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ダンジョン攻略

 ダンジョンは塔型は上へ穴型は下へ進む。

 1階層2階層3階層なら強敵もいないし地図も完成しているので日帰りで十分だが、3階層を超え4階層以降になると様相は一変する。

 頭痛がしそうな直径10キロの迷路型階層。ほぼ水面の階層。砂漠の階層。氷の階層。全面湿地帯の階層。密林の階層。密林を含む広大な草原。しかも出現階層はランダムだった。

 1層の広さもまちまちになっている。4層なら直径10キロ程度から直径40キロ程度までだ。天井の高さも5メートル程度から1000メートル程度と差が大きい。

 不人気な順に、氷、水面、湿地帯、迷路、密林となり、草原が一番人気が高い。もちろん攻略がしにくい順になっている。

 氷は危険すぎた。とにかく寒冷な環境で足下はよく滑るし、油断すれば凍死する。

 水面の水深はそう深くはないし島も有るのだが、船が必要で外部から持ち込まなければならない。落ちれば装備が重いので水死もする。

 湿地帯はジメジメして湿気がまとわりつき、足下が緩く泥に埋もれる。休憩所だろう乾いた地面は所々にあるが小さい。湧き水はありがたいが、湿地に流れ込むのを見ると・・・ここと氷が一番体力気力を奪う。

 迷路はマッピングさえ出来ればいいと思うが罠が問題だった。必殺罠は無いものの怪我は確実にする。

 密林はとにかく視界が悪い。どこからダンジョン生物が現れるか一番わかりにくい。視界以外は特に問題は無い。

 そういう意味では、小規模な密林が有るけれども草原が一番精神的にも体力的にも楽だった。


 ただダンジョン側の制限か迷路と氷と湿地は直径10キロだし水も直径20キロと、辛い階層は何故か狭い。全員、もっと狭くていいと思うが。楽はさせないという事だろう。

 それでも水は何故か安定して供給される。休憩できる広場もだ。完全に何らかの意図が有り、人間を最上層と最下層に誘っていると確定して考えられるようになっていた。




 綾瀬300メートル級大穴ダンジョン9階層。昭和34年11月。

 神田少尉は率いる小隊に命じた。


「ちょうど昼時だ。飯休憩とする。休憩時間は1時間だ。見張りの1分隊以外は靴脱げ。足を乾かして靴下も新しいの履けよ」


 湿地帯の休憩所にたどり着いた神田少尉が部下に命じている。湿った靴下を履き替えるだけでかなり快適で気持ちが良くなる。まだ目の前には湿地が広がるのだが。この先が目的地である中央休憩所だ。


 昭和32年4月にケニアのニャフルル400メートル級大穴ダンジョン5階層でドロップしたマジックバックはダンジョン探索を一気に変える衝撃があった。しかも、重量は重い物を入れてもマジックバックの重量しかない。1辺1メートルの立方体が収まる小さなバックを求めてケニアは探索者で溢れた。

 その後各ダンジョンとドロップを探索者協会が点検したところ、湿地帯にいる体長50センチのヒキガエルからドロップすると判明した。ニャフルル400メートル級大穴ダンジョン5階層も湿地帯だった。

 そして深い階層ほどマジックバックの容積が大きい事も判明する。7階層なら1辺2メートルのマジックバックが出る。

 これで湿地帯が人気になるかと言えば、苦手でない人間には人気が出た。

 そこに居るダンジョン生物を苦手としている人も多い。特に女性が。

 アマガエルくらいならともかくトノサマガエルやウシガエルやヒキガエルが苦手な人間は結構いる。そしてカエルを餌にする蛇も多い。そして皆でかい。湿地帯が不人気なのもそのせい。


 神田少尉たちの部隊もカエル目当てだった。

 神田少尉たちはマジックバックを手に入れるために派遣されている。皆、湿地帯はいやなので部隊指揮官のくじ引きで決めた。要するに神田少尉がババを引いたのだ。 

 神田少尉たちの部隊はダンジョン探索連隊でも数個しか確保していないクラス1の1メートルマジックバックを2個貸し出されている。クラス1でもマジックバックはそう簡単に出てくるものではなかった。カエル数百匹で1個か2個だ。各地で取り合いとなり軍といえども自前で確保するしかなかった。少数のマジックバックを各部隊で取り合っている。

 そしてダンジョンの深い階層で行動できる探索者は軍民とも多くはない。

 神田少尉たちの部隊は2個以上確保するように言われていた。9階層なら4メートルの立方体ではという期待もある。

 同時に10階層への階段を探すようにも言われている。神田少尉は考えるだけで憂鬱であった。



 マジックバックはありがたかった。乾いた手拭いで足を拭き乾いたところで乾いた靴下に履き替える。気持ちが良い。

 履き替えた臭い靴下と手拭いは、匂いが漏れ出ないように缶に押し込めテープで封をする。そしてマジックバックに仕舞う。

 マジックバックから衝立を出し地面を掘った穴を囲う。即席厠であった。何故かダンジョンでは生物以外の自然に帰る速度が速い。 

 もちろん夢叶える事無く帰還も出来なかった者たちも早く自然に帰る。

 だから穴を掘って1日たてば掘り返してもブツは残っていない。大量の大腸菌をダンジョンは生物と認めていないのだろうか。細菌を認めていないなら感染症の危険性は大幅に減る事になる。

 迷路型の階層では厠も存在した。かなり有る清流や清水の湧き出る泉や広場と合わせ、ダンジョンの意思は清潔が好きなのではという憶測も立てられれた。

 湿地帯を浅底船やゴムボートで進む事は上手くいかずに諦められた。深さが膝くらいから地面が所々顔を出す程度であり船底がつっかえて進まなくなる。苦行が増すので早々に諦めた。

 アメリカではファンボートを使おうとしたが、やはり浅すぎて使えなかったと聞く。

 歩兵の歩く仕事は永遠そうだ。


「休憩終わり。宿営地予定の中央休憩所まで一気に進むぞ」

「了解」


 兵たちの反応が悪い。精鋭といえど誰も苦行は嫌なのだ。

 14:00に現着。宿営準備を始めさせる。臭い靴下をマジックバックからだし洗濯をさせる。この探索で再び履くかもしれない靴下だ。


「分隊長は集まれ」


 小隊幹部が集まる。幹部と言っても前線で行動する小隊だ。小隊長の自分に小隊副官と分隊長しかいない。小隊副官はダンジョン以前には存在しなかった。完全に孤立する状態になった場合、ケツに殻の着いたような少尉では不安として小隊副官が正式な役職として作られた。比較的温厚な軍曹や曹長が務める事が多い。経験の浅い自分では到底指揮能力や部隊掌握能力でかなわない。階級をもって指揮を執るしかなかった。士官学校で教え込まれた対軍用の戦術や戦略はダンジョンではほぼ役立たずだ。


「皆ご苦労。さて、残念な事に今日出会ったカエルからは望むドロップが無かった。明日から探索を始めるが、本官はカエルを優先したい。皆はどうか」

「小隊長殿」

「佐久間曹長。言ってくれ」

「小隊長殿。もう少し威厳を出してください」

「無い」

「「「・・・・・・」」」

「小隊長殿。自分はカエルを優先したいと考えます」

「理由は」

「10階層へ行くには巨大な何かを倒さないといけないと報告が出ております」

「探索者協会でも各国の軍でも確認しているので、事実だな」

「海軍陸戦隊が佐世保400メートル級塔型9階層で10名以上の殉職者と倍する負傷者を出して撤退しています。奴らの練度は存じませんが同程度とすればこの部隊では到底勝てるとも思えません」

「はっきり言うな」

「皆命は惜しいです」


 曹長が見回すと頷いている。俺も命は惜しい。資料によると10階層へ行くには何か化け物を倒さないといけないらしい。その化け物が統一されていない。何が出るかわからないのだ。つまり初めて当たる奴が確認するしかない。その初めて当たる奴になりたくはないだろう。ここは水場だから地面のダンジョン生物とも思えないが。

 巨大な化け物は主と呼ばれている。


「だが、どこで当たるかもわからない。当たったら撤退するという事で良いか」

「小隊長殿、よろしいのですか」

「鈴木副官。はっきり言って自分も命は惜しいし、この部隊の規模では佐世保のような化け物が出れば勝てない。アレは2個小隊で当たってあの損害だ。だから逃げの一手だ。ただ、ここは300メートル級大穴ダンジョンだから佐世保よりもましとも考えられる。やれそうならやるが損害が出そうなら逃げる」

「逃げるはどうかと」

「言葉を飾ってどうする」

「小隊長殿がそう言われるのでしたら」

「では地図を」

「はっ」


挿絵(By みてみん)


 綾瀬300メートル級大穴ダンジョン9階はこの中央休憩所を中心に扇形に探索済み領域が有る。つまり自分たちの小隊は限りなく10階層への出口で化け物とぶつかる可能性が高い。

 ちなみにこの9階層ではまだマジックバックが出ていない。


「入り口の反対地点が一番危ないと思うが、皆はどうか」

「自分は正面奥のでかい地面が怪しいと思います」

「島田曹長はそう考えるのか」

「いかにも怪しそうです。大きさから位置から」

「しかしこの未探索域の陸地は近くから見ていない。観測しただけの推測地図だぞ」

「それで怪しいと考えます」

「そうか。他の者はどうか」

「はっ、自分も島田曹長と同じであります」

「同じく」

「では、ここは最後にする。左手の小島3個から探索して回る。次が右だ。マジックバックが出なければ、仕方が無いが奥の島をやるぞ」

「「「「了解」」」」



「グワ!」

「額田!」


 額田上等兵がカエルの舌に絡め取られ咥えられてしまった。

 

「島田曹長、曹著の分隊は左足だ。佐久間曹長の分隊は顎下を狙え。柳瀬軍曹の分隊は右前足。俺と鈴木は額田を助ける。衛生兵は島で待機だ」

「「「はっ!」」」


 二つ目の小島にたどり着いたときに、巨大なカエルと遭遇した。間違いなくこの階層の主だろう。体高2メートルのカエルか。

 カエルは湿地帯にいるのでぬかるみに足をとられながら小隊全員で倒しにいく。

 カエルは厄介だった。その柔軟で分厚い表皮に打撃武器は効果が薄い。刃物も表皮から分泌される粘液で滑る。だが、根気よく打撃で関節を狙い軍刀や槍で徐々に切り刻む。咥えられている額田上等兵も真っ青い顔色ながら最後の抵抗と銃剣で自分を捉えている舌をグサグサやっている。恐らく力が出ないのだろうか。残念ながら効果は無いようだ。

 20分後、決着は付いた。

 獲物(額田上等兵)をどうしても離さなかったカエルの戦術的敗北である。カエルが馬鹿で良かったとも言うが。

 小隊の損害は大きかった。

 額田上等兵はカエルを倒したあとで皆に見守れながら息を引き取った。

 衛生兵は「肋骨のほとんどが砕かれ他にも骨折多数と多量の出血で現状では生存の見込みなし」と診断した。「途中で拾ったポーションでは無理なのか」と聞くと、アレでは骨折を1カ所くらいがせいぜいで、骨折が治っても出血多量で持たないでしょうと言う。

 生きながら食われなかっただけ良かったと思う。

 他にも骨折4名と打撲8名、捻挫3名を数えた。

 二つ目の小島に10層へ続く階段を発見した。任務目標であるマジックバックの取得と階段の発見をした。

 任務完了だ。


「帰還する」


 誰も異を唱えなかった。



 昭和34年11月23日、神田小隊帰還。


 戦果

 マジックバック クラス4 1個

 マジックバック クラス2 1個

 他数個

 10階層への階段発見


 損害

 死亡1名  殉職

 骨折4名

 打撲8名

 捻挫3名



 神田小隊は日本で初めてクラス4のマジックバックを手に入れ10階層の階段を見つけた栄誉を得た。



ケニアのニャフルルという地名は実際にあります。

この頃には産出物は国際的にドロップという名称になっています。

探索済み領域があんな形なのは、みんな大物と当たりたくないので入り口からじわじわ攻めていったためです。


マジックバック

クラス分け 1辺のメートルによる

クラス1  1メートル

クラス2  2メートル

クラス4  4メートル

 

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