ペネロペの命
「みんな死ねい!」
ヘビの口から毒霧が吐き出される。
まずい!!
逃げ遅れた傭兵がシワシワになって腐っていく!
ーーパチン!
スライムへと変身してヘビの足元に滑り込んだ。
幸い気づかれいないようで、ヘビはいまだに傭兵に向かって毒をぶつける。
「死ね死ねしねえ!! あはは!」
ペネロペ達は動けないし、ボクがやらなきゃ!
ーーパチン!
ヘビが一通り毒を吐き終わったのを見計らってトロルに変身する。
「おりゃ!!! この口、閉じろ!!」
大きな両腕を使って無理やりヘビの口を閉じる。
ーーギシギシ!
口を潰すつもりで思いっきり押しつぶす。
ヘビはもごもご何を言っているのか聞こえない。
すぐに尻尾をものすごい勢いで地面に叩きつけた。
ーーバタン!
閉じていたはずの口は消え去り、足元でオオカミがのたうち回っている。
「お、おまえもキメラか!! なんで人間が!!! くそくそくそ!! トロルなんて卑怯だろ!!」
オオカミは素早い動きでボクから距離をとり、こちらを伺っている。
傭兵達はほとんどが腐り果て、残りの傭兵は実力の差に狼狽えている。
「トロルうざ!! けどねトロルは遅いの知らねぇのか!!」
オオカミはボクの周りを走り始めた。
まずい!! 見えない!! 早すぎる!
「グギャッ!!!」
ボクの背中に一かじり!
背中に大きく傷がついてしまった!
駆け回るオオカミにトロルの動きは追いつかない!
「グルルルル!!」
また来る!
ーーパチン!
思わずスライムに変化する。
背中にオオカミを感じた。ギリギリだったのだろう。
「ははは! おまえトロルとスライム?? キメラ、無駄にしてるよお前! ビビってんのが馬鹿馬鹿しくなったわ!」
高笑いをして止めを刺しにきた。
ーーバタン!
なんと! オオカミは尻尾がヘビ、背中にはカラスの羽を生やした魔物へと変化した!
「すぐ殺してやるよ! そしてお前を食って強くなる! ほら! おまえも3体目を出してみろよ!! まさかいないのか??」
(「うざいわねあのヘビキメラ! いいよ! 変わって!!」)
ごめんレイナ、ボクも自分で魔物を倒してみたい!
キメラが音を立てて迫ってくる。
速い! 速すぎる! しかも飛んでいる!
ーーバキン!
爪を弾いたはずのボクの剣が折れてしまった。
そんなことボクに慈悲もなく、敵は追撃の準備をして間合いをとっている。
「おまえ!遅いよ!!弱いよ!!トロルよこせ!!」
距離が離れていたのにもう目の前!
尻尾のヘビとオオカミ、両者が口を開けて襲いくる!
折れた剣をどう使う!一応剣を構える。
近づく敵。
もう目の前!
……ムリムリムリ! レイナ! チェンジ!!
ーーパチン!
「任せなさい!!」
構えた姿勢を維持しつつレイナに交代!
「へっ…? 3つ目は人間?? 雑魚が! 舐めやがってぇぇえ!!」
「うるせぇぇえ!!」
レイナの手のひらには小さな火球が浮いている。
「死ね!!!」
ーーボチュン!! ビチャビチャ
ヘビキメラとの衝突寸前にレイナは魔法を合わせる。
ヘビキメラが爆散した後、遅れて降りかかる血液がもろにレイナに降り注ぐ。
ーービチャビチャビチャビチャ
「キャァァァァァァァァ!!」
ーーパチン!
あたり一面赤い雨が滴っている。
後ろのボタンたちが唖然としている。
またレイナの力を借りてしまった。
あんな魔物、ボクじゃ勝てなかった。
そうだ!!ペネロペ!!
ペネロペのもとに走って向かう。
「ペネロペ!大丈夫?!」
「大丈夫、じゃないみたい」
ペネロペはアイサに膝枕をされた状態で、薄い息を一生懸命吸っている。
「私を庇ってペネロペちゃんが…毒霧に…」
アイサは泣きながらペネロペのほっぺをさする。
ボクも何をしたら良いかわからない。人が死ぬって、どうしたらいいの?
ボクはペネロペを見続けることしかできない。
「ヘルメス、ワタシは死ぬ。置いていって」
「ダメよ!ペネロペちゃん!死んじゃダメ!」
アイサがペネロペの体を揺らす。
「ペネロペ!!死ぬなんて言わないで!!アイサも体揺らさないで!!」
(「ヘルメスくん!!混合!!ペネロペちゃんを混合にしてあげて!!」)
レイナの声でハッとした。
そうか!ボクが混合してあげれば!!
「ペネロペ!ボク…!」
言いかけて止まる。
まてよ、でもそしたらボクがペネロペを殺さなくちゃいけない。
しかも魔物に変えてしまう。
そんなのできないよ!
くそ!!どうしたら!
「ヘルメス…やっぱワタシ…生きたいヨ」
ペネロペがボクの袖を掴んできた。
涙を溜めた虚ろな目は今にでも閉じてしまいそうだった。
今できる最善の方法。それはボクにしかできない。
「わかった、絶対に生かせる」
そう言った後ペネロペはそっと目を閉じた。
アイサとボタンは泣いている。
ボクは、そっとペネロペを抱きしめた。
死んだペネロペは泡となってボクの体に入っていく。」
「キメラ、ペネロペとエキテケ、混合できる?」
【はい。ペネロペとエキテケを混合します】
体から力が抜けていく。それとともにボクの体から光の泡が漏れていく。
ボクから溢れた光の泡は集合しはじめる。
そっと目を開けると、目の前には
ペネロペが座っていた。
「え? え? え?? なんでペネロペちゃんが??」
「お、おい、今俺らの目の前で死んでたペネロペちゃんは?」
涙を流していたアイサとボタンが鼻水を啜りながら聞いてくる。
「ワタシ、生きてる?! でも変な感じ」
ペネロペの頭からはエキテケの羽が生えている。
「ごめんペネロペ。君を魔物に変えちゃった」
「ううん、命を与えてくれてありがとう。ワタシ、嬉しい」
ペネロペは泣きながら胸に飛び込んできた。
アイサとボタンはいまだに状況が理解できていない。