穏やかな日々 ①
◆◇ 第三十一章 ① ◆◇
アーサーがマデリンをダンスの相手に指名したという話しはあっという間に社交界に広まった。
そして今、マデリンがスィントン家にお邪魔している。
マデリンの説明によると、あの夜、アーサーと二曲続けて踊った後、アーサーに両陛下の元へ連れて行かれた。
勘のいい王妃は王族専用の休憩室に移動することを提案した。
そこで改めてアーサーは自分の気持ちをマデリン、両陛下に伝えた。
国王陛下はマデリンに確認をし、マデリンは承諾した。
「と、いう訳で、一夜で一年分位いろいろなことがあったのよ。」
マデリンは見るからにあまりにも想定外のことが起きて疲労困憊のようだった。
フェリシアはおとぎ話の王子様とお姫様の話しを聞いているようにうっとりしていた。
翌日はガーランド辺境伯夫妻とマデリンが召喚され陛下と王妃に謁見し正式に婚約が承認された。
「それでね、急なのだけど明日領地に帰ることになったの。」
「まぁ、本当? すぐにお妃教育を始めるのかと思ったわ。」
「お妃教育は明日からでもと言われたわ。でも、私は一度領地に戻ることを希望したの。私、王都に来るまでは引きこもり状態だったでしょ?でも、私は王都に来て前向きになることができたの。児童園のお手伝いはいい思い出よ。私が変わるキッカケをくれたのはフェリシアね。」
「え? 私?」
「そうよ。フェリシアから王都に来ないかとお誘いがあったから私は今ここにいるのだもの。まぁ、一回目のお見合いは王太子様殿下に振られてしまったけどね。」
「フフ、そんなこともあったわね。」
二人は思い出して笑った。
「私をここまで育ててくれたお継父様を始め家族と最後の時間を過ごしたいし、今まで何もしなかったから領地のことを知って領民と向き合いたいの。今の私ならできる気がして。。。。」
「素晴らしいわ、マデリン。」
「だから短期間だけど一度ガーランド領に戻ることにしたの。本当はもう少し王都に滞在してフェリシアとパルトの街を散策したかったのだけどね。急にこんなことになってしまったから。。。」
「そうね、それはちょっと残念ね。。。今後の予定はどうなっているの?」
マデリンは謁見の時に確認した予定を説明した。
年明けに婚約発表、新年祝賀会でマデリンのお披露目、翌日からお妃教育とのことだった。
「来年からは忙しくなるわ。」
マデリンはほんの一瞬複雑そうな表情をした。
「マデリンなら何も心配することはないわ。」
マデリンの表情を見逃さなかったフェリシアは彼女を励ました。
「・・・・・私、すぐに世継ぎを授かることができるかしら。。。」
「そ、それは。。。」
マデリンの言葉にまだまだあどけないフェリシアは即座に返すことができなかった。
「お母様は公爵家に嫁いでから子宝に恵まれずとても悩んで、周囲の言葉に肩身の狭い思いをしたと聞いたわ。」
マデリンは遠くを見るように言った。
フェリシアはハッとした。
そうだ、王侯貴族の結婚は政略だろうが恋愛だろうが
その先で待ち構えているのは家督の継続だわ。
将来国王になる方へ嫁ぐのなら
世継ぎを産むのは当たり前と思われる。。。。
フェリシアはしばらく黙ってしまったがわざと明るく答えた。
「きっと大丈夫よ。伯母様だってマデリンとエヴァンに恵まれたのだからマデリンだってちゃんと授かることができるはずよ。」
「そうね、悩んでも仕方ないわね。」
「そうよ、私はいつも前向きなマデリンが好き!」
フェリシアはマデリンの手を握った。
「フェリシア、色々お世話になったわね。これからはこんな風に二人でゆっくり会うことは難しいかもしれないけど王宮でも貴方が側にいると思うと心強いわ。」
マデリンは少しホッとしている感じだった。
「それは私も同じよ。王族に入ることにすごく不安があるもの。マデリンがいてくれるようになればいいとずっと思っていたのよ。」
楽しい時間はあっという間に過ぎマデリンはスィントン家を後にした。
フェリシアとアンナは門まで一緒に行き、馬車が見えなくなるまで見送っていた。
二人が戻って来るとフィルが片付けをしていた。
フェリシアの顔を見ると何か言いたげにニヤニヤした。
「フィル、ちゃんと片付けお願いね。どうしたの?何か言いたそうね。」
フェリシアがフィルの顔を見るとフィルは質問をした。
「マデリン様はお嬢様の従姉妹ですよね?」
「そうよ。」
「奥様側の従姉妹ですよね?」
「えぇ、お母様のお姉様のね。」
「奥様のご実家、すごいですね。」
フェリシアが何を言ってるの?という顔をしてると痺れを切らしたアンナが声を出した。
「フィル、口でなく手を動かしなさい。この後奥様にお客様がお見えになるのよ。」
「だって、アンナさん、奥様のご実家からしたら孫にあたるお嬢様とマデリン様が王室へ嫁ぐんですよ。すごいじゃないですか!」
「そう言われればそうね。」
アンナもすっかりフィルに乗せられてしまった。
「これから奥様に気に入られたいご夫人たちが増えるんじゃないですか。」
「こらこら、おしゃべりはそこまでですよ。早く片付けないと。」
部屋の様子を見に来たラッセルが現れた。
ラッセルはアンナとフィルに注意をしていると部屋の隅でずっと黙り込んでいるフェリシアに気づいた。
「お嬢様、どうされましたか?」
フェリシアはマデリンが来ることに気を取られ大事なことを伝え忘れていたのだった。
「あ、あのね、言い忘れてたことがあるの。」
フェリシアがおずおずと言い出すとアンナはピタッと片付けの手を止めた。
「明日、来客があるの。。。言うの忘れちゃってた。。。」
フェリシアが申し訳なさそうに言うと三人の顔には思いっきり「来客?」と書いてあるようだった。
「お嬢様、今、何と?」
ラッセルは腰を抜かしそうな体勢になった。
「だ・か・ら、明日私にお客様が見えるのよ!」
フェリシアはちょっとだけキレ気味に言ったが三人は気にせず驚きの声を上げた。
「な、なんと、お嬢様に来客が。。。」
ラッセルは嬉しさのあまり言葉を詰まらせていた。
「お嬢様もやっとお付き合いをなさるようになったのですね。」
アンナは嬉しくて泣きそうになっていた。
「ちょっと、皆んな大袈裟だわ。私だってもう子供じゃないのだから来客ぐらいあるわよ。」
仕事モードに戻ったラッセルは来客の詳細を求めた。
「王妃様とチェスター領に滞在した時にお世話になったのだけど、この間の舞踏会でもお会いしたのよ。いい機会だから招待したの。」
フェリシアは三人に「どう?すごいでしょ?」感をアピールしながら説明した。
「チェスター伯爵のご令嬢ということでしょうか?」
ラッセルが目を光らせながら確認するとすぐにフィルに指示を出した。
「フィル、厨房に行ったら料理長に伝えなさい。明日お嬢様の初のお茶会にふさわしいお菓子を用意をするように。」
フィルは二つ返事で食器を持って厨房へ向かった。
今度はアンナが言い出した。
「ラッセルさん、奥様のお客様が帰られたらこのお部屋も少し可愛らしい感じにしますね。お嬢様の大切な記念日ですもの。」
三人は本人よりもやる気満々のようだった。
「もう、皆んな恥ずかしいからやめてぇ。」
フェリシアは口を尖らせていた。
翌日約束通りミラがやってきた。
「フェリシア様、本日はお招きありがとうございます。」
フェリシアは楽しみでならなかった。
「素敵なお部屋ですわ。」
ミラは椅子に腰掛けると同時に褒めた。
フェリシアがアンナの顔を見るとアンナは満足そうにしていた。
二人がまだ何となくぎこちなく挨拶をしてるとお茶とお菓子がサービスされた。
お菓子はフェリシアが大好きなナッツの焼き菓子と果物の砂糖漬けがのせられたカップケーキだった。
「まぁ、美味しそう。」
少しお澄まししていたフェリシアだったが好物を目の前にしてつい声が出てしまった。
が、逆にミラも緊張が解けたようだった。
「本当に美味しそうですわ。見た目も可愛らしいですね。」
「さぁ、いただきましょう。」
フェリシアはお気に入りの焼き菓子を口にした。
甘い物は二人を和ませた。
「先日の舞踏会で王太子殿下とダンスを踊ったご令嬢はフェリシア様のお知り合いなのですか?」
ミラはマデリンのことを聞いてきた。
「知り合いというか、従姉妹なの。」
「まぁ、本当ですか?」
ミラは驚いて固まったままフェリシアの顔を見つめた。
「いいお話しになるのではないかしら?今頃王宮はバタバタしていたりして、フフ。」
フェリシアがサラッと言うのでミラは更にびっくりしてしまった。
「ええ?」
ミラは息を吸うのも忘れてしまいそうになった。
フェリシアはニコニコしていた。
「フェリシア様、驚くことばかりで心臓が止まりそうですわ。」
「フフ、大丈夫よ。」
「こうしてお話しを伺っていると私はとんでもなく失礼なことをしてしまっていたのですね。猛省いたしております。」
ミラは真顔になった。
「そんなに気にしないで。今思うとチェスター領滞在後から王太子様が変わられた気がするの。」
フェリシアは思い出すように話した。
「そ、そうでしょうか。」
ミラは不安そうだった。
「えぇ、そうよ。だからミラ様はそのままでいてほしいわ。」
「はい。。。」
ミラは今度はフェリシア自身のことを尋ねた。
「フェリシア様のご予定はもう近いのですか?」
「うーん、マティアス様のお話しだと王太子様の次とおっしゃていたから早くて半年後くらいかしら。」
フェリシアも自分のことは何とも言えないようだ。
「それでね、ミラ様、私とずっと仲良くしていただきたいの。」
「それはもちろんです。私は常にフェリシア様と第三王子殿下のお側におりますわ。」
「ありがとう。私が王室へ嫁いでもずっとお友達でいてね。」
「はい、もちろんでございます。」
ミラは感極まって目を潤ませた。
フェリシアの記念すべき初お茶会はミラとの親交を深めたものとなったのだった。




