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向宇市アナムネーシス  作者: 金子ふみよ
第三章
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日野出

 一人の男子生徒が走っていた。遅刻を急いでいるのではない。購買に行くのではない。逃げている走り方だった。彼は日野出。仮和明がヴァルネラ値の表を見た時に畝摘の下にあった名前だ。

(僕のアナムネの特徴をよく知っている奴だな)

 消しゴムのかすを丸める。アナムネと唱える。それは射撃の弾になる。彼のアナムネはまさに銃と言っていい。いいのだが、モデルガンにでもあるような形状かと言えばどこか未来ファンタジー的であり、しかも、弓というかボーガンと組み合わさったとも見えなくはない、そんなアナムネだった。

「僕に狙われたものは撃たれなければならない」

 日野の口癖である。

(そうやって僕はここで暮らしている。小遣い稼ぎをしている。僕を狙う理由に見当はついている。これまでの復讐だ。誰のかなんてのは知らない。どうして撃ったのが僕だと奴が知ったのかは知らないが、ここならなんでもありだ。貴廂の天蓋が何かさえ誰も知らないと言う。そのシステム関係者、その取引先、ネットワークで張り巡らされた組織間の関係、向宇市外に広がっていたとしても、なんだかよくわからないが、それでも夢が叶えられるなんてユートピアみたいな都市で狙撃されてしまえば、何をどうしたっても情報を収集しようとするはずだ。アナムネがデータベース化されている以上、撃つ系統を検索していれば適合しないはずがない。それでも、これまで手を出して来なかったのは僕の精度のせいだろう。データベース化されている僕の情報を見て、僕に手を出そうなんて奴はよほどの腕試しをしたいだけのバカか、情報を理解できない阿呆だろう。それが今回になって襲撃して来た。なぜ、今、この場所で、この三つの問いを鮮明にしなければならないが、一斉に片をつけられるものではないとも分かっている。今しなければならないのは、僕を狙っている奴をしとめることだ。上手くやればそいつから聞き出せばいい。ただ)

 状況が悪い。なにせ、

「アナムネ! 撃て!」

 今度の弾である輪ゴムは指でっぽうで行った場合よりかは飛んだが、それでも数メートルごときでしかなかった。アナムネを消失させ、疾走する。ポケットの中にも身の回りにも物体がないことはすでに確認済みだ。つまりは弾にできるものがないのだ。日野出のアナムネは何でも弾にすることができる。逆とも言えるが、日野のアナムネにとってあらゆる固体は弾だった。それがないのである。


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