になり新潟大学ダンジョン学部開設とともに教授として招来されたのが昭和25年の冬だった。准教授や助教授はいないが、ダンジョン連隊で兵長だった彼が三曹に昇進と主に退役させられ講師として付けられている。

 学部は昭和二十九年度から新規に学生を受け入れた。が、未だに海の物とも山の物ともであるダンジョンを研究しようとする学生は少なく、学部生は全員でも18名であった。


「田島君。なんの質問だね」

「はい。城島教授に質問したいのは、ダンジョンの意思です」

「何らかの意思があってダンジョンを作り出したというのが定説であるし私もそう願っているよ」

「その定説は正しいのでしょうか」

「正しいと考えるには十分な理由もあるな」

「湧き出る清水、しかもそのまま飲める。所々にあるダンジョン生物が襲いかかってこない休憩所、ですか」

「そうだな。他にも人を誘うようにいろいろなドロップがある」

「はい。深い階層ほど価値が上がります」

「しかも、完全に倒せないダンジョン生物が出てこない」

「でもかなり困難ですよ」

「倒しているだろう」

「しかし、亡くなる方が多すぎます」

「それは・・・仕方が無いと言っても、理解しがたいのだろう。君は」

「はい」

「私たちの研究はそういう死亡者を減らす事にも繋がる。だから研究をする。違うか」

「違いません」

「なら、私たちのダンジョンに対する研究は戦いだ」

「戦いですか」

「そうだ。何も最前線で戦う者だけが戦っているわけではない。私たちのやる事は後方支援に当たる」

「教授は陸軍の出でしたね」

「陸軍士官学校を出ている。最終階級は中佐だ」

「中佐とは知りませんでした。ですからその考えになるのですね」

「それを言われるとそうだとしか答えられない。元々教授になったのも陸軍の命令だ。だから私は未だに軍人であるとも言える」

「僕らは軍人の下で学んでいるのですか」


 この学生は危ないな。最近目立つ軍否定派かな。どうも後ろには赤がいるという話は時々ある軍との会合で聞いている。

 ソ連も自国のダンジョンが管理しきれずにいるのに、なに他国の内部に手を出すのだろう。


「君はそう言うが、ダンジョン学部の半数以上が軍出身の教授や講師だぞ。また、軍出身者は実際にダンジョンの4層よりも深い階層を経験している。危険性も肌で感じている。ダンジョンを経験せずに教授になっている方もいらっしゃるが、話してみるとやや危ない事も考えている。どちらが優れているとは言えないがな」

「そうなのですか。東京大学の飯田教授を素晴らしい方だと思うのです」

「飯田教授か。危ない考え方をする方だな。損害のことを考えていない」

「そうなのですか」

「階層を進む事を第一に考えている。損害は有るのが当然だとな」

「実際に損害は有ります」

「そうだ。だが損害を減らそうとしているのは軍出身者が多いのも事実である」

「僕にはどちらが正しいのか判りません」

「どちらも正しいし正しくないとも言える」

「どういう意味でしょうか」

「政府はダンジョンの意思と早く接触したいと考えている。軍は接触したいが損害を抑えながら進みたいと考えている者が多い。その差だな」

「飯田教授は政府を見ているという事ですか」

「そうとも言える。飯田教授のことを深く知らないのでこれ以上は言えない。根拠の無い個人批判になってしまう。君も気をつける事だ」

「・・・根拠の無い個人批判ですか・・・」

「我々学究の徒、いや普通に人間として避けなければいけない事の一つだ。それは自分の目を曇らせ、思考を逸らされる」

「・・・・・・」


 思い当たる事があるのだろうか。考え込んでいる。


「教授、ありがとうございます。考えてみます」

「そうしなさい。午後は出るのかな」

「今日は出ても頭に入らないと思います」

「そうか。出席扱いにしておく。よく考えなさい」

「ありがとうございます。失礼します」

「うむ」


 偉そうに言ったが自分もこれでいいのか迷う。まあ年上が偉そうに言うのは常だからな。

 飯田教授か。会合で会った事はあるが軍も使って調べてみるか。


この頃、ダンジョン学部の教員は半数以上が軍出身者で固められています。

民間出身者でダンジョンの深い階層経験者は少ないです。

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