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ショウちゃんの楽しい異世界デート!  作者: 山下愁
ユフィーリアと遊園地デート
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【第1話】

「ユフィーリア、デートをしよう」


「お、ショウ坊から誘ってくるのは珍しいな。何かあったか?」


「ああ、貴女を素晴らしいところに連れて行けるようになったんだ。今回のデートのエスコートは俺に任せてほしい」


「素晴らしいところ? どこかの宗教の集会とかじゃねえよな」


「違うぞ、ユフィーリア。貴女が望むのであればそこへ連れて行くのも吝かではないのだが……」


「いやいい、あんなところは楽しくも何ともねえ。アタシはアタシが信じたいものを信じる主義だ」


「では着替えて正面玄関に集合してくれ」


「ちなみに聞くけど、どこに連れて行ってくれんだ?」


「夢の国だ」


「やっぱり宗教の集会か……?」



 デートの基本と言えば待ち合わせである。



「待たせたな、ショウ坊。ちょっと化粧で手間取った」


「…………」



 待ち合わせであるヴァラール魔法学院の正面玄関に姿を見せた最愛の旦那様の姿を見て、ショウの思考回路が停止しかけた。


 デートということもあり、彼女の格好は普段の肩だけが剥き出しとなった黒装束とは打って変わっていた。抜群のプロポーションを包むのは濃い青色をしたハイネックのノースリーブセーターと細身のズボン、やや大きめの黒い上着が彼女の華奢な肩を隠している。大理石の床を踏む足元は踵の低いパンプスを合わせており、美人な彼女らしい簡素でお洒落な服装と言えた。

 今日も今日とて最愛の旦那様は格好良すぎる。こんな美人がショウの生まれ育っ世界に降り立てば、きっと世の中の人間を魅了して止まない。実際、ショウはユフィーリアから目を離すことが出来なかった。


 ユフィーリアに顔を覗き込まれ、



「ショウ坊?」


「はッ」



 我に返ったショウは「ごめんなさい」と謝る。



「あまりにユフィーリアが綺麗で格好いいものだから見惚れてしまって……」


「それを言うならショウ坊も可愛いぞ」



 今日はデートということもあり、ショウも格好に気合いを入れたつもりだ。胸元を飾る赤いリボンが特徴的なフリル付きのシャツとハイウェストで穿くロングスカート、裾から伸びる足元はレースがあしらわれた靴下とストラップシューズで飾る。問題児のお洒落番長であるアイゼルネと相談し、上品で可愛らしく見える服装を選んだつもりだ。

 この格好であればユフィーリアをメロメロに出来るだろうと踏んだのだが、結果的にメロメロとなったのはショウの方である。何たる不覚だろうか。


 ユフィーリアは小さく笑い、



「可愛いから誰にも見せたくなくなるな」


「そ、それは困る。これから行くところは俺も前から行きたかった場所なんだ」



 ショウの主張を受け、ユフィーリアは「へえ」と青い瞳に興味の光を宿す。



「エスコートするって張り切っちゃいたが、そんなに行きたかった場所なのか?」


「ああ。元の世界では絶対に行けなかった夢と魔法の国だ」


「夢と魔法」



 ユフィーリアは小声で「そりゃちょっと興味あるな」と言う。


 確かに本場の魔法が中心となった世界にいれば、夢と魔法の国と聞いてピンと来ないかもしれない。特にユフィーリアは星の数ほど存在する魔法を手足の如く自在に操る天才だ。魔法が使える人間からすれば、ショウがこれから連れて行こうとする場所は物足りないかもしれない。

 でも、あの場所はショウが一度でもいいから行ってみたいと願った場所だ。元の世界では虐待の影響で訪れることは終ぞ叶わなかったが、せっかくのこの機会である。出来るなら好きな人と訪れたい。


 ショウはユフィーリアの手を取り、



「貴女からすれば興味はないかもしれないが、どうか付き合ってもらえないだろうか?」


「可愛い嫁にそこまで言われちゃァ、付き合わない訳にはいかねえな」



 ユフィーリアはショウの手を握り返す。その手はひんやりと冷たくもあり、優しい力加減で握られるのが心地よい。



「エスコートは頼むぜ、王子様」


「ああ、任せてくれ」



 ショウはそう言って、正面玄関の巨大な扉の脇に設置された通用口の扉を叩く。

 事前に聞いていたのは、この通用口の扉を叩くと目的地周辺のどこかの扉と繋がるらしい。帰るには同じようにどこかの扉を叩くことでヴァラール魔法学院に戻って来れるのだとか。日が変わる前に戻らなければ、強制的に転移魔法が発動されると説明を受けた。


 本当に繋がっているかどうか疑問だが、ショウは通用口の扉をそっと開ける。扉の隙間から喧騒が幾重にもなって聞こえてきた。



「わあ」


「おお」



 扉の向こう側に足を踏み出したショウとユフィーリアは、目の前に広がる光景に声を漏らしてしまう。


 どうやら通用口の扉は、駅の非常扉と繋がっていたようだった。駅から大勢の人が出入りしており、首からキャラクターの絵が描かれたバケツを下げていたり頭に動物の耳を模したカチューシャを装備していたりと浮かれ気味な格好をした人を多く見かけた。

 周辺に高い建物らしいものは一切なく、遠くに見えるのは尖塔をいくつも擁する立派な王城だ。実際に王族が住んでいる訳ではなく、ショウが目当てとする夢と魔法の国のシンボルとして有名な建物である。


 目の前に広がる自分の知らない世界に、ユフィーリアは「え?」と声を上げた。



「ここどこだ? 通用口に転移魔法でもかかっていたのか?」


「ああ、そうだ。神様とやらが粋な計らいをしてくれたんだ」



 ショウはユフィーリアへ笑いかけ、



「ようこそ、ユフィーリア。俺が生まれ育った世界、日本へ」


「ここがショウ坊の生まれ育った世界!?」



 驚いた表情を見せたユフィーリアだが、同時に青い瞳を子供のようにキラキラと輝かせて「ここが……!!」と感動している様子である。常から異世界知識と称して元の世界の知識や文化を披露し、それを興味津々で聞いて実践してきたものだから訪れただけでも楽しくて仕方がないだろう。

 だが、楽しいのはここからだ。夢と魔法の国は恋人同士ならではのデートスポットだと聞いたことがある。叔父夫婦には連れてきてもらえず、かと言って学校の行事でも訪れることはなかったのでショウも楽しみだ。


 ユフィーリアの手を引いたショウは、



「行こう、ユフィーリア。今日という日を思う存分楽しまなければ」


「ああ、そうだな!!」



 明るい声で返事をしたユフィーリアを連れて、ショウは人混みに紛れて夢と魔法の国を目指すのだった。

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