新たな命と新たな仲間
ガイコツ達の動きが止まる。
静寂の中に、チビトロルが打ち鳴らす胸のビートが鳴り響く。
煽ってるのか??それは煽りなのか??
できれば血は流したくない。頼む、煽らないでくれ。
ガイコツ達は顔を元の位置に戻し、こちらへと歩を進める。
襲ってきたら無傷では返さんぞ。後ろのトロル達が。
ガイコツ達の骨の軋む音が聞こえる。
まずい…どう切り抜ける…!
ボクはチビトロルの胸ビートに共鳴する!
(ほら! 怖いだろ!! 逃げろ逃げろ!)
ーードンドンドンドンドンドンッッッッッ!
さあ! 剣を置いて逃げろ!! ガイコツども!!
「私たちの負けです!!」
ガイコツ2体がひざまずき、地面に叫びをぶつける。
「支援魔法がない私たちは雑魚同然です!! どうぞ、首をとってください!」
どうやら本気のようだ。
後ろのトロル達も困惑している。
戦うつもりで身構えていた。
「私たちは戦闘用の雑魚! 戦闘ができないなら、それは生きている意味が「ない」と同義!」
仕方ない許してやるか。
そんな軽い気持ちだった。
しかし、トロル達は違った。
後ろから感じる殺意の流れ。
やはり魔物の中の流儀なのだろうか。
…誰もトドメを刺そうとしない。
…ボク???
生死の選択はボクに託されているみたいだ。
ここで生を選んだら、魔物の中では腰抜け認定。
けどボクは人間、生かしてあげたい。
そして思いついた。
ボクが混合で取り込むこと。
ボクの中にいるトロルも一度死んだ。
そして中で生き返った。
これが正しければ、一度殺してまた生き返るのである。ボクの中で。
ガイコツ達を一瞥する。
彼らはボクを見上げる。
眼底からは覚悟がうかがえる。
燃えた家屋が崩れた瞬間。
彼らの頭も崩れた。
2つの亡骸を大きな両手で包み込む。
体の中に刺激が走る。
【キメラです。体の中に入れておける魔物は3体までです。1体過剰にいるため、ガイコツとガイコツを混合してもよろしいでしょうか?】
なに?? 3体まで?! 初めて聞いたルールだぞ!
後ろのトロルからしたらボクは今仁王立ち、勝利の余韻に浸ってると思われているだろう。
混合しても良いか?その真意はわからない。
ただ、早く決断しなくては。
…混合してくれ!!
目をギュッと閉じる。
力が抜けていく。
不思議と嫌な気持ちはしないんだ。
光の泡がボクから漏れ出て、塊になる。
ボクが目を開けた時、
トロル達がざわついた。
目の前には先ほどまでのガイコツ。
とは見違えるほどちっこくて、
愛らしい、
黒のケープに包まれたガイコツがちょこペタしている。
「ご主人様??」
ちっちゃいガイコツは喋りかけてきた。
先ほどとは明らかに様子が違う。
ボクはそこで理解した。
混合の本当の使い方を。
取り込んだ魔物は、他方の魔物に飲み込まれ、
新たな可能性を生み出す。
コイツは、ボクから生まれたのである。
(「ワタシとトロル、それにスライムは無事みたい」)
「き、きみはボクの味方で良いんだよね??」
よろよろと両手を広げて近づいてくる。
足にペトリと張り付いた。
「ご主人様ぁ」
足元に小さな命が張り付いている。
生き生きとした魔力を感じる。
「そ、そう!ボクが君らのご主人だ!!」
その返答を聞き、トロル達は騒ぎ始める。
胸を張りビートを刻んでいる。
喜びの舞だろう。リズムがアップテンポだ。
新たな仲間の誕生を祝ってくれているのだろう。
その時はそう思っていた。
隣のトロルが喋り出す。
「ヨウヤク、ゴ主人、ミトメタ! ミトメタ!」
なんのことか分からなかった。
後ほど体内のトロルに聞いたのだが
「フガー! 我、このトロルの群れで1番強かったトロル! 自由がなくなるからカシラはいやだ! そう断ってた!」
とのことだった。
だからコイツは1人行動してたのか…合点がいったよ。
ガイコツに返答しただけ。
まさかトロル達まで巻き込むとは。
そんなことは気にせずと、
彼らは次々に自分の名前を教えてくる。
「ワタシガ、ムギチャ!」
「ワタシ、ホウジチャ!」
「ワタス、リョクチャ!」
(「なんか聞いたことある名前ばっかだな…お茶飲みたくなっちゃった」)
(「フガ、我の名前はオチャ」)
そういえばこの子には名前があるのかな?
「きみきみ、名前はなんだい?」
同い年が少ない村だったから、こう言うのは少し照れくさい。
足にくっついたまま教えてくれた。
「トトノ、さっき神様が教えてくれた」
神様?
何を言ってるんだこの子は。
全員の名前が把握できたため、いよいよ本題に入る。
1番体格のいいムギチャ、コイツがトロル達の2番手なのだろう。
コイツの前に向き直り、さっと正体を晒す。
ほっぺを叩く。
ーーパチン!
ボクの本来の姿は人間なのだ。
人間の姿に戻った。
それと同時
トロル達はドワっと飛び跳ねた。
熱烈な視線がボクに集まる。
その後、すぐに落ち着いた。
許してくれるとは思わなかったが、見逃してくれると思っていた。
(「ワタシもいるしね、いざとなれば」)
(「フガー!」)
「アナタ、カシラヲ倒シテル。私タチワカッテル、ダカラ、カシラハ、アナタ。フガーーーーッ!」
敵意がないとわかり、安心した。
トロル達は再びビートを刻み続けた。
安心した瞬間、疲れの波が押し寄せて眠気がどっと襲った。
ムギチャとトトノが駆け寄ってきている。
ボクは眠い目を閉じた。
翌朝
(「…て! …きて! …おきて!! おきろヘルメスぅ!!!」)
ハッ!! 寝てしまった!!
レイナの声がなければ一体どれほど眠っていただろうか。
ボクの目覚めに合わせてトロル達が集まる。
「オ目覚?!」
「オ目覚?!」
大きな体に囲まれて影ができる。
朝日の下で彼らを見るとますますデカく感じる。
懐に飛び込んできたのは可愛らしいガイコツ、トトノだった。
この子は夜見ても怖くないだろう、愛らしい。
「ご主人様〜!」
「そんな呼び方やめてくれよ、ボクはヘルメスだおおお!」
「キャハハハ!」
…ボクの仲間に人間はレイナしかいない。
【ヘルメス・アドレア】
性別 男
年齢 15歳
職業 冒険者(の卵)
スキル 混合
内訳 レイナ、トロル、スライム
仲間
トロル・オブ・デス(トロル5体)
トトノ
イケメソガイコツときゅんかわガイコツで悩みました…どっちも欲しい…