花壇・厩舎 そして。。。2
◆◇第四章 後編◆◇
気をよくしたマティアスはフェリシアの手を引き厩舎の裏手に向かった。
そこには木製の小さな扉があった。
「向こうにもっと景色がいい場所があるんだ。」
扉を開けると青々とした芝生が一面に広がっていた。
「うわぁ、こんな広い場所があるのですね。」
「あぁ、ここは馬を放牧したり乗馬の練習をする場所なんだ。」
小高い丘まで歩いて行くと王都パルトの街が一望できた。
「どう?」
ワァと声を上げたフェリシアはしばらく街並みを眺めていた。
「すごい綺麗ですわ。こんな風に上から見るとパルトってとても賑やかな街なんですね。」
「近隣の国の中でも一番栄えている街がパルトだからな。」
「私はこんな素晴らしい所に住んでいるのですね。」
剣術しか知らないって言ってけど、少しは自国のことも理解しているのね。
フェリシアのマティアスへの好感度がググっと右肩上がりになった。
2人はしばらく王都の景観を楽しんでから来た道を戻り始めた。
「今度はウィザードも連れて来よう。フェリシア、ウィザードに乗ってみる?」
「はい、乗りたいです!」
「フェリシアはウィザードに気に入られているみたいだからな。」
「うふふ、とっても楽しみですぅ。」
マティアスは嬉しかった。
年下とはいえ女性と自然に会話することができるようになったこと。
その会話がお世辞ではなく心から楽しめること。
そして隣にフェリシアがいてくれるだけでトキメクこと。
「ねぇ、フェリシア」
マティアスが話しかけた時に悲劇は起きた。
フェリシアがマティアスに顔を向けた瞬間
グゥゥゥゥ~~ グルグルグルゥゥ~~
えええ~ ナニッ?
2人は顔を見合わせほんの数秒固まっていた。
こんな時にお腹が鳴るなんて!
顔を引きつらせていたフェリシアだったが唇は震え目には涙があふれ始めた。
こんな時淑女はどうしたらいいのー?
「で、殿下、も、申し訳ありません。きょ、今日はこれで失礼いたします。」
一礼すると一滴の涙が落ち乾燥していた地面の1点だけを濡らした。
そして下を向いたまま振り返り小走りで門へ向かって行った。
「あっ、待ってくれ。フェリシア待って。」
後ろから殿下の声が聞こえる。
早く馬車に乗らなきゃ!
あぁ、泣きたい泣きたい!
もう、私ったら、どうして恥ずかしいことばかりしちゃうの?
羞恥心で即死しそうだわ。
マティアスは追いかけた。
本気で走ればすぐ追いつく。
でも、追いついて彼女を止めてどうする?
落ち込んで泣いている彼女を振り向かせてどんな言葉をかければいい?
今一番顔を合わせたくないのは俺じゃないのか?
今は気持ちが落ち着くまでそっとしておいて欲しいのではないか?
彼は走るの止めた。
勝手にひとめぼれをして
勝手に呼びつけて
勝手に浮かれて
それなのに彼女が困っているこんな時に
気の利いた言葉ひとつかけてあげられないなんて情けないな。
マティアスはただ突っ立て
時折涙を拭いながら走っているフェリシアの後ろ姿を見つめることしかできなかった。
マティアスは握りしめた拳にぎゅっと力を入れた。
ごめん、フェリシア。