誉
「敵襲!」
この日ダンジョンに激震が走った。
ヘビキメラの討伐を自分の手柄と勘違いした街のお偉いさん方は遂にトロルを討伐しに動いた。
しかし、トロルはもうトップではない。
トップはこのボクだ!!
兵士たちが次々に入場してくる。
「よし! まずはクロちゃんたち! いっておいで!」
ウルフ筆頭に襲いかかる。
ほとんどの兵士は太刀打ちできずに殺されていく。
「こんなんきいてねぇぞ!!!」
「なんで敵が増えてんだよ!!」
「うわ! ヘビだ!! 勝てるわけねぇ!」
蹴散らすウルフたち。
ーーぎゃん!!
そう思った矢先、部屋全体に巨大な炎が燃え盛る。
「おいポンコツ兵士ども、弱すぎやしないか?」
「ピーボック様!!」
「きた!! 伝説の傭兵だ!!」
その男はフロアにいるウルフたち魔物全てを焼き払った。
そのまま次の階層に進まれてしまう。
「くっ、やばいぞこれ」
「おれらがいきます!」
トロルたちは二階層に向かった。
「ほう、トロルか。もうボスかな?」
「ふがふがふが!!」
5体がかりでもピーボックは止められない。
彼の放つ高濃度の魔法に手も足も出せない。
しばらくの攻防の末、押していたのはピーボックだった。
トロルたちは疲弊し切っている。
(「ヘルメスくん! かわって!」)
レイナの声が聞こえる。
ーーパチン!
「トロルたち! あれ行くわよ!!」
「あれですね!!」
疲弊していたトロルたちはムクっと起き上がる。
ピーボックとその後に続く兵士数百人は悠長に身構えていた。
「いくわよ!!」
「「「「モンスターダンス!!」」」」
レイナは日本のロックが好きだった。
レイナの鼻歌に興味を持ったトロルたちはこっそり特訓していたのだった。
ーードシンドシン!!
ーーモンスターダンス!
ーードシンドシン!!
ーーモンスターダンス!
暴れまくるその様はまさにモッシュ!!
レイナの死の魔法も乱雑に放たれていく。
ピーボックはすでに踏み潰されて亡骸となっている。
やがてモンスターダンスが終わると二階層は真っ赤に染め上がり、血や肉塊の池ができていた。
レイナたちは笑い合う。
街の攻撃を防いだのだ。
「ヘルメスくん! ごめん! このまま行くね!! みんな!! ついておいで!!」
(「レイナありがとう! けど何するつもりなんだい?」)
レイナの掛け声に残りのウルフ達、トトノ、ペネロペがついていく。
レイナの目的地は街であった。
「私ね!! ずっとやってみたかったの!! こういう無双!! はー!! スッキリするわ!!」
いつの間に覚えていたのか、レイナの移動魔法で一瞬にして街まで来てしまった。
(「レイナ! 待ってよ! 止まって!」)
「ごめんね! もう遅い!」
街が見えると同時に、門に向かって魔法をぶっ放すレイナ。
旅人達で溢れかえっていたいつもの門は、一瞬にして腐卵臭と焦げた匂いで充満した。
「ぎゃはははは!!! しねしねしねー!」
レイナは錯乱などしていない。
乱雑に魔法を放つように見えて、ピンポイントで人に当てている。
それに続いてトロルたちも暴れる。
倒れた死体を執拗に踏みつける。
トトノは誰にも見えぬ速さで剣を扱い、スパスパと逃げた人間たちを切っていく。
そしてペネロペは強化されたコピーで彼らの分身をつくる。
まさにその様はモンスターダンス。
数多に複製されたレイナたちが街を赤黒い絵の具で染め上げていく。
「これはね! 創作活動なの!! 紅!!」
街のお城から多数の増援が来るのも虚しく、
城の出口から一歩でも出ようものなら、レイナのコピーに爆発させられる。
街中で人が逃げ回っている。
(「やめて!! こんなんじゃ!! 人の敵だ!」)
ーーピッ。
電源が落ちた。
「えー、めちゃくちゃいいところだったのにー!」
「あんたうるさい!! もう少し静かにできないの?!」
母親から怒られるレイナ。
彼女はヘッドディスプレイを取り外し、布団に飛び込んだ。
「あーあー、次はどの世界めちゃくちゃにしよーかなー」