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パルトの杜児童園 ②

◆◇ 第二十四章 ② ◆◇


 翌朝、フェリシアはいつものようにアンナに身支度を整えてもらっていた。

「お嬢様、本当にお召し物はこれでよろしいのですか。」

「えぇ、今日は外でバタバタすると思うし、それにちゃんと着てみたいの。」


フェリシアが袖を通したくてウズウズしているのは王宮のお仕着せで、以前雨に濡れて着替えが必要な時に臨時に用意されたものだった。

「ほら、こうして襟元にレースとリボン付けたし最後に胸元にブローチをつければ王宮のお仕着せだとわからないでしょ?エプロンにも刺繍で装飾したし。」

フェリシアは得意になってアンナに説明した。

「まぁそうですけど。。」

アンナは煮え切らない返事をした後すぐに口を開いた。

「あっ、わかりました!殿下に褒められたのですね。」

アンナの鋭い突っ込みにフェリシアはしどろもどろになってしまった。

「えっ?いや、そう言うわけではないのだけど。。。もう、アンナったらどうしてわかるのよ。」


そう、アンナが言う通りよ。

あの雨に降られてしまいずぶ濡れになってしまった時

これに着替えたらマティアス様は喜んでいたのよね。

まぁ、本人は隠していたみたいだけど。


「もしかして殿下がお見えになるのですか。」

「うーん、施設の名前は聞かれたけどどうかしら。特に何もおっしゃってはいなかったわ。」

「きっとお見えになりますよ。驚かそうとしているのかも知れないですよ。」

アンナは何かを探していたようだか途中で手を止めた。

「お嬢様、襟元に付けるブローチですが青系のが見当たらないですね。いかがいたしましょうか。」

「何色でも構わないわ。前にお父様から頂いたエメラルドのでいいわ。」

アンナは残念そうに指定されたブローチを用意し、フェリシアはアンナが何故色にこだわっているのか不思議に思いながら襟元につけてもらった。


 

 まもなく出発の準備が出来たとの連絡が来た。フェリシアが玄関ホールへ行くとレイラが待っていた。二人は馬車に乗り込みパルトの杜児童園へと急いだ。

施設に到着するとすぐにマデリンもやって来た。三人は施設の職員と年長の子供たちと机を並べ品物を陳列し準備を進めた。


「だいたい終わったわね。私は飲み物の用意をするからフェリシアとマデリンは店番お願いね。」

レイラは一旦厨房に向かった。


男子の一番年長のエリクが門扉を開けた。

「マデリン、そんなに人は来ないから座ってましょ。ローラもエリクも座って。」

フェリシアはみんなに声をかけた。


「全部売り切れるといいわね。」

マデリンは期待を込めて言った。

「毎年少しは残ってしまうわ。お母様と私で買って邸へのお土産にしてるけど、今年のこの巾着はすごく素敵だから売り切れるかも。」

フェリシアとマデリンがおしゃべりをしているとローラとエリクは緊張しているのか一点を見つめたまま銅像のように座っていた。

リラックスするように二人に何か話しかけてあげたいなと思ったフェリシアだったが、いざ何を話せばいいのかわからず結局自分の胸の内に気持ちを閉じ込めてしまった。

すると空気を読んだかのようにマデリンが声を出した。

「ローラはね、とても優秀なのよ。教えたステッチを一度で覚えてしまうの。」

ローラは恥ずかしそうに下を向いた。

「お、お褒めいただきありがとうございます。マデリン様。」

「まぁ、ローラは刺繍が得意なのね。料理も上手だし素晴らしいわね。」

フェリシアも一緒になって褒めた。


こう言う風に話しかければいいのね。

やっぱりマデリンはすごいわ。


「そうそう、エリクは絵が上手なのよ。」

フェリシアは早速マデリンを真似た。

「そうなのね。もしかしてその絵葉書はエリクが描いたのかしら。」

マデリンの問いかけにエリクは緊張しながら答えた。

「はい、僕が描きました。」

「さっき陳列しながら素敵だなと思っていたのよ。せっかくだから一番最初のお客さんになるわ。」

マデリンは絵葉書が並べられている机の前に行き独り言を言いながら一枚一枚吟味した。

「せっかく王都に滞在しているのだから思い出になるのがいいわねぇ。あっ、これにしましょ。」


マデリンが選んだのはパルト中央広場が描かれていた葉書だった。

「ねぇ、エリク、これはいつ頃描いたのかしら。噴水の周りのお花が綺麗ね。」

「五月に写生に行きました。」

エリクは相変わらずぎこちなく答えたが、マデリンは優しく微笑んだ。


フェリシアはマデリンを目で追っていた。


建国祭が終わるとマデリンはガーランド領に帰ってしまうのね。

ずっとここにいて私の側にいて欲しいな。

見習いたいことがたくさんあるのに。。。


少しだけ寂しい気持ちになったフェリシアだった。


四人のささやかな交流が行われているとヒヒィーンと馬の鳴き声が聞こえた。

「この時間ならきっとカーライル伯爵夫人よ。」

フェリシアはみんなに知らせるように言うと同時に夫人が門から歩いてくるのを確認した。

夫人の茶系のドレスが秋を感じさせた。フェリシアはマデリンにレイラを呼んでくるように頼んだ。


「みなさん、こんにちは。」

夫人は園児たちに挨拶をした。子供たちも頭を下げて挨拶をした。


「カーライル伯爵夫人、いつもご協力いただきありがとうございます。母はすぐ参りますので天幕でお待ちいください。」

フェリシアは出品している物の説明をしながら夫人を天幕まで案内した。

二人が庭に設置した天幕に着くとタイミング良くレイラが戻って来た。


「カーライル伯爵夫人、今年もお見えになっていただき嬉しいですわ。」

「スィントン侯爵夫人、毎年ここに来るのが楽しみで。ホホホ。」

「いつもご協力いただき感謝いたします。」

「とんでもござませんわ。ホホホ。」


二人を見守っていたマデリンは昨日の話しを思い出したのかニヤニヤしていた。


フェリシアが施設の女の子と二人で夫人たちの飲み物を用意していると園前の道に大きな馬車が着いたような音がした。そして施設の入り口辺りがやたら騒々しく人が右往左往しているような感じがした。

すると聞き覚えのある声がフェリシアの鼓膜を刺激した。


「あれ?フェリシアはいないの?」


あっ、この声は!

まさか!


「ジョシュア殿下!」

フェリシアは天幕から飛び出しジョシュアの元へ向かった。


「フェリシア!」

ジョシュアはいつものように走ってきてフェリシアに抱きついた。

「まさか殿下お一人でいらしたのですか。」

フェリシアが質問し終わると同時に、門まで様子を見に行っていたエリクが引きつった顔で戻って来た。

「お、王妃様がー」

「えっ、王妃様?」

フェリシアはパニックに状態になった。その様子を面白そうに見ていたジョシュアはケラケラ笑い出した。


「エリク、メイシー院長に王妃様がお見えになったと連絡してちょうだい。」

エリクはフェリシアに頼まれると敷地内の教会に走って行った。


ワインレッドに金の刺繍が入ったドレスを着た王妃が一歩一歩近づいて来た。

「フェリシア、チェスター領以来ね。」

「王妃殿下にフェリシア・スィントンがご挨拶申し上げます。」

フェリシアが頭を下げると庭に出ていた子供たちも真似をして頭を下げた。


「フェリシア、みなさん、今日は祭りを楽しみに来たのです。そのような堅苦しい挨拶はいりませんよ。」


天幕にいた三人も王妃が来園したことを知り慌てて庭に出てきた。

レイラがフェリシア同様挨拶をしようとすると王妃はサッと掌を向けた。

「今し方フェリシアに言いましたが、今日の目的はバザーを楽しむことです。仰々しい挨拶は不要ですよ。」

王妃は続けた。

「侯爵夫人、お会いするのは謁見以来ですね。マデリン、いつぞやアーサーが失礼な態度で申し訳なかったわ。カーライル伯爵夫人も協力しているのですね。」


王妃は一通り声を掛けるとフェリシアにくっついているジョシュアを呼んだ。

「園の子供たちが作ったものよ。よく見て選びなさい。」

王妃は一つ一つ丁寧に見ていたが、ジョシュアはフェリシアの手を取り机まで引っ張って来た。


「あらあら殿下。」

フェリシアはついいつもの口調になってしまった。


ジョシュアは嬉しそうにリンゴジャムを見つめフェリシアの耳元に囁いた。

「ねぇ、これ、チェスター領で習ったジャムでしょ?」

「ええ、そうですわ。昨日、みんなで作りました。」

ジョシュアは目を輝かせながらリンゴジャムを手に取った。

「母上、僕はこれにします。」


王妃はジョシュアの手元をチラッと見てから絵葉書とクッキーを手にした。そして最後に刺繍を施したポーチをゆっくり見てひとつ選んだ。

「では、こららをいただくわ。」

そう言うと、後ろを振り返り目で合図をした。するとサッと女官が現れ会計箱にお金を入れた。


チャリーン


お金が落ちる音でガチガチに緊張していたレイラ、マデリン、カーライル伯爵夫人の三人の気持ちに余裕が戻ってきた。


「王妃様、いかがでしたでしょうか。子供たちが一生懸命に作りました。」

レイラは王妃に聞いてみた。

「どれもとてもよく出来ていますわ。みなさんよく頑張りました。」

王妃はローラを見つめながら子供たちの活動を褒めた。


その時、エリクに支えてもらいながらメイシー院長が現れた。

「王妃殿下、当施設に足をお運びいただきありがとうございます。」

「バザーが開催されると聞き楽しみにしておりました。子供たちの技術の高さに本当に驚かされましたわ。」

「子供たちには独り立ちできるよう常日頃から何か技術が身につくようにしております。」

「そう、それはとてもいいことだわ。院長、どうぞこれからも子供たちを宜しくお願いします。」

王妃は次の予定があるらしく馬車に戻ろうとした。


「王妃殿下に女神リライラのご加護があらんことを。」

「メイシー院長ありがとうございます。どうぞお身体を大切にご無理なさりませんよう。」

王妃は足が悪く歩きづらそうにしている院長を気遣った。


レイラは王妃を先導し王妃の後ろにフェリシアたちは着いて行った。その間ジョシュアはぴったりフェリシアの隣にくっついていた。


「ねぇ、フェリシア、それ王宮のお仕着せでしよ?」

ジョシュアはヒソヒソ声で聞いてきた。

「あら、バレてしまいましたか。」

「わかるさ。襟元を少しアレンジしてるみたいだけどね。」

ちょっとばかり得意になつているジョシュアは王宮にいる時と同じだ。

「さすがジョシュア殿下ですわ。」

「うーん、マティアス兄上の気持ちわかるなぁ。」

生意気な口調なジョシュアだが、フェリシアはそんなところも可愛いと思えてしまった。

「マティアス様のお気持ち?」

「うん、兄上はいつもフェリシアは何を着ても可愛いと言ってるけど、今日僕も同じ気持ちになったんだ。」

「はい?」

「お仕着せもフェリシアが着ると可愛いんだよね。」

「まぁ、殿下ったら。」


フェリシアが顔を赤くしている間に門まで来てしまった。

馬車の前には昨日見かけた護衛騎士の姿があった。


「王妃殿下、第四王子殿下、本日は私共の活動にご協力いただきありがとうございます。」

レイラがお見送りの挨拶をした。


「じゃあね、フェリシア、また王宮でね。」

「みなさんありがとう。この後も頑張ってください。フェリシア、また王宮で会いましょう。」

王妃とジョシュアは馬車に乗り込んだ。馬車の扉が閉まりフェリシアたちは頭を下げた。

馬の足音が遠のいたのをしっかり確認してから彼女たちは頭を上げた。


「フェリシア、王妃様がお見えになるのを知ってたの?」

レイラはフェリシアに確認した。

「いいえ、一言もおっしゃっていませんでしたわ。私も驚きました。おそらくジョシュア殿下から伝わったのだと思います。」

母娘(おやこ)の会話中カーライル伯爵夫人が突然入ってきた。

「王妃様も王子も王宮で会うみたいなことをおっしゃっていたけどフェリシア様王宮へ行かれているの?」

伯爵夫人の質問にレイラとフェリシアは「マズイ」と顔を見合わせた。

「ホホホ、行儀見習いみたいなもので。。。ホホホ。」

レイラがとぼけたのでフェリシアも真似た。

「そうなんですの。ホホホ。」

伯爵夫人は少し疑っている感じだった。

「そうなのぉ?まぁ、いいわ。」

伯爵夫人は急いでローラの元へ移動した。


「ねぇ、王妃様はどの柄を選んだの?」

ローラは伯爵夫人の圧に尻込みしながら指差した。ローラの人差し指はすずらんの花を指していた。

「私もこれをいただくわ。お願いね。」

伯爵夫人は王妃と同じ柄のポーチを選び侍女を呼んだ。侍女はお金を会計箱に入れた。


「さぁ、忙しくなるわ。」

伯爵夫人は独り言を呟きながら帰ろうとしたのでレイラがお礼を述べた。

「カーライル伯爵夫人、ご協力ありがとうございました。」

「いいえ、とんでもございませんわ、ホホホ。では、私は急ぎますので失礼いたします。ホホホ。」


カーライル伯爵夫人は嬉しそうにして馬車に乗り込んだ。

三人は夫人の後ろ姿を見つめていた。


「なんだか(せわ)しなかったわね。」

レイラがポツンと呟いた。

「本当ですね。王妃様がお見えになって緊張してしまいましたわ。」

マデリンも一息つくように言った。

フェリシアだけが無言だった。と言うのも頭の中は他のことを考えていたからだった。


嫌な予感がするわ。

ジョシュア殿下が来られたということは。。。。

あの王子たちだもの、黙っているはずがない。

きっと我も我もと順番にお見えになるに違いないわ。


「お母様、マデリン、私嫌な予感がするの。」

フェリシアは口を開いた。


フェリシアはレイラとマデリンに王子たちのことを話した。

「でも、協力していただけるなら私たちは平常心で対応すれば良いのではなくて?」

マデリンがクールに答えた。


イヤな予感は当たるもの。

実際はフェリシアが思った以上に大変なことが起こるのだった。



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